2011-07-14

アメリカとパキスタンの気になる動き

 一昨日のTwitterのクリップ記事、「米国:対パキスタン軍事援助、大幅凍結…態度軟化狙い」(参照)が難しい。両国に関係す国を拾い上げると、もしかしたらこれは大きな転機ともなることではないかという気がした。実は、毎日記事を拾う前に6月24日、イランのラジオ局ネットニュースで、小さく取り上げていた「アメリカがパキスタンへの軍事支援を削減」(IRIB)で、既にアメリカが準備にかかっていたことは知っていた。なので、毎日記事は、それが現実的な展開になってきたことを報じているのだと察知した。過去に戻って背景を少し押さえた上で考えてみたいと思う。

 まず、毎日の記事で気になる点を挙げてみたい。
【ワシントン白戸圭一】米政府は「テロとの戦い」の同盟国として今年約20億ドル(約1600億円)の軍事援助を供与する予定だったパキスタンに対し、総額の4割に相当する8億ドル(約640億円)の援助を凍結する措置に踏み切った。

米軍のパキスタン領内での活動に「主権侵害」と反発するパキスタン政府は、米特殊部隊による国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の殺害(今年5月)を機に、米国の対テロ戦に非協力的な姿勢を強めている。米政府は軍事援助の一部凍結で揺さぶりをかけ、パキスタン政府の態度の軟化を引き出したい考えのようだ。

 この決断に至る一番大きなきっかけは、今年5月、アメリカ軍は、パキスタンに隠れていたビン・ラディン容疑者の家を見つけ出し、殺害したことだ。これに対しパキスタン政府は、「主権侵害」だと抗議したため、アメリカに対して非協力的な態度に変わった。これを軟化するための揺さぶりとして軍事援助を削減するという狙いがあったと解釈した。が、24日に既に支援を削減する考えを報じているため、記事の辻褄が合わないと思った。だから、揺さぶりをかける理由が他にあるのか、何か隠れた事実でもあるのかはっきりしないため、アメリカの意図が読めない記事だと感じた。そして、結果的には、パキスタン政府がそのアメリカを断わり、意のままにアメリカを相手取って得意になっているという文脈になり、中国の支援に頼る形で赤字をカバーで出来ると結んでいる。
 アメリカのこのところの経済状態を思うとかなり逼迫している上、8月2日までに決済されないと、債務不履行となる恐れもあるようだ(参照)。と、ここで私自身もアメリカの大義名分になる理由付けをしたいところだったが、ふと、この思考は、私の関心に文脈をすりかえる悪い癖だと思いとどまった。まずは、アメリカがパキスタンを切るに相当する理由をつきとめることが問題を解く鍵だと思い直した。
 まず、パキスタン側から。
 パキスタンは、中国という後ろ盾があるため、アメリカの態度に対して何ら困る様子もなく、非常に強気な発言をしている。

◇「影響ない」と強調…パキスタン
【カブール杉尾直哉】米政府による対パキスタン軍事支援の大幅凍結方針に対し、パキスタン陸軍スポークスマンのアッバス少将は11日、「我々は外部の支援なしに武装勢力掃討作戦を実施できている。大した影響はない」と述べ、強気の姿勢を示した。

 米軍特殊部隊のビンラディン容疑者殺害でパキスタン軍の威信は失墜した。その反発から、パキスタン軍は国内で米軍が実施している地元兵士の訓練縮小や、米中央情報局(CIA)職員の帰国を強く求め、軍トップのキヤニ陸軍参謀長も、米国の軍事支援を縮小する代わりに民生支援に割り振るべきだとの考えを示していた。こうした中での「支援凍結」表明は、パキスタン軍にとって、自身の訴えを米側が受け入れたとアピールできる機会となった。

