2011-06-12

原発のこれからを考えてみるに

 原発の方向性はどうなるんだろうか、とぼんやり昨日も考えていた。核の扱いが現在の科学の力では手に負えないものとして葬られてしまうとは思えないが、各地で原発反対運動が展開されているようだ。私はというと、失敗から学ぶことで進化し続けられると思っている方が、やめようよという考えよりも少し勝っている。こんな時に、村上春樹さんのスピーチには些か呆気に取られた(参照)。読みたい方は全文が毎日に掲載されているので参照されると良いと思う。私はここに切り貼りするのを差し控えさせてもらうことにする。
 真っ向から「原発反対」を表明し、しかも原爆とごっちゃになっていたことだ。この発言に納得できたのは、春樹さんが団塊世代だということをすっかり忘れていて、指摘されて気づいた時だった。広島や長崎で受けたのは戦争被害としての原爆であったが、福島原発事故は人災とも言われる部分はあるにせよ、科学的な不十分さに加えて地震と津波という自然災害が同時に起きた災害ではなかったのか。嗚呼、何故春樹さんともあろうお方がこんなことを混同してしまうのか、とがっかりした。が、春樹さんの「思い」というのは理屈ではないし、否定できないものだと思った。発言内容の是非よりも、世代的には春樹さんと同じような思いを持ち続けてきた年配者が日本の人口の約三分の一を占めていることがもっと恐ろしいと思った。「思想の興隆」とは、良く言い当てていると思った所以だが、多数決の原理から原発は恐ろしいものだと信じられ、思想のようになり、やがて消える運命なのかもしれないと思った。私は、ポスト団塊で、しらけ世代とも言われているが、「鉄腕アトム」に象徴されるように、原発は夢の原子力だった。輝く未来を切り開くはずだった。昭和で急成長した日本はそれこそ姿を変えてしまったが、原発のお陰で今の暮らしがある。これを続けたいと切に願っているでもないが、科学の分野として原発が続くのを拒むでもない。こんな悲惨な状態の日本でこんな発言は袋叩きに会うかもしれないが、原発に反対ではない。ただし、今の政府や東電、学者の体制と同じような機構で続けることだけは反対だし、日本の科学レベルが世界水準かそれ以上のものを持つべきだと思っている。日本にそのレベルが要求できないのなら、せめて世界のスタンダードに倣うかそのレベルのブレーンを入れてもらいたい。
 日本の政府や東電の情報伝達の遅れや、間違った情報が流れるようなことを散々指摘されてきたこともあるが、役所の仕事に関わるとびっくりする事がある。それは、民間では信じられないような光景だった。
 例えば、何かの報告書のようなものを下っ端が作成する。それを原案として対策案が作成され提案をするとする。それを受け付けた直ぐ上の上司が受付を確認して受付印を押してその上の上司に回し、同じこと繰り返しながらその部の長が承認すると予算へ回され回答が出る。これが何日かかかって決済される仕組みだ。役所の部課長の机上には、「未決済」「決済」の二つの書類整理籠があるのもその意味。会社のトップの机の上も概ねそんな感じだ。これをイメージして、そのまま原発の関係者に当てはめると悲惨な状況が浮かんだ。情報の伝達が非常に遅い上、最終的な決済をする企業のトップがその専門家とは限らないため、説明責任もろくに果たせない経営者も多い。これは単純な一例だが、情報伝達一つをとってもかなり問題のある機構だと思う中、おそらく他の重要な問題が幾重にも重なって何をどう解体したらよいのか分からなくなっている。
 今月20日にウィーンで予定されている国債原子力機関(IAEA)閣僚級会合に提出するための報告書をまとめているらしく、「原子力行政組織」の見直し案のことをNHKニュースで知った(参照)。

 それによりますと、今回の事故について「世界の原子力発電の安全性に懸念をもたらす結果となったことを反省し、世界の人々に放射性物質の放出について不安を与える結果になったことをおわびする」としたうえで、28の教訓を指摘しています。このうち、国の教訓として、経済産業省の原子力安全・保安院と内閣府の原子力安全委員会、それに関係自治体や各省庁による環境モニタリングの実施など、原子力の安全確保に関わる行政組織が分かれているため、責任の所在が不明確だったとしています。そのうえで、原発の規制当局である原子力安全・保安院を経済産業省から独立させるなど、行政組織の見直しに取り組む方針を示しています。また、事業者である東京電力に対しては、使用済み燃料プールが原子炉建屋の高い位置にあったことから冷却が困難だったとして、今後は、原発の基本設計で、重大な事故が発生したとしても冷却などが確実に実施できるような配置を求めるとしています。そして、これらの教訓を踏まえて「日本は、原子力安全対策の根本的な見直しが不可避だ」と結論づけ、「重大事故対策の強化のための研究を国際協力の下で推進し、その成果を世界の原子力安全の向上につなげる」としています。

