2011-06-10

G8の支援金が、失敗に終わった「アラブの春」に齎す次の社会について雑感

 エジプトの経済が大変酷い状態になっていることは周知のことだと思うが、なんだかこの状態はもっと酷くなりそうだ。「アラブの春」と称される北アフリカや中東の民主化運動は、チュニジアから始まってエジプトに伝播し、現在ではシリアやイエメンが激しく係争中である。記事をクリップしながら少しずつ状況がわかってくるというテンポでここも進んでいて、時々、まとめるつもりがまとまらずに散漫な状態になっている。エジプト情勢を考えながらそんなことを思ったが、今一度見直したいと思う。きっかけは、昨夜TwitterでクリップしたNewsweekに寄稿しているニアル・ファーガスン(Niall Ferguson)氏の記事「The Revolution Blows Up」(参照)だ。タイトルを見れば一目瞭然で、先日も極東ブログの「残念ながら簡単に言うとアラブの春は失敗」(参照)の考察から「G8が決議したのは「おしぼり代」だった」(参照)にまとめたつもりだった。Newsweek記事は、国際社会が出した結論である「おしぼり代」が如何に間違った政策かをかのジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes、1883年6月5日 - 1946年4月21日)の著書「平和の経済的帰結」を引用して述べている。
 いつまでも「おしぼり代」という比喩的な言い回しでは誤解を生みそうだと思うので書き添えるが、フランスで先月行われたG8サミットでエジプトとチュニジアが再び独裁政治に戻らないために400億ドルの支援をし、経済の立て直しを図ってもらおうというものだ。これを極東ブログでは「寺銭(場所の借り賃)」と呼んだが、G8は中東問題について博打(ばくち)でもやっているようなユーモラスな例えが裏側にあることに気づく。私の解釈は、中東諸国が上手くまとまってくれないとこっちにとばっちりがきても困る。だから頼む、これで何とか国を治めてくれ的な支援金と見ていて、支援金の名の下にこっちの利己的な利益のためにしかならないと思っていた。これは、G8が決議した当初の疑問で、民主化が進められるような国力があれば支援金など必要ではないだろうというそもそも論があった。
 さて、この「博打」というユーモラスが、もしかしたら先見の明からであったのかとさらに読みの深さを感じた。ケインズの著書「平和の経済的帰結」を「アラブの経済的帰結」と置き換えてファーガスン氏の寄稿記事では、博打のツケは大きいよと警鐘を鳴らしている。と、私は読んだ。
 とても説得力があると感じたのは、ケインズは、第一次世界大戦で戦勝国が敗戦国に課した賠償条件である「ベルサイユ条約」(参照)を強く批判してさらなる戦争を予言したが、続いた第二次世界大戦の勃発の歴史を辿れば、この説が正しかったと言えるからだ。
 この条約は、敗戦国の経済を困窮に陥らせる最も過酷な条件だったに過ぎず、再び戦争が起きた。その結果、第二次世界大戦へとつながったが、敗戦国ドイツはこのきつい条約によって国内情勢が不安定になり、統一民族国家にするというヒトラーが率いる労働党(ナチス)に政権を引き渡すことになった。ナチス・ドイツは、このベルサイユ条約を一方的に破棄してしまうことになったため、ヒトラーの台頭とへとつながった。また、第一次世界大戦で、戦勝国が被害を蒙ったとして一方的に敗戦国ドイツにその後片付けを賠償させたことは、戦後のナショナリズムが湧き立つことをも加速させ、代二次世界大戦の種火になった。
 ファーガソン氏は、この歴史的事実と同じことをG8は決議したのではないかと示唆している。歴史は繰り返すとはこのことではないかと苦々しく思った。また、400億ドル(1兆7千億円)の支援金についても非常に興味深い見方がある。「旧ソ連諸国支援に実績のある欧州復興開発銀行に任せた。」と極東ブログにあるが、銀行から融資を受ければ返済金アンド発生した利息を支払わなければならない。ここで次の読みだ。

表層的に考えるなら、エジプトに新しく中間層や新興富裕層の育成が求められるのが、それこそが、この「エジプト革命」とやらの本質に阻まれている。

 サラッと書いてあるが、エジプトの春が失敗だというダメ押しの明示とも言える。
 「中間層や新興富裕族の育成」って何?という疑問など初めは持たなかったが、現実的にエジプト経済を見た時、育成が困難極まりない現実を抱えてる点で二つのことを思った。
 一点は、エジプトの国債に誰が興味を持つだろうか。争乱が続いてずたずたになり、町のあちらこちらで石が飛び交うような危険極まりない国でピラミッド見学など真っ平御免だ。エジプト経済を支えているのは観光だが、この争乱でいつ観光客が戻るか全く分からない。このような国情のエジプトの株が上がるとは思えないのが普通の見方であるし、外貨は望めないだろう。
 もう一点は、Newsweekでも指摘しているが、同じく「中間層や新興富裕族の育成」といっても良いと思うが、金持ちは国情が不安定なエジプトに見切りをつけたのか現金をスイスのチューリッヒに預け始めていると報じている。つまり、箪笥(たんす)預金が増えてくると現金が動かなくというループが始まる意味だと思う。ヤバイとなると、お金持ちは現金を隠すのが速いのは日本も同じだ。
 この二点だけでも、「エジプトの春」が失敗に終わったと言うのに充分な理由ではないだろうか。加えて、G8は貸付を決議したが、その元金も利息も払えるエジプト経済ではないと思う。ここで、ギリシャをちょっと思い浮かべた。経済破綻したギリシャだが、国内総生産が上がる兆しのないギリシャにユーロ圏は貸付を起こしたが、返済の見通しが立っていない。経済が動いていない国は外貨獲得も成らず、国内には20歳代の若者が40%の失業率だという。エジプトの経済については、そこまで酷くないとは言え、かなり悪化している。また、とても問題なのは、エジプト国民が今のエジプト経済を全く理解していないようだ。CNNが伝えていることによると、エジプトの世論は将来を楽観視していると、世論調査の結果を分析している(参照)。
 このような状態のエジプトに貸付を起こして何が起こるのか。
 ケインズがかつて予言したようなドイツを思えば、そこには独裁者が生れ、ひいてはエジプトに再び独裁政権が誕生することを意味するのかもしれない。いや、その意味付けが確かだと言われているのかもしれない。

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