2012-10-09

京都大学山中伸弥教授、ノーベル医学生理学賞と研究の妨げとなる特許とは?

昨夜、出先で今回の受賞を知った。毎年、日本人は何らかのノーベル賞を頂いているが、今回は、京大の現役教授であったことになんとなく嬉しい気持ちを持った。どのような研究なのか、詳しいことは家に戻ってから調べてみた。朝日新聞が報じている「iPS細胞の山中氏らにノーベル賞 再生医療実現に道」(参照)は、科学的に詳しくない私にもわかりやすく書かれている。

皮膚などの体細胞から、様々な細胞になりうる能力をもったiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り出すことに成功した。難病の仕組み解明や新薬開発、再生医療の実現に向けて新しい道を開いた。

山中さんらはこの生物学の常識を覆した。突破口を開いたのが、ガードンさん。1960年代に脊椎(せきつい)動物で初めて体細胞からクローンを作製。オタマジャクシの体細胞から核を取り出し、核を除いた未受精卵に入れると初期化されることを突き止めた。

山中さんは、難しい核移植をしなくても、初期化できることを発見した。06年8月、マウスのしっぽから採った体細胞に四つの遺伝子を導入することで、様々な細胞になりうる能力をもつiPS細胞を作ったと発表した。07年11月にはヒトの皮膚の細胞でも成功したと発表。すでに特定の役割を持った体細胞を再び受精卵のような万能の細胞に戻す常識破りの成果だった。   

それまで「万能細胞」の主役だった胚(はい)性幹細胞(ES細胞)は、受精卵を壊して作る必要があり、受精卵を生命とみる立場から慎重論もあった。ヒトiPS細胞はこうした倫理的な問題を回避できる。

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 記事にもある通り、山中氏の今回の研究は、ガードン氏の発見があってこその成果だったということが伺える。また、山中氏が、ガードン氏(今回同時に受賞)が健在で一緒に研究を進められることを光栄に思っているという様子から、研究者の師弟の関係も思わせる。こういった連携で志を同じくする異世代、異国の研究者同士の絆は、私の想像以上に深く確固たる何かで結ばれているのではないだろうか。それだけではなく、切磋琢磨する部分もきっとあるのではないだろうか。先駆者としてのガードン氏の発見から、人類にとって更に貢献できる成果をもたらしたことが今回の受賞につながったのではないだろうか。

また、私がもっと喜ばしく思ったのは、山中氏の受賞を報じる中で、この研究に大きく貢献した高橋和利氏という腹心の存在だった。これを報じているNHK記事がそうだ。(参照)。

山中さんが初めて構えた研究室で大学院生としてともに研究に当たったのが京都大学iPS細胞研究所で講師を務める高橋和利さんです。      
高橋さんは体の細胞を受精直後のような状態に初期化して、万能細胞を作り出すという山中さんの研究テーマを実現するため、ひたすら実験を繰り返したと言います。受精卵を壊して作る万能細胞で特徴的に働いている遺伝子を探し出し、24の遺伝子を細胞の核に移すと体の細胞が初期化することを突き止めました。      
この24の遺伝子をさらに絞り込む過程で、高橋さんは、山中さんが講演などで「天才的なこと」と紹介するアイディアを持ち出します。      
24の遺伝子を1つずつ減らして細胞の初期化が可能か実験を繰り返し、初期化に本当に必要な遺伝子を確かめていくという発想です。これによって特定されたのが、iPS細胞を作り出す4つの遺伝子「山中ファクター」でした。      
高橋さんは、山中さんが絶大な信頼を寄せる共同研究者としてiPS細胞を実際の医療に応用する研究を続けています。

iPS細胞を作り出すための4つの遺伝子を見つけ出すための実験方法を発想したのは高橋氏だったということは、その方法だけでもノーベル賞受賞に匹敵するくらいではないかと感じた。これまで多くのノーベル賞受賞後の抱負を聞いてきたが、この感動は、2008年のノーベル化学賞を受賞した下村さんの時と似ていた。

 クラゲの発光体抽出の研究には大量のクラゲを検体として要したと、下村氏が話す中で、研究に必要な大量のクラゲ捕獲で活躍してくれたのは奥様やお子様たちだったそうだ。当時を思い出しながら懐かしそうに、楽しそうに語っていた。下村さんの腹心は、ご家族だったわけだ。この話を聞いた時、妙に人懐っこい普通の家の父ちゃんをイメージした私は、それまで思っていた、研究室に閉じこもった暗い研究者のイメージから開放された。「夢を叶えるコツはね、身近な物事に繰り返し問いかけることなんだよ。」と、教えてもらったような気にさえなった。本当にうれしく思えたのだった。

 それが、今回の山中さんからも同じように研究秘話のように伝わってきたのが何とも嬉しかった。この喜びの余韻がしばらく続いている内に実は、ちょっと知りたいことがある。

昨日ちらっと知ったのだが、この度の受賞で、米国の特許網に牽制をかける意味があるという考察だ。その意味とは、おそらくこの研究が更に人類に貢献できるように、また、実際の病気治療に早期利用されるための露払いではないだろうか。特許は、研究者にとっては痛いところだと思うが、どんな特許が妨げだったのだろうか?知的財産権が最近騒がれだしたことも相まって物を生み出す人には、そのことを守ることも大切であると同時に、それが相互関係で侵害し合う事にもつながるというのは人類の汚点でもあるように結びついてしまう。

追記: 「山中伸弥・京都大教授、ノーベル医学生理学賞受賞、雑感」(極東ブログ参照)に、欧州側から米国科学特許への牽制ではないかということについて言及があった。是非、参照されたい。

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コメント

どんな特許網が張りめぐらされても研究は自由にできるとしても、その研究開発にかかる費用を取り戻すためには、特許を使いたいのでしょうか。山中さんは日本への感謝を盛んに述べているので、日本企業での商品化で日本に利益をもたらしてほしそうですね。でも医療に関する商品化力は米国が圧倒的、どうしようもないかも。

投稿: tekukami | 2012-10-09 07:22

tekukamiさん、今回の中山さんとその研究の元になっているガードン氏の同時受賞から、アメリカ特許への牽制ではないかという考察です(ちょっと説明が足りなかったかな)。 今後申請されるであろう新規のものについての牽制という点です。

中山さんのインタビューで感じるのは、彼の背後には多くの難病を抱えた患者さんの治療に役立てたい思いです。なんか、そういう純粋なところから研究が広がったことは、患者さんに還元されるよう、社会も国も世界も一致点としたいと願うばかりです。

投稿: godmother | 2012-10-09 07:35

いつも楽しくはいけんさせていただいています。ところで文中に度々出てくる中山さんとは?

投稿: わんわん | 2012-10-11 23:03

わんわんさん、文中の「中山さん」は、人違いのようです。本当は、「山中さん」でした!訂正しました。

投稿: godmother | 2012-10-12 02:14

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