 28の教訓というのも備忘的に文末に貼り付けておくが、政府がこのような一方的な見解を出すと直ぐに業界から反発が起きるのは常だ。これを取り上げている一つの例として、西日本新聞の社説の一部を引いてみる(参照

 例えば、教訓の一つに「複数(原子)炉立地における課題への対応」がある。
福島第1原発では6基のうち4基が事故を起こした。二つの原子炉で設備を共用していたことや、物理的な間隔の狭さが事故対応の妨げになったという。
 同時に複数の原子炉で事故が起きることは想定してなかった。では、どのくらいの間隔があればいいか。基準ができ、施設改造となれば経費も時間もかかる。
 教訓の中には国の対策もある。経産省から原子力安全・保安院を独立させ、安全規制行政の強化を図る。法制度や組織の改正にも時間が必要だろう。
 28の教訓からは、起こり得ない事態、制御不能の状況をどこまで想定し、対策を講じるかという安全対策を基本的に電力会社に任せていたことが読み取れる。
 企業の判断となれば、どうしても不要不急の経費は抑えてという考えが働く。
 報告書は、制御不能に陥った場合の対応や関係機関の連携では実効的な訓練が十分に行われていなかったと指摘した。
 絶対に安全とは言えない。ならば「万が一」にどこまで備えるか。一義的には国が最新の知見を基に、そのルールを見直しながら、原発の安全を守るコストを国民に示し理解を得なければならない。
しかし、福島第1原発の事故の惨状に国もたじろいでいるのではないか。事故の影響は計り知れない。直接的な被害だけでも巨額だ。その賠償のために巨大企業の東電も押しつぶされかけている。
 大津波の前の地震で福島第1原発は大きな損壊があったのではないか。その疑問は残る。だが、とりあえずは28の教訓を生かしていくための工程表を示し、着実に安全対策を講じていくことだ。
 丁寧な説明とともに実行が伴わなければ国民の不安を解消するのは難しい。

 上げたり下げたりの意見だが、賛否両論あるのでそれも仕方ないかなと思って読んだが、指摘されていることはごもっともだと思う。問題は、役所がスタンダードを作成すると、それに見合った原発でなくては認められなくなるため、業界はあたふたし始めるが、電力会社が今後私企業でいられるとも思えない。国有になるのも時間の問題ではないかと思ったりしているが、誰が担当してもミスというのは起こるものだ。 
 実は10日に見かけた記事にこんなことが書かれていた(参照)。

 福島第一原発事故-高濃度放射性汚染水処理工程で生成される高濃度放射性廃棄物1億ベクレル/立法センチ、最終処分までの道筋「報告書に記載なし」

 2011年6月9日、東京電力は経済産業省原子力安全・保安院に福島第一原発の高濃度放射線性汚染水処理工程の概要を報告。この報告を受け同院より「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の処理設備及び貯蔵設備等の設置について(指示)」が提示された。このやり取りの中で、高濃度放射性汚染水処理工程で生成される1億ベクレル/立方センチの「高濃度放射性廃棄物」は、一時的に敷地内に保管する計画は示されているものの、最終処分までの道筋は、この報告書には記載されていないことが判明した。

 この「高濃度放射性廃棄物」は、高濃度放射性汚染水を浄化し濃縮したものであるので、当然のことながら、処理される高濃度放射線汚染水よりも更に高濃度の放射性物質を含むことになる。その濃度は、1億ベクレル/立方センチに達する。そして、その最終処理方法の具体策な「対策」なんら決定していない。

