1号機の非常用復水器のバルブが手動で閉鎖された時のデータを読んでみた
地震と津波の被害を受けた福島第一原発にその日何が起きたのか、各メディアを当たったが、東電が16日、公表した当日のデータに着目しているのは日本ではウォール・ストリート・ジャーナル日本版だけのようだ。
昨日、GE製MarkⅠの欠陥が原因バルブが開かなかった可能性について触れた(参照)。これは、極東ブログの考察を読んでここに記録する程度のものだったため(参照)、後からいろいろ記事を見ていた。そして、原発と自分自身の関心についても考えることがあった。その中で、ウォール・ストリート・ジャーナルは、東電から出てきたデータを基に事実関係を時系列的に絡めて検証した結果を報じているため、具体的で分かりやすい。特に、水素爆発が未然に防げなかったのかどうかや燃料の溶融についての検証を今の時点で知ることは、今後にとっての大きな資料となることは間違いないと思っている。
日本で原発が全て廃止されるのかどうかについて将来のことは未定だが、石炭による火力発電や風力発電などが他にも考えられている中、その選択を迫られることになると思う。既にこの夏、15%の節電を政府は言い始めている。また、エアコンの設定温度を29度などという話も出ている。すぐさま思ったのは、子どもやお年寄りのような弱者にその脅威が迫るということだ。熱中症は室内でも無自覚のうちに起こることは周知であっても、実際、体の異変に気づくのは普通の大人でも難しい。これがこの夏、弱者を直撃するのは必須だと思う。こういった心配材料は尽きないが、近い将来、必ず考え直さなければならない問題であることは確かだと思う。そのためにも、原発をどこまで信頼できるのか、人間の限界は見えているのかどうかにかなり関心がある。政府や東電は目下のところ、原発に振り回されているのが現状だという印章だが、ここは是非とも乗り越えてもらいたい。
さて、大きな発見というほどではないが、ウォール・ストリート・ジャーナルが19日「福島第1原発、地震直後の24時間」(参照2011・5・19)で、「当初あり得ないとみられていた水準まで事態が悪化したことがわかった。」として東電の16日の資料を基に詳細を報じている。この記事から1号機の検証をピックアップしておこうと思う。
ウォール・ストリート・ジャーナルが参照している東電の16日の資料とは、「当社福島第一原子力発電所の地震発生時におけるプラントデータに関する報告書の経済産業省原子力安全・保安院への提出について」が該当資料だと思われる。これに添付された資料がプレスリリースのPDFファイル(参照2011・5・16)にある。見ると、地震の起こる直前と直後、その後に起きた津波後までの1~3号機の炉の圧力と水位が、解説を含めて記載されている。記事の冒頭では、このデータの読みを次のように報じている。
東京電力が16日に発表した文書によると、1号機の非常用復水器は、作動していたとしてもとぎれとぎれだった。同社幹部によると、本震直後、津波が起こる前に、炉内圧力の変化を制御するために復水器のバルブが手動で閉鎖されたようだという。バルブ再開にはバッテリー電源が必要だった。しかし、非常用バッテリーが津波で損壊したためバルブは開けられなかった公算が大きい。
図式の示す④の概要にあるとおり(クリックで拡大画像)、グラフが上下している状態になる前に手動でバルブが閉鎖された可能性を指摘している。が、その理由はこの記事では分からない。充分ではないが、産経は次のように報じている(産経2011・5・18)。
東電によると、1号機では本震発生直後の3月11日午後2時52分ごろ、緊急時の炉心冷却に用いる非常用復水器が起動したが、約10分後に停止した。急速な温度変化による圧力容器損傷を避けるため、手動停止させた可能性がある。津波到達は午後3時半ごろだった。
「急速な温度変化による圧力容器損傷を避けるため」が理由で手動で停止させたとある。この判断は、何が根拠だったかがとても重要だと思う。というのは、先のウォール・ストリート・ジャーナルは、バルブの閉鎖が原因で急速な燃料溶融が始まった可能性として次のように結び付けているからだ。
バルブが閉鎖されていなければ、状況は違っていたかもしれない。冷却装置がないため1号機の温度は当初想定より急速に上昇し、より深刻な打撃をより早くにもたらした。東電は今週、1号機の問題が当初考えていたよりもかなり深刻だと認めた。新たな分析によると、本震のわずか5時間後に急速な燃料溶融が始まった可能性がある。
バルブの閉鎖は人為的に行われたため、これが原因と結びつけてしまうと人災ともなりかねない。ここが、原発に対する人の能力の限界ともなりうると思う。重要な点は現場でバルブを閉鎖すると判断したことがどのような状況で判断されたのか、それが急務であれば何かの危険を回避できたことになる。さて、それは何だろう。
「圧力容器の損傷を避ける」という産経記事の通りに読むと、冷却用復水器の爆発という文脈になる。そうなのだろうか。冷却用の腹水器のバルブを閉めることが急激な温度変化を回避し、ひいては圧力容器の損傷を回避できたということになる。
図中の③の解説によると、地震後、「腹水器が作動したため温度が下がった」とある。その後、温度が上がったのはおそらく手動で圧力弁を閉鎖したためで、④の状態につながったと予想される。因みに、昨日エントリーで触れたバルブの欠陥の可能性は、停電後の対処として手動では開かなかったということだったため、別の議論となる。
この時何故、手動によって復水器のバルブが閉鎖されたのか、その判断が何によるものだったのかがいまひとつ釈然としない。ウォール・ストリート・ジャーナルの検証が正しいとしても、手動でバルブを閉鎖したことが次の惨事を回避するためだとしたら、それは判断ミスなのかとも思われる。が、炉の破損を回避したことにはならないのだろうか。
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