松茸ご飯ー虫抜きの技
八百新のおやっさん、御年83歳。元気で一年中、仕事場にいる。このおやっさんから始めて一昨日、「松茸、持ってかない?」と声をかけられた。おやっさんのこの言葉の意味は、「タダであげる」と言う意味ではない。寄る年波、舌足らずなものの言い方が多い方なのだが、私には大概、通じている。商売をしていてタダで人にあげることはないというのが前提にあるので、おやっさんの「持ってかない?」の意味は、「安くするから買ってかない?」である。こんなふうに声をかけられる時というのは、当然、おやっさんも私のことをかなり熟知してのことで、買いそうか買わなそうか、わかって言っている。阿吽の呼吸とでもいうか、私が振り向いた時は、60%は買うと言う決断のもとである。
かなり素晴らしい松茸。薄い箱に木の葉が丁寧に敷かれ、立派な松茸である。お値段を聞くよりも早く、「これで○○円でいいよ」と。諸事情があるので金額は伏せさせて頂くとしても、ショーケースの上段にある天然舞茸と変わらないお値段とでも言っておきましょう。そして、わかっていた。『虫入り』だから安価なのだ。よく見ると箱の隅に「虫入り」て、正直に書いてある。都会の人は驚くと思うが、キノコの産地では、虫入りは当然のこと。ただし、キノコ採りが上手な人は、虫が入る前に採って来るか、虫の入ったキノコは無視するかのどちらか。松茸やジコボウ(ハナイグチ)、アミタケなどの希少キノコは、虫入りでも売れるため、採ってくるのだろうと思う。虫入り松茸でたまに残念なのは、虫がいつ入ったかに寄る。長い間、軸の中に住み着いて食い荒らしてしまっていると、すかすかのボロボロで、余り食べるところもないのだが、おやっさんお勧めの今回の松茸は、虫が侵入直後で、それでも特別価格だったかに思った。ちなみに、同じくらいの量の松茸の箱が隣りにあったが、4万円というお値段だった。私が買ったのは、○が一つ少なく、さらに半分の金額だぃ。
さて、虫抜きが必要となると、私が知っている方法はキノコを水没させるという方法なのだが、おやっさん伝授の方法をやってみたら、これがまあ、とても良い方法なので早速、ここで公開しようと思った。ここを読んだ方、躊躇なく、安価な虫入りキノコを買われることと思う次第。
方法は、キノコをビニール袋に入れて密閉し、冷蔵庫で一昼夜置くだけである。画像のような細くて小さな虫が6匹出てきた。
おやっさんが言うには、虫が苦しくなって出てくるのだそう。私は、懐疑的。1cmほどの長さの、こんなに小さな虫が息をするのに苦しくなるほど空気がなくなるわけでもないと思っている。が、真相はわからない。苦しくなったから出てきたのならそれでも良い。とにかく、虫がいれば出てくるし、いなければ出てこないということ。そして、虫が抜けた後、周囲が赤茶色に変色するため、「味付け分量の醤油と出汁に浸して色を誤魔化せばいいぞ」と教えてくれた。なるほどね。食べる人にとっては虫がいたことすらわからないわけだ。また、この方法だと、キノコを水洗いする必要もないため、傘の裏側のスポンジ質の部分が水分でベッチャリならずによい。ただし、水洗いはしないが、50℃洗いはお勧め。理由は2つで、1つは、熱が加えられたためにHSP(ヒートショックプロテイン)が出て、組織が強化されるのと、もう一つは、水分の蒸散を防ぐために閉じていた気孔が熱によって開き、水分を吸収するから。これは科学的根拠に基づいているけど、条件が整わないと野菜などの洗いには少々キツイものがるが、キノコならわずか1分ほどで、周囲をぐるっと洗えてしまうので、水よりも汚れが剥がれやすくなる上、香りも良くなる。椎茸なども同様にすると良い。
今回は、松茸の香りをより強くするために2時間ほど、半日陰で干したのが幸いした。干物やキノコなどは日に当てるとビタミンDを取り込むため、これも無駄ではないと思う。お昼時を挟んで2時間、ベランダで日向ぼっこさせ、50℃のお風呂にざっと浸かった松茸よ!「今夜はお前の初舞台だぜ!」とか、話しかけながら、ワクワクした。
松茸ご飯にするための松茸は、包丁で切らずに、手で裂いてほぐすようにするのをお勧め。こうすることで表面積が広くなり、香りやエキスが出やすくなる。参考までに、お刺身などを切る時は、包丁をよく研ぎ、スパッとシャープな切り口にしないとドリップが出やすくなる。
炊き込む出汁だが、昆布の水出汁にする理由は、上品な味わいになる上、松茸の香りの邪魔をしないから。魚系の出汁はインパクトが強すぎて、せっかくの松茸の香りをもみ消してしまうため使用しなかった。好みの問題なので、そううるさくは言わないが。
材料(ご飯2合分)
・松茸・・・適宜
・昆布だし(水出しで半日)・・・水300cc+昆布5g
炊き込み調味料
・薄口醤油・・・大さじ1+1/3
・酒・・・大さじ2
・塩・・・一つまみ
作り方
1.松茸をビニール袋に入れてきっちり輪ゴムで結んで冷蔵庫で一昼夜置く。
2.昆布を分量の水に浸して水出し昆布出汁を作る。
3.松茸を半日陰で2時間ほど空気にさらす。
4.50℃のお湯を用意し、1分以内で松茸の汚れを洗う。
5.松茸の長さを揃えるように切り、断面から指先で裂く。
6.小ボールに「炊き込み調味料」の分量から大さじ1の薄口醤油と昆布出汁を少量取り出して、5の松茸を浸しておく。
7.米は炊き込む30分前に洗って浸水させておく。
8.7の米をザルに取り、良く水気を切ってから炊き込む鍋に移す。炊き込み調味料の残りと6の松茸をすべて米の上に乗せ、2の昆布以外の出汁を混ぜわせて炊く。
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