 この程度では驚かなくなってしまったのも良くないが、何故こんなミスが起こるのだろうか。現場感覚がないためか科学の欠落なのか私にはよく分からないが、このようなミスの繰り返しがうんざりするほどあった。でも、まだ続くようだ。28の教訓はここには生かされてないと思う。
 こうなると、春樹さん達世代が「原発反対」と言ったことに返す言葉がない。このままだと原発は怖いもの、恐ろしいものだという「思想」に押されて科学の進歩や将来性が閉ざされてしまいそうで、それが恐ろしい。これからの若い世代が目標を失ってしまうような危険な「思想」になるのは避けたい。これが、あの春樹さんの口から出たことなので実は愕然とした。原発に反対的な気持ちを持つのは理解できる。私自身も、このままでは許せない線があるが、今を生きる大人が将来の可能性を啄ばむような権利はない。
 今回も問題は何か、抽出できずに終わるが、考えることはまだ続きそうだ。

***

 

東日本大震災:福島第1原発事故 IAEAに提出した政府報告書の28の教訓(要旨)

東京電力福島原子力発電所の事故は、原子力安全に対する国民の信頼を揺るがし、原子力に携わるものの過信を戒めるものとなった。今回の事故から徹底的に教訓をくみ取り、この教訓を踏まえて、我が国の原子力安全対策の根本的な見直しが不可避である。
(1)地震・津波への対策の強化
今回の地震は複数震源の連動による極めて大規模なものだった。地震で外部電源に被害がもたらされた。原子炉施設の安全上重要な設備や機器は現在まで地震による大きな損壊は確認されていないが、詳細はまだ不明で、さらなる調査が必要だ。津波は設計または評価の想定を大幅に超える規模だった。津波で海水ポンプなどの損傷がもたらされ、非常用電源の確保や原子炉冷却機能の確保ができなくなる要因となった。手順書では、津波の浸入は想定されていなかった。津波の発生頻度や規模の想定が不十分で、対応が十分でなかった。地震の想定は複数震源の連動を考慮し、外部電源の耐震性を強化する。津波のリスクを認識し、安全機能を維持できる対策を講じる。
(2)電源の確保
事故の大きな要因は必要な電源が確保されなかったこと。多様な非常用電源の整備、電源車の配備など電源の多様化を図り、緊急時の厳しい状況でも長時間にわたって現場で電源を確保できるようにする。
(3)原子炉及び格納容器の冷却機能の確保
海水ポンプの機能喪失によって最終の熱の逃がし場を失い、注水や原子炉の減圧に手間取った。代替注水機能や水源の多様化などにより、確実な代替冷却機能を確保する。
(4)使用済み核燃料プールの冷却機能の確保
核燃料プールの大事故のリスクは小さいと考えられていた。電源喪失時も冷却を維持できる代替冷却機能を導入し、確実な冷却を確保する。
(5)アクシデントマネジメント(過酷事故へ拡大させない対策)の徹底
アクシデントマネジメントは事業者の自主的取り組みとされ、整備内容に厳格性を欠いていた。国の指針も92年の策定以来、見直されていない。事業者による自主保安の取り組みを改め、法規制上の要求にする。
(6)複数炉立地における課題への対応
複数炉に同時に事故が起き、事故対応に必要な資源が分散したり、炉の間隔が小さかったため、隣接炉の緊急時対応に影響を及ぼした。一つの発電所に炉が複数ある場合、各炉の操作を独立してできるようにし、影響が隣接炉に及ばないようにする。
(7)原発施設の配置の基本設計上の考慮
使用済み核燃料プールが原子炉建屋の高い位置にあったため事故対応が困難になり、汚染水がタービン建屋に及ぶなど汚染水が拡大した。今後は冷却を確実に実施でき、事故の影響の拡大を防ぐ配置を進める。
(8)重要機器施設の水密性(水の浸入防止)の確保
海水ポンプ施設、非常用発電機など多くの重要機器施設が津波で冠水した。設計の想定を超える津波や洪水に襲われた場合も、水密扉の設置などで水密性を確保する。
(9)水素爆発防止対策の強化
1号機の最初の爆発から有効な手だてをとれないまま、連続爆発が発生した。原子炉建屋に水素が漏えいして爆発する事態を想定していなかった。発生した水素を的確に逃がすか減らすため、格納容器の健全性を維持する対策に加え、水素を外に逃がす設備を整備する。
(10)格納容器ベントシステムの強化
格納容器の圧力を下げるために弁を開くベントの操作性に問題があった。放射性物質除去機能も十分ではなく、効果的にベントを活用できなかった。今後、操作性の向上などを図る。
(11)事故対応環境の強化
