2011-05-16

ウィキーリークス2010年3月18日よる被災国日本の支援に向けた公電

 アメリカの公電の役割が少し分かってきた気がしたとこれまで思ってきた中、今回の内容は今までとは少し違う趣を感じた。公電の定義があるのかどうかは知らないが、在日アメリカ大使館からの情報は、アメリカ政府の対日外交の助けとなる役割は大きいと解釈している。
 昨日、3月18日、ウィキーリークスで明らかにされたアメリカの公電に極東ブログで訳がついた(参照)。内容は、3月11日、日本に起きた地震と津波後の一週間から日本の様子を伝えるものだが、その視点は、支援ということに尽きるような気がする。公電から米政府の意図することを推測するのは難しいし、所詮は私の憶測で終わるが、実際、米政府の支援活動を拾い出してみると、公電の役割や米政府への理解度が自分の中で進んだ。これは、今までフォローしてきた公電についても同じことが言える。
 今回の公電のタイトルは、「CRITICAL INFRASTRUCTURE AND EMERGENCY RESPONSE IN JAPAN(日本の重要な社会基盤と危機対処)」とあるとおり、被災後のアメリカの対応や支援を検討するための基本情報になった文書ではないかと思った。全体から受けた印象は、インフラ整備に始まって仔細に渡る考察のきめ細かさだ。これを嬉しく思ったと同時に、アメリカの支援活動が思い出され、その背景にこのような文書での情報交換があったことを知り、アメリカに対する認識が広がった。基本的には日本とは同盟国という、いわば契約の上で成り立っているが、これまでの信頼関係なくして今回のような支援はあり得ないことではないかと思った。具体的には、「多国から多くの支援を受けている日本」(参照)でも書いたことだが、「トモダチ作戦」を被災地で展開してくれたことはニュースでも報じていた。アメリカの軍用ヘリコプターに沢山の支援物資を積み、独自でリクルートしながら孤立しているような小さな避難場所に生活必需品や水、食料などを手渡しリレーしてる光景が思い出された。それに感謝する住民の姿を見て、熱い思いがこみ上げ、「トモダチ作戦」にはじんときた。
 さて、この公電は、このように始まっている。

2. (SBU) Japan and the U.S. are the world's two largest economies, closely linked to each other and to other major world economies. A catastrophic event or major infrastructure failure in Japan, therefore, would negatively affect the U.S., the rest of Asia, and the global economy as well.
「主要な世界経済と密接に結び付きつつ、日本と米国は互いに世界の経済の二大大国となっている。従って、日本の大惨事や社会基盤の大規模機能停止は、米国、アジア諸国、さらには世界経済に悪影響を与える。」

 これを書く視点は、アメリカの世界に対する使命感とでも言うべきだろうか、アメリカの日本の観方が窺える部分だ。また、被災した日本の立ち直りを支援する米国の意義であり、ダメージが世界に与える影響という観点からアメリカの日本支援の基本敵な考え方があると理解した。読み進めると、その徹底ぶりは随所に見られたが、それらは「要約」に記されている。

要約:日本では、重要な社会基盤と各種制度が、さまざまな自然災害や歴史課題に直面してきた。そのためこの国は、地震などの既知の脅威に対応する準備と能力を発展させてきたし、災害に国民が対応する能力を高めるために情報を共有する意志を積み重ねてきた。しかし、官僚制の縦割り主義と事なかれ主義によって次第に日本は、感染症の大流行といった対応が手薄になり、脅威に弱くなってきているようだ

世界第二位の経済力や日米経済統合を考慮すれば、日本で発生しうる大惨事の顛末は重篤になる。重要な社会構造とその保護という課題で二国間交流を活発にすることや、重要な社会構造と危機対応への作業全般に日本を加えることは有益だろう。以上、要約。

 「要約」の「官僚制の縦割り主義と事なかれ主義によって次第に日本は、感染症の大流行といった対応が手薄になり、脅威に弱くなってきているようだ。」の記述部分に気持ちが反応した私だが、同時にいろいろな場面や思いが重なり、客観的に書くのも難しいと感じている。それは、風評が経っているとおり、日本がアメリカの支援に抱く「GHQに占領された戦後の日本そのものである」という観方があったり、強引なやり方だというような反発的な他人の感情に私自身の気持ちも揺らいでしまうからだろうか。これは、ブログに書くことへの躊躇かもしれない。が、私自身の認識の薄さとして、世界が日本の被災にどれ程の危機感を持って見ているかや、それは、かなり大きなものとして世界は日本を捉えているのだということがこの公電から気づかされた。自分の国のことを一番知らないからかもしれない。このギャップが大きければ大きいほど、また、見る観点が違えば違うほど米政府の日本への関わりをどう捉えるかも違ってくると思った。中には支援という違和感であったり、米政府の腹を探ったり、何かを勘ぐることだったり方向へ行ってしまうのだろうと思った。理解するということは難しいことだと改めて痛感した。
 ほんの一例だが、空港整備の必要性について、米政府の支援が世界観に立ってのことだと感じ取れた部分だ。

