読売社説が推す、南スーダンに自衛隊を派遣する事について雑感
普段は、深夜に公開される各紙の社説などは殆ど読まないが、「南スーダン PKO部隊派遣へ検討を急げ」という見出しが気になり、読んでみた(7月3日付・読売社説)。
日本が震災被害で各国にお世話になったお返しに、国際協力という立場で自衛隊を派遣したらどうかという内容だ。国際協力という立場でいうなら、国連加盟国としてPKO参加は当たり前のことではないかと、社説で言われていることはごもっともだと思うのだが、スーダンに関心を持ってこれまで考えてきた私には複雑な思いがある。というか、社説の筆致があまりにも軽く、比喩に持ち出されたハイチ復興支援と同列の扱いで、しかも「復興」の文脈で終始一貫している事が気になった。スーダン情勢を見ると、必ずしも「復興」だけで関われるとは思えないものを感じる。気になる点を、記事を拾いながら書き留めることにしようと思う。
帰属をめぐりスーダンと争っている油田地帯を除けば、南スーダンの治安情勢は、おおむね安定的に推移している。ただ、治安は変化するため、常に情報収集に努めることが大切となる。
陸自は昨年2月以降、震災被害を受けたハイチに、施設部隊など約350人を派遣している。がれきの除去や道路の補修などで、着実に実績を上げてきた。
陸自として、2か国へ同時に施設部隊を派遣する余裕がないのであれば、地震発生2年となる来年初めにもハイチから撤収し、南スーダン派遣に切り替えるのが現実的ではないか。
ハイチでは、復旧・復興が進み、陸自でなく民間でも可能な土木作業なども増えている。陸自派遣に代えて、政府開発援助(ODA)を活用するのも一案だろう。
新たな国づくりが始まる南スーダンは、道路や施設の整備が大幅に遅れており、陸自が活躍する余地は大きい。現地調査など準備に必要な期間を考えれば、派遣の検討作業を急ぐ必要がある。
この内容に一々文句をつけると、それは自衛隊の派遣を断念しろということになりかねないので、迂闊に批判もできないと二の足を踏むが、「南スーダンの治安情勢は、概ね安定的に推移している」というのは、何が根拠かと不思議に思う。
先日バジル大統領は中国を訪問し、胡 錦濤国家主席との会談で、中国から今後の支援を約束されたが、スーダン南北の争いを沈め、平和的に話し合うこともその条件だったようだ。この仲介にアメリカは密かに期待し、逮捕状の出てるバジル大統領の外遊を見て見ぬふりをした理由でもあるとは思う。この辺りの分析は、先日「バジル大統領中国に旅をする-雑感」(参照)でも触れた。
希望的観測として、スーダン政府の数少ない支援国である中国に釘を刺されたわけであるし、中国は自国の利権のためとは言え、これ以上死者を出すような戦争はやめるよう仲介したともいえる。その期待を少し持ったが、2日、産経が共同通信の記事を引いて「南部勢力と「戦闘継続」 スーダン大統領」(2011.7.2 12:42産経)で、早速バジル大統領の声明を取り上げている。
スーダンのバシル大統領は1日、スーダンの南コルドファン州で6月上旬に始まった政府軍と、南部スーダンのスーダン人民解放軍(SPLA)と関係する武装勢力との戦闘について「この地域を一掃するまで軍事作戦を続ける」と述べ、戦闘継続の姿勢を示した。ロイター通信が伝えた。
南部スーダンは9日にスーダンから分離独立する予定で、独立を前に双方の緊張が高まる可能性がある。南コルドファン州は北部スーダンにとどまるが、SPLAの関係勢力が残り、対立の火種となっていた。
この記事で二点、思うことがある。その一つは、中国から平和的な解決を促されたバジル大統領の権力基盤に油田の確保というのは欠かせないことであるため、簡単には手を引かないという点だと思う。が、係争していたアビエイ地区に関しては、非武装としてエチオピア軍がPKOとして駐留するすることが既に合意している。
もう一点は、南部の軍内部の問題だ。
SPLAとは、スーダン人民解放軍の略称で英語表記はSudan People's Liberation Army となっている。南部独立のために北部と戦ってきたグループであるが、この一部が今もなお北スーダンに属する南コルドファンで反乱を繰り広げている。
このSPLAに内在する不満が反発となり、南部独立のその日が近づくというのに油断できない状態だと2日、BBCの「South Sudan's enemy within」でも詳しく伝えている(参照)。
「南スーダンの敵は、内部にいる」とは何事かと、この記事を読むのに複雑な思いはあった。油田の多いアビエイが非武装地帯となった矢先に今度は南部かと、この国が如何に複雑で難しい問題を抱えてるかだと思う。
記事によると、南スーダンの予算の四分の一がSPLAに吸い取られ、それは健康や教育に費やされる予算の三倍に当たるようだ。そのSPLAと戦ってきた南部の反政府軍の一つであるSSLA(South Sudan Liberation Army )との間で、度々戦士が入れ替わりしているという。このような話を知ると、国のために戦っているとは思えない。南部独立が間近だというのに、新しい戦闘服と銃を配給されて喜び勇んでいる戦士の姿から、滑稽なものを感いる。こういっては何だが、それくらいの知性しかないのかと思うと戸惑った。が、よくよく考えると、スーダン紛争は21年間に渡っているため、現在の若い兵士達は、戦うことが生きることであり、そのために教育されてきただけではないかと思うと、戦争のない世界を知らないで育っているだけである。心情的にはそれがとても切なく悲しいことでもある。
BBC記事では、南部の軍が反乱を起こす要因として、抑圧されてきた兵士に内在する不満についていくつか挙げているが、最後にSSLA の広報官、Bol Gatkouth Kolの考えを次のように報じている。
"Many of them were suppressed in the interest of South Sudan's independence, but they are beginning to surface as 9 July approaches.」
"Unless the SPLM becomes more open and governs more inclusively, these grievances will fester and lead to more rebellion."
「彼らの多くは南スーダンの独立のために抑圧されてきた。しかし、7月9日が近づいて、それらは表面化し始めてきている。
「SPLMが、さらにオープンに包括的に治められなければ、これらの不満は腐敗し、より多くの暴動に通じるだろう。」
自衛隊派遣の意味や意義をどうしたものかと思うと、例えば、自衛隊員の家族として送り出すにも、ハイチへ送り出すのとはわけが違う。政府には、スーダンという国や情勢を良く知った上で判断してもらうしかないが、自衛隊がスーダンで出来ることは、読売が軽く語っているようなことではいような気がする。
追記:なんだか、社説を毎日チェックしている「finalventの日記」では絶句状態?でしょうか。取り上げられているようです☞こちら
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