中央制御室や原発緊急時対策所の放射線量が高くなり、運転員が入れなくなるなどして事故対応に支障が出た。放射線遮蔽(しゃへい)の強化など、活動が継続できる環境を強化する。
(12)事故時の放射線被ばくの管理体制の強化
多くの個人線量計などが海水につかって使用できず、適切な放射線管理が困難になった。空気中の放射性物質の濃度測定も遅れ、内部被ばくのリスクを拡大させた。事故時の防護用資材を十分に備え、被ばく測定を迅速にできるようにする。
(13)シビアアクシデント(過酷事故)対応の訓練の強化
過酷事故の実効的な訓練が十分されていなかった。発電所と政府の原子力災害対策本部、自衛隊、警察などとの連携確立に時間を要した。事故収束の対応、住民の安全確保に必要な人材参集などを円滑に進めるため訓練を強化する。
(14)原子炉及び格納容器などの計装系(測定計器類)の強化
原子炉と格納容器の計装系が過酷事故の下で十分働かず、炉の水位や圧力、放射性物質の放出量など重要情報が確保できなかった。過酷事故発生時も十分機能する計装系を強化する。
(15)緊急対応用資機材の集中管理とレスキュー部隊の整備
事故当初は原発周辺でも地震・津波の被害が発生し、レスキュー部隊が現場で十分機能しなかった。過酷な環境下でも円滑に支援できるよう資機材の集中管理や部隊の整備を進める。
(16)大規模な自然災害と原子力事故との複合事態への対応
事故が長期化する事態を想定、事故や被災対応に関する各種分野の人員の実効的な動員計画を策定する。
(17)環境モニタリングの強化
緊急時の環境モニタリングは地方自治体の役割としているが、事故当初は機器や設備が地震と津波の損害を受け、適切にできなかった。緊急時は国が責任をもって実施する。
(18)中央と現地の関係機関の役割の明確化
当初は政府と東電、東電本店と原子力発電所、政府内部の役割分担の責任と権限が不明確だった。責任関係や役割分担を見直し、明確化する。
(19)事故に関するコミュニケーションの強化
事故当初の情報提供はリスクを十分示さず、不安を与えた。周辺住民への事故の状況や対応、放射線影響の説明を強化する。事故の進行中は今後のリスクも含めて示す。
(20)各国からの支援への対応や国際社会への情報提供の強化
各国の支援申し出を国内のニーズに結びつける政府の体制が整っておらず情報提供も不十分だった。情報共有体制を強化する。
(21)放射性物質放出の影響の的確な把握・予測
緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)の計算結果は当初段階から公開すべきだった。今後は、事故時の放出源情報が確実に得られる計測設備を強化し、効果的な活用計画を立て、当初から公開する。
(22)原子力災害時の広域避難や放射線防護基準の明確化
避難や屋内退避は迅速に行われたが、退避期間は長期化した。事故で設定した防護区域の範囲も防護対策を充実すべき範囲を上回った。このため、原子力災害時の避難の範囲や防護基準の指針を明確化する。
(23)安全規制行政体制の強化
原子力安全確保に関係する行政組織が分かれていることで責任の所在が不明確で俊敏性にも問題があった。原子力安全・保安院を経済産業省から独立させ、原子力安全委員会や各省も含め規制行政や環境モニタリングの体制を見直す。
(24)法体系や基準・指針類の整備・強化
既存施設の高経年化対策のあり方を再評価し、法体系や基準の見直しを進める。IAEAの基準・指針の強化にも最大限貢献する。
(25)原子力安全や原子力防災に関わる人材の確保
今回のような事故では、過酷事故への対応や放射線医療などの専門家が結集し取り組むことが必要。教育機関や事業者、規制機関で人材育成活動を強化する。
(26)安全系の独立性と多様性の確保
これまで(安全確保のシステムである)安全系の多重性は追求されてきたが、独立性や多様性を強化する。
(27)リスク管理における確率論的安全評価手法(PSA)の効果的利用
原発のリスク低減の取り組みを体系的に検討するうえで、(リスク発生の確率を評価する)PSAは効果的に活用されてこなかった。PSAを積極的に活用し、効果的な安全向上策を構築する。
(28)安全文化の徹底
原子力安全に携わる者が専門的知識の学習を怠らず、安全確保上の弱点はないか、安全性向上の余地はないかの吟味を重ねる姿勢を持つことで、安全文化を徹底する。
毎日新聞 2011年6月8日 東京朝刊

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