 この記事だと、パキスタンは、端からアメリカの支援を必要としていなかったのではないかと思える。昨年来からずっと無人機による誤爆のため、パキスタンの民間人が死傷していることを伝えるニュースが相次いだが、中国との関係がどの程度、いつ頃から始まっていたのかは、かつてのインドとパキスタンの戦争以来といえばそうだろうと思う。深いつながりというか、戦友のような関係だろうか。
 さて、ここまで書いてみて行き詰まりを感じ、ネット上の情報を探し始めた。何を?アフガニスタン問題を抱えるアメリカにとっては不可欠なはずのパキスタンに「軍事支援の大幅凍結」を言い渡す理由がこの記事では不十分だからだ。それが掴めないうちは、間違った読みになるのは見えていると思った。また、6月24日、既にその用意をしていると報道しているように、何かが動き出していたに違いない。

♢ ♢ ♢

 模索しているうちに極東ブログで同じ問題を同じ視点で考察するエントリーが挙がった(参照)。まず、脱帽。そして、私が逆立ちしてもこの事態を読めないと思った理由に、パキスタンのISI(Inter-Services Intelligence)の動きが入っていなかったことだ。ISIというのは、印パ戦争当時にできた組織で、パキスタンでは最大の軍の情報機関だという位置づけだ。アメリカ政府は、ISIがアメリカにとって不利に働く組織だというしっぽを掴んでいるようだ。証拠ではないにせよ、引用されている記事を読めば動きは自然につながる。中でも、パキスタン政府とビン・ラディン容疑者との関係をすっぱ抜いたパキスタンジャーナリスト、サリーム・シャフザド氏の殺害事件は記憶に新しく、不可解な事件だった(参照)。加えて、この事件にもISIか関与している可能性を報じている。この疑惑から、ISIが実行したと睨んだアメリカ政府は、ISIの反米行動を阻止する必然が発生し、手始めにISIのトップのクビ切りを要求したとある。冒頭の毎日記事で曖昧だった部分がこれではっきりした。
 さて、問題はこれから先にある。パキスタンとアメリカとの関係如何では、イランの動きが気になってくる(WSJ)。また、アメリカ軍のイラク駐留延長の用意もあると伝えている(NHK)。さらに気になるといえば、ISIのパシャ長官が動き出している。
 極東ブログで推考された文脈に沿って産経記事、「米圧力に離反も パキスタン、米の軍事援助凍結に」(参照)を眺めると、風景がガラッと変わり、はっきりしてきた。

 こうした強気の発言が出る理由は主に国内事情にある。5月の米軍による国際テロ組織アルカーイダ指導者のウサマ・ビンラーディン容疑者殺害で吹き出した「米国の主権侵害」との論調を筆頭に、パキスタン国内では近年、米国不信が相当強い。

そこにきて、今回の米国の圧力。パキスタンではテロとの戦いにおける対米協力から手を引くべきとの声だけでなく、米国のかわりに中国との関係強化をもっと進めるべきとの意見が出ている。米国の影響力をそぎたい中国は12日、「パキスタンは南アジアの重要な国。引き続き支援していく」(中国外務省報道官)と応じてみせた。

ただ、米国と協調しての対テロ戦はパキスタンにとってもメリットが少なくない。必要以上に米国との関係を悪化させたくないのが本音とされる。

こうした中、パキスタン軍情報機関の3軍統合情報部(ISI)のパシャ長官は13日、米中央情報局(CIA)との対話のために米国に向かった。にらみ合いが続く両国関係に歯止めをかけることを模索するとみられる。

 ISIの長官が対話のためにアメリカに向かったと報じているが、アメリカ政府の圧力に対してISIがこのように突然出て来ることが不自然であり、何故CIAとの対話なの?という疑問がわく。
 この文脈に、先の極東ブログの推考を組み込むと、パキスタンにとっての「メリット」云々の文脈ではなく、ISIの長官の裏切り行為のケツをどう拭うのかが対話のポイントではないだろうか。ここで動かないままでは自分の首が飛び、支援凍結という制裁措置を取られる上、無駄にアメリカとの関係を悪化させることになる。これが、自らアメリカまで足を運ぶ理由ではないかと思う。
 つまり、アメリカとパキスタンの同盟関係に皹が入ったり、最悪、離反という展開にもならないのではないだろうか。その代わり、パシャ長官の首は免れないかもしれない。悪の根絶とはならないまでも、風通しは多少良くなるのではないだろうか。ちょっと気になったのは、この話にオバマさんが一切登場しないことだが、何かあるのだろうか。

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