バーナンキ氏のこのところの発言から地味にショックを受けている
日本の動向について、なんだかいろいろと気になる毎日である。どれもこれも政治が不在のために起きている事と言って「見ざる言わざる聞かざる」を決めても、自分の心に嘘は付けない。不安や焦りという気持ちに恐れという弱さも自覚している。でも、そういった事から発する不満を政治で解決して欲しいと訴えるのではなく、もう少し建設的な意味合いから整理してみたい。
日本の経済停滞は1990年以降、20年も続いていると言われている。会社を営む側であるという立場から見ても、現場感覚としては将来不安としての材料は山積されている。なんとかこのデフレから脱出できないものかと、識者の意見やアメリカの動向などを追っている。なぜアメリカかというと、アメリカも日本と同様にこの道を辿っていたからだ。そ、ここで過去形となった。
25日、行われたアメリカ連邦公開市場委員会(FOMC)の終了後に、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が会見で、現時点でのアメリカ経済全体についてどう認識しているか語った(参照)。その中で一番注目していた点は、量的緩和についてだった。次のように発言が要約されている。
<金融政策は正しい位置にある>
FRBが実施してきた経済、および見通しに関する分析に基づくと、金融政策は現時点で、おおむね正しい位置にあるとみている。これは、FRBが追加措置を実施しないという意味ではない。FRBには当然、追加措置を行う用意がある。ただ、当面はおおむね正しい位置にあるように見えるということだ。
「金融政策が正しい位置にある」というのは、アメリカは昨年、QE1とQE2(量的緩和政策)を二度行なってきている。どんどんドルを刷って世界にばらまいたというあの政策だ。世界的なバランスから見ると、ドルが増えた事による影響で、インフレを起こした国もあれば、デフレに加速がついた国もある。日本はどうかというと、黙っていればデフレが深刻になる。と、突然インフレとデフレは景気の傾向を指す言葉についてだが、日本は今「デフレで深刻な状態」というのは、円高ドル安を指している。身近な例では、海外旅行で買い物をすると、円安の時よりも同じ物が多く買える。物によっては、輸入品がかなり安価になる。が、デメリットは、輸出では逆に利益が少なくなる。海外からは、日本製品は高くなってしまう。では、どうしたらインフレへと移行できるのか?計算上は次のようになる。
円とドルの換算率の求め方は簡単な計算だ。今の日本の円がざっと160兆円ぐらいで米国が2兆㌦と仮定すると、160÷2=80。1㌦が約80円となる。仮に、1ドルを100円程度の円安にしたかったら160兆円のマネタリーベースに40兆円を足して200兆円に増やせばいい。計算ではこういう簡単なことだが、市場には「期待」という空気で左右される難しさもある。ここで先のバーナンキさんの発言の意味が出てくる。その空気を醸成する一言が会見では含まれていたことが、重要なポイントだと思った。
「FRBには当然、追加措置を行う用意がある。」
この発言は、私の記憶では昨年の7月から言い続けている。
子どもが親にお小遣いをせびるとする。親はできるだけ子どもを甘やかしたくないので、直ぐには現金を渡さない。あるときは我慢もさせる。でも、いつも我慢ばかりでは欲求不満を起こし、時には親子関係も悪くなるじゃない。そこで、「本当に必要なものならいつでも買ってあげたい」とい言うと、子どもは親に安心感を持てるし、「そうか、今度は本当に欲しい物を頼もう」と、期待も裏切らない関係を保てるでしょう。そんな感じの狡猾さがバーナンキさんにはあると感じた。この例が分かりやすいかどうか疑問だけど、言いたいことは察しておくれ。
そして、彼はこの会見で日銀の失敗をばっちり指摘してくれた(参照)。
「我々は(日本のような)デフレに陥るのを回避した」。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は25日の記者会見で、米国は素早い政策対応をした結果、バブル崩壊後の日本のような長期の経済停滞は回避できるとの見通しを表明した。
