クリスマス商戦を迎えた中国のおもちゃ工場から思うこと
日本の各地ではクリスマスのイルミネーションが、美しく、夜の街を飾っているのではないだろうか。ここ諏訪でも、諏訪湖面に点々と散りばめられた造形が灯りとともに浮き上がり、夜になると美しい。そして、サンタさんがやってきて、子ども達にプレゼントを配ってくれる日が待ち遠しくなる。今でも忘れないのが、冬休み中に起こる数々の家庭行事にわくわくしたことだ。学校が冬休みに入るのは12月23日からだったが、この日を境に、クリスマスとお正月がやってきて、お年玉がもらえる。大した額ではないけど、普段お小遣いをもらったことのない私にとっては、本当にお年玉が嬉しかった。
23日は、母がクリスマスケーキのスポンジを焼く日で、翌日、私と弟が手伝ってバタークリームをホイップし、デコレーションをする日と決まっていた。普段は全く食べないような真っ赤なチェリーの缶詰や、銀色に輝く糖衣菓子アラザンをケーキに散りばめれば、もうもう、それでクリスマスが一気にやってきたものだった。クリスマスツリー用の木を花屋から買ってくるのは父の役目と決まっていて、その木を立てるための十文字の台も父のお手製だった。クリスマスツリーにチカチカライトを灯せば家中がクリスマスだった。そして、クリスマスのプレゼントと、普通は進むはずだが、我が家では、そこまでの事はしなかった。いつ頃からだろうか、クリスマスにはサンタさんがプレゼントを配るのだと何かで知ったのは。何かの本で知ったのかもしれない。驚かれるかもしれないが、本当にクリスマスプレゼントなるものを親からもらったことはない。だからと言って今更恨んでいるわけでもないが、自分の子どもにそういうプレゼントを与えるものだとはあまり思わなかった。それでも世間並みに、小学生の低学年の頃までだっただろうか、何か実用的なものをあげた。だからだろうか、子ども達には、もらった記憶が無いと言われた。その反動か、今頃になって、何か買ってあげるとしたらクリスマスにしようか?などと思うようになったのも事実だ。
昨日、外国製で何か、クリスマスプレゼントに良い物はないかとネットで検索していた時だった、中国で製造されているクリスマス用のおもちゃは世界中の75%にもなるという記事に目が止まった(参照)。この数字にはちょっと驚いた。世界中の子ども達に愛されているおもちゃの75%がいったい、どのような工場で作られているというのだろうか。ページをスクロールして見ると、あまり近代的な工場でもなく、ベルトコンベアーで効率良く作業しているでもないその様子にさらに驚いた。なんともリアルな画像で、皆疲れきった表情をしている。
冒頭の紹介文にそこで目をやった。おお、印象派で報道写真家として有名なドイツ人のマイケル・ウルフ氏であった(参照)。彼がネット上でちょと騒がれているというのは、文中に貼られたリンク先の日本の通勤ラッシュ時の人の表情を撮りまくった写真が、報道写真展2010「生活の部」で受賞し、注目を浴びていた(参照)。また、2chでもこの記事が転載されていたことも覚えている。
彼の写真を見て何を思ったか?現場での昼寝風景に開放感を感じるくらいなら、きっともっとあなたの方が疲れているかもしれない。私は、食堂で配給されるおかずが、工場で製造される人形のパーツに見えてしまった。いや、そうではないんだと気づいた瞬間、色々な思いが巡った。ふと、2006年から三年間、中国人の「研修生」と称す娘三人を預かったことを思い出した(参照)。
「研修生」というのは表向きで、実質的には出稼ぎというものだ。日中友好を名目に、中国から多くの若い労働者がこの地域に招聘された時期があった。景気がいいわけでもなかったし、労働賃金が安いと言っても、彼女たちは食の心配をすればいいだけで、アパート契約やガス水道・光熱費、往復の旅費、空港への送りは雇い主持ちなので、日本人を雇うよりも経費がかかった。が、幸いな事に、性格の良い子達で、仕事は真面目に働き、遊び歩いてお金を浪費することもなく、中国の親に仕送りもしていた。中国では中流階級の家庭の育ちだった。逆に、ひどく貧しい家庭の子ども達は、日本人の業者から選ばれなかったそうだ。理由はおそらく、それまでの経験から、盗みや誤魔化しなどの質の悪い問題を会社で起こしたりするからだとは思う。
後から「研修生」は表向きだと知ったが、当初から彼女たちがあまりにも熱心に仕事を覚えようとするため、名実共に「研修生」として、全く疑わなかった。帰国する頃までずっと真面目な勤務態度で、職場の日本人フタッフからも可愛がられていた。そして、帰国する頃、彼女たちから聞いた話に、帰国したら中国の製造工場では優遇されるということだった。それが一番の来日の目的だったようだ。腕次第では、給料もよいリーダー格になれるのだとか。へぇ、良かったね。そう思ったものだったが、その彼女たちが、ともするとオモチャ工場のライン管理者だったりするのだろうか。職場のグループリーダーだったりするのだろうか。もしかすると、中国の製造部門の「核」を日本が育てたのかもしれないと思うと、親心というのか、ちょっとばかり嬉しくなり、とても感慨深いものがあった。
話は変わって、昨日、こんな画像をネットで目にした。おそらく中国製品だろう。
彼らは、トイ・ストーリーの脇役の「ポテトヘッド」と呼ばれている芋頭のキャラクターだ。中に、キャンディーかチョコレートでも入っているんだろうか。いや、そんなことはどうでもよくて、上段の二人をよーく見て欲しい。左の子は目の位置が微妙に違う。右の子は、背の高さが違うし、顔や手の位置も微妙に他とは違う。もしかして、彼らは本来は、全部同じ外観でなければならないのではないか?どうなんだろう?そう疑問に思った時、先の中国の製造過程の画像の三枚目のお人形の顔が気になった。見てほしい。目がチト違う。製造途中だからかもしれないが、目が開いたり閉じたりするタイプのお人形によくある、ちょっとした不具合とでも言うのか。子供の頃、このお人形で遊んだ経験のある人には分かる、限定的で決定的な残念感を味わう部分だ。
