日本が世界から撤退している件について雑感
原発の問題は、国の政策の根幹に関わる問題だということが、政府にはどの程度了解されているのだろうか、ということを深く疑問に思った昨日だった。そのきっかけは、トルコの原発計画を進めてきた東電が撤退を表明した後、新計画の提示を要請されていたにもかかわらず、その期限である7月末を過ぎても回答をしなかったため、トルコが単独交渉を打ち切る考えを伝えてきたのを知ってからだった。
始めにTwitterのクリップ47ニュース(参照)で知ったが、二時間後の日経「トルコ原発、加圧水型炉の検討要請 エネ相が日本に」(参照)が、少し詳しい。
【カイロ=花房良祐】トルコのユルドゥズ・エネルギー天然資源相は3日、日本と交渉中の原子力発電所の建設計画について加圧水型軽水炉(PWR)の検討を日本勢に要請したことを明らかにした。日本勢は東芝の沸騰水型軽水炉(BWR)を提案していたがBWRである福島第1原発の事故を受けて世界的にBWRの安全性のイメージが悪化。トルコ側が安全面を懸念した可能性もある。
アナトリア通信が報じた。PWRは東芝傘下の米ウエスチングハウス(WH)などが手掛けている。運営する電力会社も関西電力のほか、フランスなどにある。BWRの運営ノウハウを持つ東電は先月下旬、トルコの原発の受注を目指す“日の丸連合”から脱落を表明した。
ユルドゥズ氏は日本と単独交渉を継続するかについては明言を避け、先月末の両国の協議で「日本側は新たな提案をする用意があると伝えてきた」と述べた。トルコは日本との単独交渉について、日本が7月末までに交渉継続の可否を回答しなければ打ち切ると通告していた。
とは言え、この問題は、日本では、あまり大きく取り上げられている風でもない。私は、世界から日本が撤退するメッセージを送ったと受け止め、これは重大なことだと感じた。
文字面だけを見れば、東電は何をやっているんだということになるし、菅総理の支持率アップに利用するためのポピュリズムだとする程度の話かもしれないが、日本人なら分かるとおり、原発は戦後、日本政府が進めてきたエネルギー政策であるため、この責任は東電ではなく政府の問題だと思う。つまり、日本政府の外交問題であると思う。そこで、政府はどうするつもりなのかと考えていたが、そこへ、新成長戦略の中間見直しで「原発依存の低減」が筆頭に挙がった(参照)。菅首相の「脱原発依存」発言が思いつきにとどまらず、とうとう5日の閣議決定を待つばかりとなってしまった。
いきなりニュースに反応した事からスタートしてしまったが、菅政権の迷走ぶりは今に始まったことでもないため、何か新しい思いつき発言が出て来るたびに政府首脳陣との意見の食い違いなどが露呈し、困惑してしまう。これも情勢をいくらかでも掴んで理解しようという努力と思いたいが、なかなかすっきりとしてこない。それらの点を挙げて、整理したいと思う。
政府は7月末、復興基本方針を決定した。今後、10年間で23兆円をかけて復興してゆくというもので、最初の5年間を集中復興期間とて19兆円を当てることを決めた。そのうち6兆円は補正予算で既に措置が取られているため、13兆円の財源が気になる。
政府が打ち出している案は、政府の資産売却や歳出の削減と復興債権(赤字国債)の三本立てで、この復興債権を当初は10兆円だとして世間を騒がした。理由は、全て増税によるという考えだからだ。これは、リフレ派のアナリスト達をびっくり仰天させた。それどころか、政府の超党派によるメンバーなどが、長期デフレと円高の折では逆の効果となると反対した。民主党内でも反対の声を聞く中、結局、具体的な数字は盛り込まなかった。つまり、復興財源の確保ができないまま、復興基本方針も架空の話となった、と言っても良いと思う。
では、この財源確保のために第三次補正予算で話しがまとまるかといえば、無理だといえる要素ばかりが上がる。
岡田幹事長を筆頭に党執行部は、菅総理退陣後の新しい内閣体制で取り組むという姿勢を示しているにもかかわらず、菅総理は退陣する意思をはっきり表明したわけではないという姿勢だ。この問題が尾を引いている間に何を言われてもまず、前に進まない点が大きい。
そして、増税問題だ。党内でも超党派でも反対意見が多くある。そのほんの一例だが、新成長戦略会議では、法人税率の引き下げで企業の海外移転を防ぐ狙いを言い(参照) 税務調査会では、各種増税で復興財源確保するとまとめている(参照)。また、必ずしも日本経済の観点ではなく、選挙を遠目に見た、政局の利得問題に関心が大きいようだ。
この問題がそっくり参院という括りにも散布されると見ると、ねじれ国会の景色が見えてくる。復興基本法案自体が可決されるような見込みはないような気がする。
角度を変えて、菅総理から見てみると、菅さんが首相の椅子に座っていること自体が全ての問題を滞らせているようにも見える。だが冷静に見ると、これが民主政治の難点というべきか、正しい在り方なのかもしれない。流れはこうだ。
菅総理が自由に発言した結果、反対意見者が現れたため議論を展開することになった→結論を出すためには時間がかかる→復興を早く進めて欲しい市民にとって政府は、努力している姿とは映らないまでも、協議してる段階だと解釈する他ない。そして、何を復興とするのかもはっきりしていない中、原発依存を低減することだけは公然と放置されている。
原発をどうするかといっても、事故を起こした福島原発は、これから先何十年もかけて安全に安定した状態で保存するしかない。他の原発も同様に、直ぐに電力供給をやめても、安全に安定的に保つしかない。であれば、ストレステストや定期点検しながら電力供給し続けるという事ではないのかと思う。脱か否かの意味の違いはないと思う。突然やめられない理由はウラン燃料にあると思う。
ここで菅総理の「脱原発依存」発言がいかに空論かと思うが、一国の首相の発言としては重大だ。世界はそれに反応している。東電も、自社がこれから生き延びるために、電気を生み出さない会社になってどうするのかという問題になる。そこまで突き詰めずとも、原発に対する姿勢は対トルコで既に示してしまった。東電が撤退を決め、要求されていた更なる新案を提示しなかったことは、話を進める気がないという返事をしたことになる。この真相に政府がどう絡んでいるのか、その点が気になるが、菅さんの「脱原発依存」発言は、世界に日本が原発の開発意思のないことを示した撤退宣言でもある。
この言葉の重さを承知であるなら、政治家としての責任を果たしてもらいたいものだが、菅さんは、国民からの支持は17%しかない。どうやって延命するのかと思う。また、党内や野党からも辞任しなければ法案を通さないとまで言われている。伸子さんからは、「国会で泣いたら離婚するわよ」と言われている。もしかして、菅さんは、伸子さんが怖いだけ?
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