スティーブン・チュー氏の見解から福島第一原発の現状について
昨日、福島第一原発の1~4号機全ての使用済み燃料棒プールが安定的だという点と、地震と津波被害を受けた3月11日の時点で稼働中だった1~3号機の核燃料の破損の点について、スティーブン・チュー氏の見解が報じられた。私の理解度の悪さをここで言っても始まらないのは承知だが、これを報じる記事が目にとまった時点で困惑してしまった。
午前中いくつかの記事を見かけたが、着眼点がそれぞれ違うため、事実関係を全て拾って明らかにするというものでもなく、この原発事故で、現時点で最も注意を払わなくてはならい点がズレてしまい、内容が掴みにくかった。この状態と前後して、Twitterで朝日記事「1号機核燃料「最大で7割損傷」 米エネルギー省認識」(参照)をクリップした。が、タイトルに釣られて見事に文脈を読み違えた。直ぐに「違うでしょ」という指摘をもらったが、脳内では情報が錯綜し、どこが違うかを確認するのがやっとだった。因みに、この朝日記事では、炉心の破損状態をメインにしているため、先日ここでも触れた(参照)15、16日に放射性物質の検出量が異常に高かった原因のように結び付けて文脈を読んだ点がとんでもなくハズレであった。
あの時点では、使用済み燃料プールの水が減ったため火災が起きたのではないかという見解があり、ついては、このプールからの水漏れを疑われていた。また、制御棒によって核分裂反応を制御されている反応炉からの水漏れよりも、ガードが緩い使用済み燃料プールの水の有無の方がもっと危険度が高いということが判明した事故でもあった。
さて、夕方近く、先の朝日記事が引用した元記事であるウォール・ストリート・ジャーナル日本語版「福島第1原発、一部炉心は損傷=米エネルギー長官」(参照)をクリップした。この記事で初めて、問題が二点に絞られた。
まず、反応炉内の燃料棒の破損状態について。
同省の報道官は、朝食会後、長官の記者団に対する発言内容を明確にした。それによると、長官の発言は1号機の燃料棒が70%も損傷しており、2号機の燃料棒は3分の1が損傷しているとの情報に言及したものという。(長官は朝食会では、3号機での「放射線量がかなりのレベル」にあると述べていた。また「米国に提供された日本からの情報」を引用し、2号機については「炉心の70%が損傷して最も深刻なメルトダウン状態」になっていると述べていた)
今更言うまでもないが、「破損」「メルトダウン」は炉心溶融のことで、核燃料が加熱して解けて破損してしまうことだ。70%破損したということは、破損を起こしている時点でかなりの放射性物質が飛散したことを意味する。同時に、残る30%の破損を食い止めて安定させれば、最悪の被害を想定してもこれまでよりはかなり低い被害で収まるということになる。
二点目の見解は、1~4号機の使用済み燃料プールが安定状態にある点だ。
しかし長官は1日、「高級レベル」の日本の当局者と「米側の科学チーム」間で行われた協議を引用し、「1号機から4号機まですべてのプールには水があると信じられる。すべてのプールには温度測定装置があるが、水があるに違いないことを示している」と述べた。
目でみてわかりやすいよう、日経の表を借りてきた(参照)。
この記事によって二点に的が絞られたとはいえ、全文には尾ひれがついているため、文脈を読み取るのは難しかった。現在の原子炉の状態について、最新のデータによる「高級レベルの日本の当局者」との突合せによる見解の信憑性を疑問視するという意味ではなく、情報の発信元や、見解の突合せの時系列の違いも含まれているからだった。この辺りの違和感が何であったか、それが解明し、上記のような引用部分にがすっきりまとまったのは、極東ブログの「米国エネルギー省スティーブン・チュー(Steven Chu)長官による福島原発の見立て」(参照)が強力な助っ人となったからだ。
先に取り上げた朝日記事とウォール・ストリート・ジャーナルの出所も彼のクリップだが、該当の記事には、チュウ氏の見解を取り上げた他紙も引用された上で複眼的で情報が厚く、信憑性もより高いのではないだろうか。
ここまでは、チュウ氏の見解が何であるかの確認作業のようなものだが、問題は、原子炉の冷却と放射性物質の漏出防止だと思う。ただし、チュー氏の見解によって、1~4号機の使用済み燃料プールは安定状態と見なすことができたのは嬉しい情報だ。従って、目下の問題は、炉心の冷却と漏出防止に絞られる。書いてしまうと、これだけに尽きるのだが、わずかこの数行にまとめられるような簡単な作業ではないと思う。また、すっかり安心できるわけでもないが、何が行われているのかを理解する上で、段階的に作業が進んでいることは理解できた。
冷却に関しての気がかりは、トレンチに漏れ出した高濃度放射性物質がどこから漏れ出しているのかという点だ。これは、フェアウインド・アソシエイツ顧問で沸騰水型軽水炉を監督して40年の経験を持つアーニー・ガンダーソン氏が見解を示した通り(参照)、燃料棒の挿入口を塞いでいる黒鉛の栓が反応炉内の高熱によって融けたというのが想定されているのか、その辺は確認できていない。が、現時点での水の漏出防止作業は、トレンチとつながっている「ピット」で発見された亀裂の修復や、溢れ出す水に配慮した作業が続いている(中日新聞2011年4月3日 02時07分)。
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