2011-06-04

国連安保理はリビア政府と反政府軍の両方を告発した

 法律のことは調べても難しく、よく分からない点が多くある。ここで取り上げるリビアの戦犯に関しても、言葉使いによっては誤解や風評を招きかねない点が多分にあるため書くのをためらっていたが、私自身の疑問点でもあるので備忘として残しておこうと思う。
 きっかけは6月1日のBBC記事「UN accuses both sides of war crimes」(参照)で、Twitterでクリップした後だった。内容はタイトルにある通り「リビアの闘争:国連は戦争犯罪で両側を起訴する。」で、リビア政府と反政府の両方を戦犯で起訴するという内容だ。ここであれ?と思ったのは、国連は、反政府側も戦犯としてどこに起訴するのかという点と、カッダフィーを個人的に容疑者として起訴しない事だった。ここで凄く慎重になったのは「accuse」という単語だ。英語の動詞としては告発、告訴、非難する、責めるなどの意味として使う言葉で、裁判に持ち込む意味で使われる。国連は、罪を裁く機関ではない。では、国連安保理かとも思った。そこまでの効力を持ってはいないはずだという国連という組織の実効力が疑問になった。また、喧嘩両成敗みたいな判断が下ったということにますます混乱した。このきっかけとなったBBCでは次のように報じている。

UN investigators have accused government forces in Libya of war crimes and crimes against humanity.
Rights experts said they had found evidence of crimes including murder and torture, in a pattern suggesting Libyan leader Muammar Gaddafi was behind them.
国連の捜査官は、戦争犯罪と人道に対する罪でリビア政府軍を起訴した。
捜査に当たった専門家は、彼らの犯罪には殺人と拷問を含んでいる証拠を発見したと言い、リビア人のリーダー、ムアマル・カッダーフィがそれらの背後にいたと述べた。

The UN mission also said opposition forces were guilty of abuses that would constitute war crimes, although they were not as numerous.
また、国連派遣団は、反政府勢力についても、その数は多くはないとは言え、戦争犯罪をなしたと等しく有罪であると述べた。

 報道では、今まで両者が激しく攻防を展開していることを報じてきたが、どちらかというと、カダフィー率いるリビア軍の横暴として取り上げられていた印象が強かっただけに、国連の調査の結論は意外だった。また、リビアの反政府側が民間人の保護を訴えてきたことで国連が当初動いたということから、その当事者側を調査対象に置くとは思わなかったことだ。同記事では、カッダーフィ個人に対する告発ではなく、それが率いる政府とある。この辺の文章の解釈と実際は、国際法ではどういった扱いなのかという疑問を持ったため払拭したかった。Twitterでは短く書いたため、真意が人にきちんと伝わったとは思わないが、私の言葉に反応されたレスをもらった。

「国連安保理決議1970=人道に対する罪(戦争犯罪)の後が、決議1973=民間人の保護、飛行禁止空域等。」

 これについてじっくり考えてみたが、どうも話しが噛み合わない。私が解釈の的を得ているか曖昧だし、このレスの内容は当たり前のことだ。ここは、私も誤解していない部分で、問題はそこじゃない。先にも触れたとおり、国連が何処まで戦犯を問えるのかという点だ。言ってみれば、多数決で人の罪を決定付けるだけの実効力がどれほどあるのかを考えたかった。
 リビアの件はその具体例として取り上げてみた。

