こんなに長く生きたなという機に、「どう生きたらいいかを考えさせる本」
昨日誕生日だった。長く生きたんだなあ、と思った。若い頃、年をとった時の自分を想像する時、身近な親や職場での上司、交友関係のあの人この人に自分の年老いた姿を重ねては、どんな年寄りになるのかと想像を巡らしていたことを思い出した。そうやって想像していた自分の姿はすっかり忘れてれてしまったが、それは、「どう生きたらいいか」など、これっぽっちも考えてこなかったんだなあということでもあると思った。もう手遅れだが、そう振り返った。
これとはあまり関係のない話だが、昨日次男が珍しく電話をしてきて、高校の時の挫折感からずっと不安でこれまできたことを明かした。どうやって生きて行くか、何も決められない自分だったこと。将来のために何かを決めなくてはならないという焦燥感に駆られて不安定な気持ちだったことなど、赤裸々に話しが弾んだ。それを聞くだけだった私だが、息子がこのような話がしたくなった理由は、ちょっとしたことがきっかけだったようだ。目の前のことをやるだけの、一見して些細なことから、自分がこれだと思うようなものが見つかるのかもしれないと思ったら気持ちが楽になった、と久しぶりに素直に喜ぶ気持ちになれたと言っていた。そして、これまでに聞いたこともなかったが、父親に、「諦めで何かをやめることは自分のためにならない」と言われたことの意味がやっとわかったと話していた。息子も成長したんだなと感じた。親が方向を決めたわけでもなく、たとえそれがどんな結論であれ、自分が決めたことの価値の重さではないかと思った。決めた本人だけが価値として受け取るもので、人の価値観で善し悪しが計れるのもではない。
![]() チャンピオンたちの朝食 (ハヤカワ文庫SF) カート,Jr. ヴォネガット, カート・ヴォネガット・ジュニア, 浅倉 久志 |
昨日、finalventの日記の「どう生きたらいいかを考えさせる本」(参照)で何冊か書籍の紹介があり、粋な計らいを感じた。「粋」というのも変かな。同年代として誇りに思えるような嬉しさだろうか。うまく表現できないが、昨日の息子の話も相俟って、親世代が子ども世代にできることなどあまりない中、食べ物で例えると、食べて欲しいなこれ凄く旨いよ、みたいなものを差し出しはするけど、食わせるのではないということと似ていることだ。難しいのは、好きなものだけを選ばせないための細工が、子育て冥利につきることだろうか。ともあれ、ヴォネガットの「チャンピオンたちの朝食」(参照)は、早速注文した。
小さい子どもの育て方になってしまうが、一つ言うと、親として履き違えやすいことがある。上に挙げた例とは逆で、幼い頃から物事の選択をさせることは、意志をはっきり持たせられるという考え方は的外れが多い。子どもに決めさせるような育て方で何が育つかといえば、やりたくない世界観を広げ、やりたい意志の芽を摘んでしまうことだ。子どもの頃は何でも進んで楽しくやったのに、と嘆く親も多い所以だ。やりたい事だけの芽を伸ばし、やりたくないことはしなくてよも良い世界を育ててしまうことに気づくべきと言いたいが、これが難しい。この難しさを克服しようと、悩んだり苦しんだりすることからは逃げられないのだと受け止めるしかない。そして、自分を悩ますものの正体に気づくのはずっと後の話になる。なかなかその時には気付けないものである。
息子の話から、「僕が能代で生活していた頃、仕送りされたお金が足りなくなるといつも追加で送金してもらっていたけど、決められた範囲でやり繰りするということ一つとっても甘かった。親には頼らないと決めた途端に不安になった。」と話していた。当時は、親として甘やかし過ぎではないだろうかと思い、息子の自己管理の甘さを指摘したことはあったが、そう言いながらも足りない分は足してあげた。それが甘いと自己評価もしながら暗中模索の子育てだったが、それがそっくり息子から返ってきたことになる。子どもから脱皮しようとしている息子の状態を振り返ると、一丁前に親に反発して親を批判できるような芽ができた頃から思うと、私よりもずっと早く訪れたようだ。
生き方を考えさせる本とは、読む側の自分の視点もあるが、著者がそれを意図して書いたというのを知って読むのも良いと思う。というか、この本は、こう読んだよという人の視点をヒントに読むというか。紹介の中に漱石の「明暗」も上がっているが、確かに最初に読む本ではないかな。漱石読みにはコツがあって、これこそ、ストーリーだけの面白さで読めてしまいそうな本であると思う。人の描写に込められた深みを感じ取るために何度も何度も読み返すが、自分の読む年齢によって、これほども違うのかと先日読んだ時に、改めて思った(参照)。
今回紹介の本は、おそらくこれから先そばに置いて、何度か読み返しながら味わって行く本になるような予感がする。紹介ありがとう。
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