中国製品の制度を疑って信用しない中国の例の娘達は、絶対に「Made in Japan」しか買わなかった。その理由は、中国製はすぐに壊れるからだと言っていたことを思い出した。ものにもよるが、確かに日本製ではあまりない電化製品の故障や、部品の数違いはよくある。
昨今の中国事情から、急成長にはそれなりの苦労が背景にあり、グローバル化し始めた中国とは言え、共産党の一党独裁制が変わったわけでもなく、国民への強権圧政には変わりない。日本の戦後の「産めよ育てよ」ではなく、中国なら「寝ずに作れよもっと」みたいな。中国人の所得から言っても、労働階級ではまだまだ低賃金だという。追い打ちをかけるように、その中国経済もヨーロッパ経済の低迷の影響を受け、次第に落ち込み始めている。最近では、都市部でも仕事がなくなってきていると知ったが、クリスマス商戦とはいえ、女工さん達にとってはやっとありつけた仕事の可能性もある。眠い目をこすりながらの作業や、横になって仮眠を取る姿を想像するに、不良品がいくつかあっても彼女らの責任とは言い切れない気がし、不良品ぽいポテトヘッドが愛おしく思えてならなかった。
因みに、日本ならチェック体制は厳しく、最終チェックで不良品が出れば落とされる。この最終チェックでの不良品に対しては管理不足を問われるため、担当部所や外注品なら該当の外注を呼んで引き取らせ、再生されて完成品として再出荷される。つまり、店頭で、外観で不良品が出るはずがないのが日本製だ。では、中国製はなぜ完成品でないものが店頭に出るのだろうか?最終チェックはないのだろうか。
仮に最終チェックで検品し、不良品が出たらどうなるんだろう。処罰として減給などがあるんだろうか。それらの事情は何か、時間があるときにでも調べてみようかと思うが、どんな社会でも個人に不利益なことは、ひた隠しに隠したくなるというのが普通の心理だと思う。結果、永年にわたって、堂々と店頭に不良品が並び、中国製品が向上しない原因になっているのかもしれない。もしも、そうだとしたら、圧力による労働は、給料をもらって職業人としての誇りを対価に就労するのとはわけが違う。
良い物を効率良く仕上げたらご褒美に、努力手当でも付けば張り合いなのになあ。
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コメント
初めまして。
星新一氏のエッセイの、確か昭和四十年代のものだったと思いますが、
「アメリカで日本人の作った橋やビルはとても優れているのに、アメリカには「日本製は粗悪品」という一般論がある。集めている四コマ漫画でも、空手家が手刀で鉄を切るが、鉄にはmaid in Japanの文字がある。これはどういうことだろう?想像だが、日本製のオモチャが粗悪品で、それが原因なのではないだろうか?」という感じの文章を読んだことがあります。
日本はこれを、どう克服したのか、ちょっと興味があります。
あと、1986年に古書店でバイトしたことがあるのですが、その店の主人が
「昔はインドから服を個人で輸入販売していたんだ。
インドの作りだから、一着が駄目だと全部駄目でリスクが高かったんだけど、面白かったなあ」
という話を聞いたことがあります。
インドはイギリスの植民政策(綿花製品)の餌食になるほどの歴史がありますのが、そういう意識がどうだったか、気になります。
投稿: てんてけ | 2012-12-12 17:04
てんてけさん、イランの絨毯や各国の民芸品的な事にスキルがあるというのも知っていますが、手先の器用さは日本人はピカイチかと思います。1980年代、アメリカ製のブローチをおみやげにもらった時、これはあかんと思ったのを思い出しましたが、工業製品にしろ、完成品の評点が多分低いのだと思いますが、金製のブローチで、ダイヤモンドをあしらう程原価にお金をかけているのに、表面処理は今にも指を怪我するかと思うような「バリ」が付いたままでした。感性の違いもあるかもしれませんね。
ところで、てんてけさんは、はてなの?
でしたら、お久しぶりとご挨拶するべきですね。
はてなで小さな可愛い焼き物の収集をされていたかに記憶しています。間違えでしたら失礼します。
投稿: | 2012-12-12 19:13
そうですよ。(^^)
投稿: てんてけ | 2012-12-13 19:59
料理ができない私ですが、クリスマス前なのでオーブンで
鶏肉料理に挑戦しようときたのですが、そうそう私の地元でも研修生がいますよ、みんな日本語が当然のようにできて性格も良くてこんなに優秀な子たちが農場で働いているんだから人件費が高くてすぐ辞める日本人を経営者が雇うハズがないと思いましたね、日本政府としては不法労働と密入国で治安が悪化するよりいいし、中国政府は親に仕送りできるぐらいの給料でいいし、お互いの利益が合致した
、という感じかな?あっそうだ我が家のオーブンレンジは
天板が無いんだった、どうやって焼こうかな。
投稿: アヤ | 2012-12-17 11:33
アヤさん、天板がないというのは、無くしたのですか?ちょっとした手間で自分で作ることができます。現に、パン焼き用に淵のない天板が欲しかったので、手作り品を使っています。画像はこちら https://twitter.com/godmother6/status/280867022349410304 よろしかったらご参考までに。
投稿: godmother | 2012-12-18 11:53