2011-05-27

エジプトのガザ地区検問所封鎖解除について雑感

  ムバラク政権のエジプトはガザ地区との国境にあるラファ検問所を封鎖してきたが、BBCが25日報じた記事によると、28日から恒常的に開らくことを決定したとあった。それによると、国境は金曜(イスラムの休日)及び祭日を除く毎日、朝0900時から午後2100時までとしている。この措置は、パレスチ人女性は年齢に関係なくビザなしで出入国できるが、男性は18歳未満及び40歳以上のものに限り査証免除が認められることになった(参照)。

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左下の「Rafah」がエジプト国境側の検問所

 これは、Twitterのクリップ記事で最初知ったが、その後、毎日記事でも同様に報じていた(参照)。ただし、BBCでは900から2100時とあるが、毎日では朝9時から5時となっていて詳細は確かではない。
 この事を知った時、直ぐに頭を過ぎったのは、イスラエルやアメリカの親イスラエルロビー団体の反発に対する懸念だった。同時に、エジプトの反政府の鎮圧が急がれているのか、外交的にはイランを配慮してか、その意図があるのかもしれないと思っていた。エジプトのラファ検問所封鎖解除決定が予想以上に早かったため、情勢を読むのに思いが錯綜して時間がかかった。未だに真相はよく分からないが、ラファ検問所開放によるその辺の空気はどうかと、少し記事を当たってみた。
 オバマ大統領の19日の中東和平に関する演説の意図について、その意図したものが何だったか、外国の記事を拾いながら推測的なことを書いた手前気になっていたが(参照)、オバマ氏は22日、ワシントンの親イスラエルのロビー団体の会合で演説したようだ。やはり、内容をフォローする噛み砕いた話しがなければ、ユダヤ人社会が黙っていないとは思っていた。
 次のように説明したと朝日が報じている(参照)。

  オバマ氏は「米国・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」の会合で、提案について「67年6月4日に存在したのとは異なる境界線を、イスラエルとパレスチナ自身が交渉するという意味だ」と述べ、第3次中東戦争開戦前の境界線に戻る必要は必ずしもないとの考えを表明。「新たな人口統計の現実と双方のニーズを考慮することもできる」と説明した。
  オバマ氏は「イスラエルの安全を守る米国の決意は鉄壁だ」と強調。提案は「過去の米政権を含む関係者が長い間、議論の土台としてきた基本的枠組み」で、「取り立てて新しいものではない」と訴えた。

 イスラエルのネタニヤフ首相の強い反発同様、アメリカのこうした団体が黙っているわけもなく、早々に説明を果たしたのだと思ったが、交渉の最初から、占領地からの完全撤退を求める意図ではないといいながらそれを特定するのが難しい。実際、そこに住む人にしかわからない事情がイスラエル側からも出てきている。問題は、こうした対応でイスラエル側の譲歩を促進できるかだと思う。そのイスラエルが強く反発しているようだ。
 ネタニヤフ首相は24日、米連邦議会の上下両院合同会議で演説し、ユダヤ人入植地を一部撤退させる方針を示しつつも、国際社会が提案している「67年境界線」案を拒絶したことをAPFが次のように報じている(参照)。

  ネタニヤフ首相はまた、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス(Mahmud Abbas)議長と、ガザ(Gaza)地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマス(Hamas)が統一政府の樹立で合意している限り、イスラエルが和平交渉の席に戻ることはないと断言。交渉の真の障害は、パレスチナ側がユダヤ国家としてイスラエルを認めることを拒否しているせいだと主張した。

  ネタニヤフ首相は、イスラエル国民に「正直」であらねばならないとし、「この衝突を終わらせるいかなる和平協定においても、イスラエル側の国境を越えて入植地は残るだろう」と述べる一方、「将来のパレスチナ国家の大きさについては、わが国は非常に寛容でありたい」とも語った。

  しかし、「67年境界線案」やエルサレム(Jerusalem)分割案については、これまでと同様に却下した。パレスチナ側は将来、パレスチナ国家を樹立した際には東エルサレムを首都することを望んでいるが、ネタニヤフ首相は「エルサレムを再び分かたれることがあってはならない。エルサレムは1つのままイスラエルの首都であらねばならない」と述べた。

 ここで主張をするからにはそれだけの支持を得ているのかと思えばそうでもなさそう。イスラエルでは早速世論調査をしたようだ。こういうのはいずこも同じという感じがする。
 イスラエル紙マーリブ(Maariv)が25日に発表した世論調査では、国民の約6割が「首相はオバマ大統領の提案を受け入れるべきだった」と考えていることが明らかになったようだ(参照)。

  同紙の調査結果によると「ネタニヤフ首相は、(オバマ)大統領提案に無条件で支持を表明すべきだった」と考えている人が全体の10%、「条件付きで」支持すべきだったと考える人が46.8%で、合わせて56.8%の人が「オバマ提案を受け入れるべきだ」と考えていた。

  一方、オバマ提案に対し、ネタニヤフ首相は反対を表明すべきだったとした人は36.7%だった。

  調査はマーリブ紙のためにイスラエルの調査機関Telesekerが450人を対象に実施した。(c)AFP

 ああたったの450人かと思ったが、規模は小さくても一部の右派強硬論者を除けば国民の大半は賛成ということになるのか、ちょっと意外な数字だった。私にとっては、イスラエルとパレスチナの昔の状態からは想像しにくい数字だが、国家に対する意識も世代と共に変わりつつあるのだろうかと思った。首相個人の意見が国内で支持されなくても突っ走ることは、菅首相を見る限りそれも出来ると思う。だから頑張れでもなく、首相が強行に突き進むのも如何なものだろうか。
 ガザ地区のエジプト国境側では出入りが自由になる今、イスラエルがどんなに封鎖を訴えても有名無実になってしまうではないか。穴の開いた袋に水を注ぐようなものだし、大雨で穴の開いた傘をさすようでもある。このままでは、今度はイスラエルが逆に孤立化に向かう気がする。そうなると、孤立を避けることが国家の安全保証になるのではないだろうか。これだけでも凄い発想の転換だ。戦わずして平和が齎されるとしたら、中東やアフリカの揉めている諸国に対してサンプル表示ともなることだ。
 今回のエジプトの判断は、イスラエルを頑なにさせるか柔軟にさせるか、大きな転換をもたらすことになりそうだ。書きながらエジプトの軍部のクーデターで思い出したが、今回のラファ検問所解除は、エジプト軍とアメリカ政府とのシナリオではないかなと思った。オバマ氏はイスラエルの宥め役、エジプトはイスラエルを窮地へ追い込むという飴と鞭みたいな配役のように見えるのは私だけかな。

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