バーナンキ氏はFRB入りする前の学者時代から、政策金利をゼロにした後も中央銀行はあらゆる手段を使ってデフレを防ぐ重要性を説いていた。FRB理事だった2003年には、日銀により積極的な金融緩和の提案をしたこともある。
25日の会見では「当時の私の見解は、今の我々の政策と完全に一致している」と述べ、FRBが早期に量的緩和など積極策をとったことが日米の違いを生んだとの見解を示した。
バーナンキ氏は「日本のバブルのほうが大きかったし、その崩壊の衝撃も(米国より)大きかった」と、日本の困難さに理解を示しつつも「我々はデフレ回避のために積極的かつ予防的に動いた」とFRBの対応を自賛した。金融システム対応でも、米国は公的資金を使った銀行の資本増強に素早く動いた点をあげた。
日本もあの時に金融緩和をやっていれば、今ごろはこんなにひどいデフレにはなっていなかったんじゃないの。と、言われたように感じる。かねてから日銀の金融政策の失敗だと識者からの指摘を聞くが、実際に緩和政策を思い切ったアメリカが実験を行なってくれたわけなんで、これを受けて日本はこれからどうするのかが気になる。いつまでも日銀神話を固持するものでもないと思う。 私がちらっと思ったことは、アメリカが緩和政策を行わないのなら、日本がインフレになる絶好のチャンス。だったが、そんなにあまくはない。
さて、その気になる結果だが、27日の金融政策決定会合後の記者会見で白川総裁は、がっかりな結論が判明した。毎日記事「日銀総裁:物価上昇1%、14年度にも達成の見通し」(参照)。これを2%にするだけでいいという意見はすでに、元日本銀行審議委員の中原伸之氏から出ていたのだが(参照)。\(^o^)/オワタ
ところで、現在、プリンストン大学の教授であるポール・クルーグマン氏について、私は少し誤解していたようだ。彼は、中央銀行に量的緩和を求めるリフレ派だとばっかり思ってきたが、月間VOICEの2月号の特集で扱っている記事ではこのように述べている。
日銀は、インフレ目標を持ち、実質金利がマイナスになるまで継続させ、財政出動を行う。今は増税を行うべきではない。
三年前のニューヨーク・タイムズのコラムで「いったん流動性の罠に陥ったら金融政策でマネーサプライを増やすことは絶対に無理だ。だから財政政策しか総需要を増やせない」という考えに転じたようだ(参照)。つまり、有効なリフレ策の前提条件が整わない以上、「流動性の罠」から抜け出すには財政出動しかないでしょ、という主張になったようだ。
これは、ミルトン・フリードマン氏(故人)の「日本は量的緩和を行えば短期間のうちに経済は拡張していく」という主張に反論したもので、クルーグマン氏とフリードマン氏のどちらの見方が正鵠を射ていたかは現実を見よということだ。
簡単に整理すると、中央銀行は不況時には政策金利を下げる金融緩和をし、景気が過熱状態になれば政策金利を上げて金融の引き締めを行っている。が、今の日本は、政策金利がゼロ付近であるにもかかわらずデフレ不況から抜けだせないでいる。中央銀行の手の内はもう無い。そこで、日銀はフリードマン氏の主張通り、公開市場操作で国債を購入する緩和をしたが、結果は今の「失われた20年」イマココ。前段の換算式の分母であるマネタリーベースを増やしても、資金需要の限られている市中銀行は、民間に資金を供給できない。中央銀行は、通貨をストックさせても意味がないということになる。
そのクルーグマン氏が、バーナンキ議長に「インフレを押し上げることで失業を減らせ」と助言をしたが、「非常に無謀だ」と跳ね返されたという話がある(参照)。このやりとりで私の頭は少し混乱したが、市場が安心するために一芝居打ったかに思った。そして、「FRBには当然、追加措置を行う用意がある」と口パクしてきたバーナンキ氏の狡猾さというのが潜んでいる部分だと後で悟った。頭のキレる人は違うなと、感嘆した。
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