2011-04-21

ひとつの恋が終るとき-松任谷由実

 ユーミンの新しいアルバムの紹介から(参照)、早速iTunes Music Store(iTMS)から「ひとつの恋が終わるとき」をダウンロードして聴いている。彼女の熱狂的なファンというわけではないが、曲の紹介で聴くようになり、味わっている。まず、この曲を聴いた最初の印象は、同じ世代のユーミンとして身近に感じられたことだった。この感覚は、昔の彼女の曲からは感じ取れなかったことだ。
 彼女の昔の曲には、人生や恋をテーマにした曲が沢山ある。昔、私がこれらの曲を聴く時は、多少、自分自身の気持ちに無理を強いて彼女の世界を自分に取り込んで聴いているようなところがあった。そうやって、意図的に作られたシーンで聴いている自分が現実に戻ると、やっぱり歌の世界観とのギャップが埋められなかった。良い曲であるけど、曲に酔えない自分は、超現実的であったのだと思う。幻想的な世界観は持たなかったのだと思う。その感覚今の私じゃない、みたいな距離があった。むなしさも残った。だからだと思うが、大昔の自分に実際に起こったことで、思い出したくないことは、蓋をしていたのかもしれない。蓋をして置いておくというのは、存在を認めていることであって、抹殺していることではない。実際、蓋をするというのも感覚的なもので、「蓋をする」と、言うことが慰めであったかと思う。苦しさがふっと降りてくるとき、打ち消せるものはないかと周囲を見渡し、うろたえたのだと思う。
 ユーミン自身の身の上に起こった現実は、私が蓋をしたかったようなものと似ているのかもしれない。前に突き進もうとするエネルギーを蓄えたような曲が彼女には多いが、曲から力をもらうと言うよりは、本心を隠した仮装を薄々感じ、曲に誤魔化されまいと思っていたような気がする。
 その私が、彼女と同じ人生のステージに立っている心地よさを感じたのは、「ダンスのように抱き寄せたい」だった。その時の感想も書いている(参照)。同世代が持つ、これこそこの感覚が正直なところじゃないかという嬉しさと同時に、曲が私に入り込んできた。ユーミンが、現実の心情を歌に織り込んでいると始めて感じた曲だった。
  彼女の人生観も変わったのじゃないか、最初そう思ったが、おそらくそれは人生観ではなく、生き方そのものが変わったからではないかと思い直した。そして、今日の「ひとつの恋が終わるとき」は、女なら誰でも当たり前だと言える辛さをそのまま曲に書いている。彼女は、やっと自分を解放し始めたのだろうか。昔のユーミンの曲とは全く違って、違和感なく入ってくる。変な比較だが、宇多田ヒカルの感性は歳相応のものだなと、違和感なく心地よく聴ける。ヒッキーの曲の世界に、私がそのまま戻ることができる。ユーミンの若い頃の曲では戻れない。そこには、何か嘘があるとしか言えない。「何か」は、分からない。そこが彼女の辛い部分で、私達世代にありがちな、自分を全部出せないところかもしれない。だから、ユーミンは、自分らしさに戻ったということではないかと勝手に思った。
 男性にはあまり信じてもらえないようだが、女には、現実に持つ心情を隠すことはある。理由は、自分から見せるのではなく、気づいてもらいたいから。人にもよるのかもしれないが、「私はこれを持っている」と、持っているものを特定して教えたくない嫌いがあって、相手がそれを感じたものでよいという、相手任せな部分もある。たまにそれがとてつもなく違うものだとがっかりなのだけど、伝わらない辛さを持ちながらも、気長に待つようなところがある。ユーミンのこの曲にもそれを感じ、彼女がさらに身近になった。

cover
Road Show
(Amazonオリジナル・クリアファイル(チケットサイズ)特典付き)
松任谷由実

ひとつの恋が終るとき-松任谷由実

前も見えない雨が それぞれの道 照らしてた
駅へ送ってゆくよ 最終電車 いってしまう前に
ハンドルの向こうに続く
きみのいない人生へと急ぐよ このまま
きみは傘の雫と みじかいため息 ふっと残し
ふりかえりもしないで
すぐ階段に 消えてゆくのだろう
トレンチの背中を伸ばし
ちがう人に見えたならば
涙に にじんで ぼやけて流れるけれど
強くなる もっと強くなれば 忘れずにいられる
つらくても きっとあとになれば やるせなく思える
駅へ送ってゆくよ ひとつの恋に終りを告げるよ
ミラー越しに
前も見えない雨が 別々の明日 包んでた
鍵ならかえさないで
二人のドアは もう開かないから
信号が変わるたび めくる
なつかしい風景 まるで
ポスター みたいに 破ってしまいたいけれど
強くなる もっと強くなれば 失くさずにいられる
つらくても きっとあとになれば 美しく思える
駅へ送ってゆくよ ひとつの恋に終りを告げるよ
ミラー越しに

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