フィナンシャルタイムズによる日本経済の道標を市民感覚で咀嚼してみた
昨日、極東ブログ「フィナンシャルタイムズによる黒田日銀総裁評価とアベノミクスの道標」(参照)で引用されていた3月29日付けファイナンシャル・タイムズ社説の本文が気になり、該当記事を読んでみた。経済動向を掴んでいると訳なく読み取れる内容で、難しいことや目新しいことを言っているでもないという印象を受けた。が、よくよく読んでみて、文章が整理されているからか、違和感なく理解できたと思ったその内容が語りかけていることは、何かの覚悟を持てと言っているように感じた。また、第二次安倍政権が誕生した際、「この政権が麻生クーデターだったこと」と、「この政権の最大の敵は自民党内部」だと見破られていた事も思い出された(参照)。いずれにせよ、安倍政権ができること全てをやり尽くして努力した結果、「果報は寝て待て」ならいいのだが、その安倍政権をどこまで信じるか?政府と国民の信頼関係を問うという記事を再読して、くらくら目眩を覚えるようだった。
私なりにこの記事を実生活に照らして、少し咀嚼してみたことを備忘的に書いておこうと思った次第だ。
まず、アベノミクス三本の矢を思い出して見る。1)、大胆な金融政策。2)、機動的な財政政策。3)、民間投資を喚起する成長戦略である。
1)は、安倍政権が立ち上がった途端にその効果が出て円安・株高になった。このままを維持し続ければ、二年でインフレ目標率の2%は達成できると、新日銀総裁と副総裁は断言している。
2)は、国の借金をどうするかが課題だ。国債を増やしてこれまで何とかしのいできたが、今後はこの借金を増やさないで返済をしないとならない。1)で景気がよくなれば消費が増える。そこで消費税増税となれば、国の財源が増える。これを国債の返済に当て、復興や年金、健康保険などの財源となっていく。
3)は、言葉の通りで、長引くデフレで緊縮財政の民間企業や個人の投資が期待されている。これも、1)で景気が上向けば自ずと上昇するというのが基本的な認識だと思う。
さて、アベノミクスがこの通りに進めば問題はない。今のところは順調だとも言えるが、先のFT紙では「困難を伴う」と評価している。
どんな困難だろうか?
アベノミクスの三点について、概ね国民が支持し、現在のところ安倍政権の支持率は60%を上回っている通り、少しずつ経済政策への信頼度も期待も膨らんできたのではないかと思う。このまま行けば、本当に日本はデフレから脱却し、少しずつ経済成長しながら皆が働いて健やかに暮らせるのではないかという将来への希望も出てくると思う。これらの国民の気持ちを裏切らないために安倍政権はどうやったら乗り越えられるかをFT紙は次のように4点上げている。
- これから物価が少しずつ上がるんだという気風の醸成のために、財政赤字の解消と外国為替の購入。同時進行で、2%インフレ率を超過してインフレを押し上げた場合、日銀はその対応を国民に明示する。
First, the BoJ must act credibly, to shift inflation expectations. Its most potent weapons will be monetisation of fiscal deficits and purchases of foreign exchange. At the same time, the central bank must indicate how it will respond if inflation shows signs of overshooting its 2 per cent target. - 国債の償還期間の延長。長期的な債務によってインフレーションを助長する。
Second, the maturity of debt has to be extended. The longer-term the debt, the easier it will be for mild inflation to erode it. - デフレ終了後、政府の財政再建と民間企業の構造的な財政黒字の解消。
Third, the government needs a credible plan for fiscal consolidation, once deflation ends. This plan must not only focus on government revenue and spending. It must also eliminate the counterpart structural financial surpluses in the private sector. - 成長戦略のための構造改革。
Finally, the government must embark on structural reforms aimed at raising the trend rate of growth. That the present path is unsustainable justifies taking such risks. But the new policies might bring earlier disaster. Only close co-operation between the central bank and the government can deliver a good chance of success.
一見して、これら4点は政府の課題だが、1と2は正に今私達市民感覚と政府の一体感あっての政策である。ここに国民が一抹の不安を持つようなら、極論、アベノミクスは失敗に終わるという意味を持つ。ここは正直に向き合いたい部分である。
まず、1について日銀は、外貨を購入するために金融緩和を行うことで円安が進む条件を整え、政府は、財政赤字の健全化に向けて法整備や規制緩和を行なって個人や企業の生産性を高める。また、増税をして税収を上げる。
では、私たちの実生活上の気風はどうだろうか?個人の偏った見方で国民生活全般を言えるわけでもないので、個人的な印象では、インフレ政策によって生活の必需品が値上がりすると聞いても、家計が細り続けてきた結果、早々には買いに走らない。むしろ、財布の紐が緩まないように緊張している状態。この状態がいつ緩和されて消費がいつ活発になるかは未定。また、株価は多少上がっても、これまで損した分の一部を取り返したくらいの感覚かもしれない。現在の株価上昇は、外国人の投資家による売買が殆どで、日本人投資家が動いているようでもない。こういった気風の中での増税(見極めはこの夏、実施は来春から)はがっかり感だけを漂わすのではないだろうか。
では、この政府は、増税を見合わせることができるだろうか?
民主党政権時、三党合意で採択した消費増税である。しかも、民主党野田元首相が突然言い出した背景に、官僚の言いなり、操り人形などと揶揄されていた通りだとし、自民党はかつての右派政権である。官僚とともに国を支えてきたかつての自民党が野田増税案に反対するわけがない。
以上の背景と理由によって、インフレに向かう準備の整わない市民の心情とは裏腹に増税にひた走る自公政権であれば、国民のための政治をやっているというのは嘘で、官僚と閣僚がお互いの都合の良いようにしか政治は存在しないのだという証明となる。ここで国民との信頼関係は破綻することになる。
日銀の外国為替購入に関しては、逆風が海外からも吹き荒れている通り、中央銀行が外国債に直接介入するのを禁じているため、日本円が多く海外に流出することで関係国の為替相場が激変するというのである。
少し散漫になったが、以上は、1について政府が国民との信頼関係を保とうとすると、多方面から反対的な風が吹いてくるという実例である。
2について、十分な情報はないので少し触れておくと、国債と言っても色々ある。ここで国民との信頼関係で問題となりそうな点は、償還期間について政府内で意見統一されていない点ではないだろうか。一つには、長期償還となれば長きに渡って借金返済を国民負担させることになり、後の世代へのツケを残さないという主張がある。これをまともに国民が受ければ、国民信頼を裏切る結果ともなる。かと言って、増税によって債務を短期に償還できるとも思えないため、FT紙の指摘の通り、長期償還しか方法は無さそうだ。
3と4について、これはもうデフレ脱却後の話。なので、その時が来ることを待ちたい。
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