 国連安保理決議1970とは、3月18日、民間人保護のための武力行使を国連加盟国に許可する決議1973(参照)が国連安全保障理事会によって採択されたが、この採択の基準になっているのが1970で、1970ではリビア情勢にに関する各国の意見などが明記されている(参照)。議題に上げる原案が1970で、その決議案が1973という名称で呼ばれていると解釈して良いのだと思う。
 この1973が採択されてから直ぐにリビア政府への攻撃が始まった。この時、戦争を始めたと勘違いするような勢いで、民間人保護というのは名目で、実はカッダフーィ打倒が目的のような光景だった。これは個人的な印象に過ぎないが、いきなり爆撃だった。そして、後に凄く違和感を持ったこの1973の採択は、とても微妙だった。今回の決議採択で注目す国連安保理の構成は、固定の常任理事国5カ国(アメリカ、イギリス、中国、フランス、ロシア)のほか、非常任理事国が、インド、ガボン、コロンビア、ドイツ、ナイジェリア、ブラジル、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ポルトガル、南アフリカ、、レバノンとなっている。1973につていの安保理の決定は、5常任理事国すべての同意投票を含む9理事国の賛成票が必要だが、結果は大変微妙で、棄権した5カ国とは、ロシア、中国、ブラジル、インド、そしてドイツ。気を置いたのは、イギリスとフランスが軍事介入に積極的であったの対し、その同盟国であるドイツは棄権にまわり、しかも決議履行について軍事的に協力することを拒否したことだ(参照先国連安保理のプレス・リリース)。このことは別の機会に書きたいと思っている。
 さて、この採択と混同しそうになったのが、カッダフィー大佐と次男のセイフ・アルイスラム氏、義弟のアブドラ・アルサヌーシ氏の政権幹部3人について国際刑事裁判所(ICC)に提出された逮捕状請求の件だった。これは、5月16日の毎日で知った(参照)。

主任検察官は会見で、組織的で広範囲な市民への攻撃▽デモへの発砲▽イスラム教礼拝参加者への狙撃▽トリポリの刑務所での拷問--などを容疑としてあげた。
検察官は、セイフ氏を「実態的な首相」、アブドラ氏を「大佐の右腕」として、大佐を含め、3人が合議して作戦を直接指揮した疑いを指摘した。このほか、アフリカ系の外国人への強姦(ごうかん)や攻撃など戦争犯罪の疑いもあるとして、別途捜査を続けている。
国連安保理決議に基づく北大西洋条約機構(NATO)主導の多国籍軍のリビア攻撃は、「市民の保護」が目的で大佐自身を標的にはしていない。ICCが逮捕状を認めれば、国際社会が初めて大佐自身の身柄を確保する意思を示すことになる。

 話しが散漫になるが、私の脳内がこの通り散漫なので仕方がない。このまま書くことにする。
 ここでも触れている通り、国際刑事裁判所と国連安保理の違いははっきりしている。かつてから言われていることだが、国際刑事裁判所から逮捕状が出ても直ぐに取り押さえられない理由がある。それは、執行を当該国に任せている仕組みは、未加盟国では難しいからだ。リビアは、加盟国ではない。ついでに触れると、スーダンのお尋ね者バジル大統領が平気でのさばっているのも、スーダンが未加盟だからだ。逮捕状が取れたとしても盛り上がりに欠けるのはそのためだし、未だにカッダーフィ大佐を容疑者カッダーフィと呼ぶのを見かけない所以だろうと思う。
 今更不思議とは言わないが、もう一点ある。国連安保理では採択に加わり賛成票を投じたアメリカは、国際刑事裁判所の枠組みに参加していない。これは変な感じがする。
 国際刑事裁判所の枠組みに属さないアメリカは、他国で戦闘に参加している自国の兵士が、自国の意思に反して裁かれるのは嫌だと理由があるのだろうか。ところが、他国に対しては、合衆国の国民を国際刑事裁判所に引き渡さないという協定を結べと要望している。これは、ある仕組みを通じて自分が裁かれるのは嫌。だから、その仕組みには加わらない。また、他人に対して、その仕組みに協力するなと言っている。でも、その仕組みを使って他人を裁くのには賛成する。と、こういう行動をとっている。この背景を分かっていてもアメリカの外交判断を読むのは難しい。
 問題は、人道支援や市民を守る立場でリビア政府の攻撃に応戦してきた国連加盟国は、反政府側にも戦犯が確定した今、これまでの介入と何か違いがあるのだろうかという点だ。リビア政府の攻撃に対して応戦すれば、それは反政府側の助っ人にもなってしまうのではないだろうか。今回の調査の判断と関係があるのかどうか分からないが、将来、国際刑事裁判所から逮捕状が下りれば、アメリカがビンラディンを殺害したように、国際社会が公然と殺害できるという運びにしたいのだろうか。

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