2011-07-09

江沢民の死去にまつわる雑感(その2)

 7日、江沢民死亡説を完全否定する声明が中国外務省から出され、新華社通信から世界に向けて発信された(参照)。これを知ってますます江沢民の死去を確信してしまった私だが、仮に重態で危篤状態が続いているとして、亡くなったその時に報道されるかどうかは当然疑問符がつく。問題は、死亡したかどうかよりも、そのことをどのタイミングで報じるかだとはっきりしてきた。生きている人間を死んだとは報じないが、死んだ人間を生きているかのごとく装うことはあると思う。中国がやりそうなのは、何か都合が悪ければ黙っているし、言葉になる時は何かに利用する時だという事を思うからだ。江沢民の死を公表すると何にとって都合悪く、公表する時は誰が得をする時かと、中国情勢を読むにはそこから入るしか方法はない。そして、これほど中国に関心を持つ私は、単に臆病者だからだと思う。事の成り行きを確実にしたいという現われだと思う。
 昨日、中国のことを考えながら記事を拾ってみたので、先日の「中国江沢民元中央軍事委員会主席の死亡にまつわる覚え書」(参照)の続きとして、記録的に書いておこうと思う。
 あまり疑わなかったことの一つに、中国経済が思ったほど良くないのかもしれないという点がある。逆に、良いのかもしれないと思っていたのは、先月、知人のホームパーティーに呼ばれた時、信州大学を卒業したばかりの中国人の青年と話す機会があり、彼の話から今の中国を想像していた。
 ホストである友人は酒造会社の経営者で、この春、卒業と同時にこの中国人青年はこの会社に就職したばかりだと話していた。その彼に、最近の中国の暮らしはどうかと尋ねてみたら、中国の暮らしはかなり良くなってきている点や、政府に逆らったりしなければ多少の抑圧はあっても暮らしに不自由しない点などを挙げていた。彼の日本での就職は、いずれ中国で事業を始めるための修行のつもりだということだった。日本の酒を中国で販売するルートにでもなるのかもしれないと思うと、夢と言うか、将来の希望があってよろしい事だと素直に思った。
 出稼ぎで来日している中国人というイメージ自体が既にもう変わりつつある事をこの時に思い、中国経済は目覚しい発展を遂げていると実感した。この時、生活水準の高い日本というのは神話化しているのだと感じたが、中国の経済発展は既にピークを過ぎているというような見方も一方にはあると、具体的な例で知った。中国のバブルがいつはじけるかと言われているのも耳にするが、その辺をファイナンシャルタイムズの日本語訳、「中国経済の減速懸念、人民元相場の重しに 」の記事で詳しく解説している(参照)。
 この内容から、中国は対ドルでペッグ制(参照*1を廃止してから人民元が上がり続けていて、内需が増加することで輸入と輸出(今までは制限あり)がバランスを取れば、中国の収益の差異は今より小さくなるという話しがある。アメリカのQE2によるドル造幣でドルが上がっている中、中国の人民元もじわりじわり上がってきていることが頷ける。それというのも、中国が2010年6月からペッグ制の廃止をしてから、人民元が、ほぼ安定的に5.3%上昇するのを容認してきたということだ。この記事の最後にこうある。

大きな未知の要素は、世界的に金利が上昇し始めた時に中国に何が起きるか、だ。弱気筋は、それが中国からの大量の資本流出をもたらし、不動産市場の崩壊を引き起こすと考えている。今は、誰もそのシナリオについて心配していない。だが、それが起きた時は、すべてが白紙に戻る番狂わせが生じる。

 中国が「弱気節」だとい文脈は、この記事の冒頭にあるが、じっくり読んでみて、最後のこの部分に抵抗なくすとんと落ちるものがあった。
 もう一つ、中国は輸出制限で自殺行為をやらかしたと思う展開が見られた。8日のレコードチャイナは次のように報じている(参照)。

 2011年7月6日、中国紙・経済参考報は、世界貿易機関(WTO)の紛争処理小委員会が、中国が9種類の鉱物資源について輸出規制を行っていることに対し、WTO協定に違反するとの判定を下したことを受け、「欧米の次なる標的はレアアースだ」と報じた。
 紛争は米国や欧州連合(EU)、メキシコが2009年に訴えていたもの。輸出規制が違反とされた鉱物資源はボーキサイト、コークス、ホタル石、マグネシウム、マンガン、シリコン・カーバイド、シリコン、黄リン、亜鉛の9種類。中国側はこうした規制は国内の資源保護が目的だと主張していたが、WTOはこれを証明する証拠がないことを理由に主張を退けた。