日米間を結ぶ物流は、双方のみならず全世界にとっても決定的な意味を持つ。2006年の日米貿易総額は2077億米ドルとなった。平均すると、5億6900万米国ドルの商品が毎日日本の空港・港湾を通過している。
米国便のある日本の大規模空港には、成田(東京横浜)、関西(大阪神戸)、および中部(名古屋)がある。これらは日米間の旅行客が利用するだけではなく、太平洋横断の旅行客にも重要な中継点となっている。米国への旅客便では、1日あたり50便と1万3000人の乗客が成田から米国に到着し、これはロンドンヒースロー空港に次ぐ。従って、これらの日本の空港が使用不能となれば、米国とアジアとって深刻な事態となる。

 今回の地震と津波を一挙に受けてしまったのは仙台空港だったのは記憶に新しいと思うが、人が暮す場所の復旧のめども立たない時点で、アメリカの空軍が仙台空港の復旧に着眼し、実行に移した点などから(参照)、大使館の見方と並行した支援策であったように感じた。
 また、つい昨日Twitterで「GHQ彷彿させる官邸へ派遣の米国人 菅総理に代わり決裁権」(参照)という記事を拾った。これは、5月9日付けの記事で、次のように始まっている。

焼け野原からの戦後復興に大震災の復興計画を重ね合わせる菅直人・首相は、屈辱の歴史までも真似ようとするのか。GHQ(連合国軍総司令部)に主権を奪われ、自主憲法さえ作れなかったあの時代は、この国の在り方に大きな禍根を残している。だが、菅政権はこの震災対応の中、国の主権を米国に売り払うことで、自らの権力を守り切ろうとしている――。

 外国の政府関係者を官邸に入れてその指示を受けるなど、国家の主権を放棄したも同然であり、GHQ占領下と変わらない。

 菅首相に代わってアメリカが派遣した人物が決裁権を握っていると書かれているが、それが本当だとしても、これがGHQ占領下の日本政府と比較できることとも思わない。ただ、このような思い方は、戦争というものの残した傷でもあると思うし、そう思う人を否定するわけではない。実際、支援あっての日本の今の姿かと思われる点は評価に値する。ただ、政府がアメリカのこういった支援を「干渉(または、権力を侵害)されている」と受け止めているのかどうかが日本の市民は理解できていないのは確かだと思う。こういった疑念のようなものが湧いてきている原因に、政府が他国との連携をしているのかしていないのかさえも公表しない点にあるとは思う。原発への対応も、明らかにこれはアメリカ政府の助言で動いたのではないかという時、一切その経緯は明らかにされていない。これは私が気づかなかっただけだろうか。原発をそれなりに追ってここに書いては来ているものの、常にその疑問があった。
 一度だけ心底ほっと安堵したときがあった。それは、アメリカの原子力規制委員会(NRC)が、事故の現状を独自に分析し、結果を出したとNHKが報じていた時で、同時に東電の見解が一致していたときだった(参照)。ちょっと情けない話でもある。
 公電の最後に、次のようなコメントが記されている。

意見。高度な技術と産業・民間へのその活用は日本の経済成長の重要な要素であったし、米国主要企業やその他の企業にも当たり前であった。日本産業からの提供が途絶えると深刻な事態になる。同様に、国際的金融制度と通信・交通の中継基地としての日本の役割は衝撃にもなりうるし、日本の諸活動停止がすれば、米国やその他の同盟国に深刻な影響を与える深刻な事態となる。参考資料で示した努力を米国が推進する際、発生しうる混乱を予防するため、さらに発生後の悪化状況緩和のための議論に向けて、日本に手をさしのべるよう配慮することが有益であろう。意見終わり。シーファー記す。

 二次災害に及んで考察された部分だと感じたが、日本の東北地方には沢山の機械部品生産工場があり、ニュースでも報じていたようにかなり被災した。その影響は約10日後、信州の精密業へもあったし、トヨタの米工場が生産中止に追い込まれたのも事実だ。これらの影響を少しでも軽減しようという思いがこの公電から伝わってきた。
 後からこのリーク情報で知るよりも先に、日本の政府が担当者と関わる中で知っていたのなら、その感謝の意を表明してもらいたかった。アメリカの支援を変な誤解で終わらせたくないという気持ちが残った。

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