「絶頂美術館」-西岡文彦という案内人による絵画鑑賞
![]() 絶頂美術館 西岡文彦 |
趣味というにはトホホなくらい遠ざかってしまった絵画鑑賞だが、前にもここで書いたように昔から好き。田舎に引っ込んでしまってあまりチャンスもなかったが、今年已む無く閉店した上諏訪駅前の丸光百貨店が営業していた頃、イベント会場で行っていた絵画展に足を運んではいたな。こんな田舎で何故あのような小さなデパートで?と思ったが、絵はどんどん売れていた。こういった趣向が結構盛んな諏訪でもある。美術館が多かったりもする。こんな書き方になってしまったが、極東ブログで紹介している(参照)西岡文彦氏の「絶頂美術館」を読んでみようかと注文し、少し今までを振り返っている。
昨年の秋から今年二月まで日比谷公園内の特設会場で行われていた「ダ・ビンチ展」の超高解像度カメラを駆使して観る「モナ・リザ」の探求もチェックしていたが、とうとう行く機会を作れずに終わってしまった。
![]() モナ・リザの罠 西岡文彦 |
この機会にと思って調べてみると、西岡氏は、ダ・ビンチの仕掛けについて自著の「モナ・リザの罠」でも読み解いていることがわかった。ダ・ビンチ展と合わせて読んだらきっと面白いのではなどと、レビューを読んで想像していた。なかなか行く機会を作れず気持ちも絵画から離れて行くので、趣味の部分を開拓しておきたくなった。夏のすごし方として、ゆっくり読むのも良いかと思った。
「絶賛美術館」に話しを戻して、書評で興味深く感じた部分がある。これは、歳をとってみると分かる共通項のようなものだが、ここを読んでくれている方がどのように感じるかなと思い、引用させてもらうことにした。
下品な話で申し訳ないが著者より5歳も年下の私も現在すでに50代半ばに向かいつつあり、西欧風のヌードといったものにはある遠い視界になりつつある。逆にだからこそ、この書籍に描かれる作家たちの「老い」の感性も読み取れつつあり、理解が深まる面と同時に、やはり内面の寂とした感じがないでもない。
年取った作家達といえば、夏目漱石の執筆時の年齢やその小説を読む私自身の年齢との関係を連鎖的に思った。つい先日も触れた「明暗」と「続明暗」でも、漱石の寂や私自身の読みにも同じように感じた(参照)。
大昔に読んだ「明暗」のお延は、甲斐甲斐しく夫の世話をしながら愛情の豊かな部類の女性にカテゴライズしていたが、今回、全く違う人物像になった。彼女は、夫をまるで自分の持ち物か何かのように飾り物的に磨く妻にしか過ぎないと読んだ。ああ、話しがまた脱線してしまうけど、ここだけ触れておきたい。それもあって、清子のあの豹変とも言うべきものが、女性の成長と言うよりもむしろ騙されやすいタイプの単純なタイプだと映った。ただ、インプットされた夫の情報や、夫婦となって夫から影響を受けたためか、表面的には違う女性に変わったかにも思えた。
このように、読む年齢によって小説の読みが変わるのと同様に、絵画もそうだと思う。「絶賛美術館」では、西岡文彦という案内人にそこを案内してもらうのだと思う。考えてみれば書評も同じで、他者の見方や感じ方を事前情報として捉え、自分なりに読むための導入にすぎない。ああ、そういう点で言えば、今回の極東ブログの書評の半分以上はfinalvent氏の「関心」部分が多い。全く違和感無く読んだが、「話を自分の関心に引きずり過ぎたが」と途中で切り替えられているので、そうかなと思った程度だった。客観的に物事を見聞するのと主観的にでは違うというのは理屈ではわかる。ああ、そういえば私が書くのは主観ばかりだから「感想文」か。あはは、今頃自覚した。
いずれにせよ、美しいものを観るというのとはちょっと違って、芸術家がどのような背景でその作品を製作したかという基本情報はとても大切だと思う。年齢はいくつくらいか、既婚か未婚か、精神的にはどうだったかなどの情報によって絵の読み方が変わってくるのは間違いない。裸婦を描く画家の年齢を気にしたことは無かったが、思いがけないことに気づかされた。
また、書評の中で触れられている、小林秀雄「近代絵画」がめちゃくちゃ読んでみたくなり注文した。
![]() 小林秀雄全作品 近代絵画〈22〉 小林秀雄 |
昭和28年50歳、というから私が生まれる前で、亡くなった祖母よりも少し若かった小林氏が絵画を観にヨーロッパ巡りをして出合ったのは、一流の画家の絵画ではなく、「とびきり一流の人生劇」であったと知ってますます読みたくなった。人の生き方に触れ、震えがくるというような感動に出会いたいものだと思っていたことがやっとはっきりした。デパートの絵画や日比谷のダ・ビンチではなく、彼らの人生劇に触れたかったのだと思った。そう言えば、ロンドンの大英博物館の案内人の内容よりも、彼らが如何に感動したかという話の方に引きかれたのも同じような理由だった。
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