 この9種類にはレアアースは含まれていないが、輸出制限自体にこのような判断が下ったため、今後はレアアースに絞ってアメリカが有利に動こうとするのではないかと、それを牽制するような記事になっている。
 記憶では、尖閣諸島沖で中国漁船と日本の巡視船が接触事故を起こした時、中国から突然レアアースの輸出制限に関する表明があった。あの時は、中国のやり方に呆れたが、それは自ら首を絞めることになるという世界からの批判はあった。5日のファイナンシャルタイムズ社説では、輸出制限は愚だとして、中国の外交には辛口口調だ(参照)。

 レアアース輸出制限は中国のシェア低下を招く中国のレアアースの輸出制限が好例だ。中国の低い人件費と環境基準は、事実上、同国を独占的な供給国にしているが、中国国内に眠っているレアアースは、世界の埋蔵量全体の36%にすぎない。
昨年、中国が輸出制限に動いたことを受け、他国は今、レアアースの調達先を別の場所に求めている。長期的には、中国の行動がもたらす正味の影響は、利益の大きいレアアース市場でのシェア低下だ。

 昨年、菅さんが何かのサミットで訪米中、早速インドの代表とレアアースの共同開発を確認し、インドからレアアースを取り付ける折衝を済ませている(参照)。直ぐに品切れというわけではないが、このように、中国だけに頼らないという姿勢は各国に現れ始めていた。
 こうして見てみると、アメリカの量的緩和政策の効果と、自ら取り決めた輸出制限によって輸出先を失う方向になり、次第に首が絞まって苦しくなっているのが中国経済ということだろうか。
 江沢民の死去に話しを戻すと、仮に死去しているとして、それをいつ公表するのかの決め手に、先の二つの理由だけでは十分とは言えない。それを満たすのに、政局問題がある。経済が減速しても中央共産党がしっかりした足腰があれば問題はないはずだが、これを揺るがす材料があるとすれば、胡錦濤国家主席や温家宝首相の地位を狙うものがいるか、共産党に変わって国を治めようとする他党の出現などではないかと思う。
 大きな可能性は前者で、来年秋の第18回党大会で行われる予定の最高指導部人事だと思う。胡主席の後任は、既に習近平に予定されていると言いたいところだが、江氏が死去したとなると胡氏には遠慮がなくなる。つまり、習氏のような家柄だけの脳タリンに中国は任せられないと言い出さないとも限らない。それでなくても中国は今、バブルがいつはじけるかと世界から注目されてもいる。ここでもう一踏ん張りやるか、と、胡氏の野心がむっくり起きるかもしれない。
 共産党は、3大派閥と言われる胡錦濤国家主席が率いる「共青団派」と次期指導者と予定されている習近平国家副主席を中心とする「太子党グループ」、江氏を支柱としてきた「上海閥」である。江氏が死去したとなると、胡錦濤氏と習近平氏の派閥争いに発展する可能性はあると思うが、それはそれで別に問題はないじゃないかと、中国に疎い私は思う。
 ここに権力を誇示しようという綱引きのようなものがあり、江氏の存在が重要になってくるのであれば、普通に考えれば、胡錦濤氏が習近平氏にトップの座を譲りたくないということかもしれない。
 ただ、そういう番狂わせを狙って政局に奔走すると、中央が脆弱に映り、民衆が黙っていないと思う。それこそ中国がひっくり返るのではいかと懸念する。


*1) 自国の通貨と、米ドルなど特定の通貨との為替レートを、一定に保つ制度。

ペッグ制は、貿易規模が小さく、輸出競争力のある産業をもたない国等が、多く採用をしている。これらの国は、貿易を円滑に行う等の理由から、自国の通貨を、貿易において結びつきの強い国の通貨と連動させさせている。ペッグ制によって、自国の通貨と特定の通貨との為替レートは一定に保たれるが、その他の通貨との為替レートは変動する。
日本をはじめとする主要国は、ペッグ制ではなく、変動相場制を採用している。

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