17日ウォール・ストリート・ジャーナル「政府、低濃度汚染水の海への放出に関する分析結果を公表」について
原発関係のその後の記事を見ていて17日、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版の「政府、低濃度汚染水の海への放出に関する分析結果を公表」(参照)の記事で、どんな分析結果が出たのか関心を持った。周辺国には多大な心配を掛けている点で、私自身のこれまでの印象では、何の説明も無く海に汚染水を垂れ流すなど、政府のすることは非常識ではないかと感じていたからだ。15日付けの分析結果も含めて、記録しておくことにした。
そして、報告書に釣られて調べているうちに、ウォール・ストリート・ジャーナルの当記事は、事実に則していない記事であると感じた。その部分は、調べているうちに分かってきたので、エントリー中で言及することにする。
先のウォール・ストリート・ジャーナルの該当記事は、経済産業省原子力安全・保安院が報告書を公表した意図を次のように伝えている。
【東京】政府は15日、被災した福島第1原発から低濃度汚染水1万トン超を海に放出した件に関する報告書を公表した。周辺国で高まる海への汚染拡大に対する懸念を軽減する狙いとみられる。
このように書き出すからには、データが安心できるものでなければ意味が無い。と思い、ここは、私もしっかり把握しておきたい部分だと思って読み進めた。
経済産業省原子力安全・保安院が日本時間15日夜に公表した報告書によると、東電が今月4日~10日に福島第1原子力発電所から海へ放出した比較的低濃度の放射能汚染水は合計1万0393トンに上った。放出量の内訳は地下水排水設備が1323トンと、集中廃棄物処理施設が9070トン。
原子力安全・保安院は分析の結果、海に放出した汚染水の濃度は非常に低いことが明らかになったと表明した。含まれる放射性物質の大半は、東日本大震災後1週間以内に原子炉内で発生した一連の水素爆発により生じ、その後の降雨で降下したものとみられているという。
また、保安院の石垣宏毅審査官によると、サンプリング調査が示すところでは、放出された汚染水に含まれる放射能の量はヨウ素131やセシウム134と137など合わせて約1500億ベクレルと、原子炉等規制法が定める海水での濃度の基準の100倍程度にあたる。
これによると、汚染水の濃度が低いということことよりも、なんだかものすごい量の放射性物質を垂れ流したとしか思えず、保安院が公表したデータを見てみなくては意味がない。
探してみた結果、以下の報告書が該当のものではないかと思われる(参照)。
2. 東京電力(株)からの報告概要
(1) 集中廃棄物処理施設内部の滞留水については、4 月 4 日午後 7 時 3 分より放水口南側の海洋に放出し、4 月 10 日午後 5 時 40 分に終了(放出量は約 9,070 トン)。
5 号機及び 6 号機のサブドレンピットの滞留水については、4 月 4 日午後 9 時より放水口北側の海洋に放出し、4 月 9 日午後 6 時 52 分に終了(放出量は約 1,323トン)。放出した滞留水の合計は 10,393 トン、放出した放射性物質の総量は約1.5×10の11乗ベクレルであった。
(2) 沿岸及び沖合での海洋モニタリングの結果、顕著な変動は確認されていない。滞留水の海洋放出に伴う影響は、近隣の魚類・海草等を毎日食べ続けると評価した場合でも、成人の実効線量は約 0.6mSv/年である。
(3) 今後とも、現在実施中の海洋モニタリングの結果を注視し、影響評価を継続する。
(3)で触れている「モニタリングの結果」が、以下である。
(a) 1 号機~4 号機の近傍(南放水口付近)でのモニタリング結果
・ 本区域は高濃度の汚染水が既に流出(4/2 に 2 号機取水口付近のピットから流出していることを確認)しており、周辺の放射能濃度が上昇している状況(ヨウ素 131 が 1~100Bq/cm(3)程度、セシウム 137 が 0.1~20 Bq/cm(3)程度。
・ こうした環境において、今回放出された汚染水は、ヨウ素131が6.3 Bq/cm(3)、セシウム 137 が 4.4 Bq/cm(3)であり、周辺環境と大きな差は無い。
・ 多少の変動はあるものの、放出前と概ね同程度の範囲内の測定結果が得られており、有意な変化は見られていない。
ここまでは数字も明らかであり、一定環境で求めた値であるため、信憑性を問うようなことは無いが、このPDFファイルを読み進めると、30kmの沖合いの数字は上記の東電のデータとは違うと下記のように言及している。
⑤ 文部科学省が実施中の沖合約 30km における測定データを見ると、全体的には低減傾向にあるものの、福島第一及び第二発電所の沖合約 30km の測定点において濃度が上昇している結果が得られており、意図的ではないにせよ福島第一原子力発電所から高濃度の汚染水が漏出した経緯もあるので今後の動向を注視する必要がある。
ここで、文部科学省のデータを参照しないとわからん!というわけで、またしてもPDFファイルの検索にかかった。調べると、結構緻密にデータを取ってあることを知り(参照)、さすが、日本のお役所のお仕事はできていると思った。後からこんな記事が出てきてびっくり(「水素爆発「考慮必要なし」 福島原発2報告書」)、横線で訂正した。
このデータの中でグラフでは7日以降右肩上がりで、データで検出したことがわかるグラフは、以下の「福島第一原発の沖合い30km地点の海水中(表層)」の16日のグラフ(5/6ページ)が該当する。
福島第一原子力発電所周辺の海域モニタリング
海水中(表層)の放射能濃度の測定結果
平成23年4月16日(15日採水) 文部科学省
保安院のデータと照らすために4月10日の文部科学省のデータへ戻ってみると、福島第一原発の沖合い30kmの部分の(4)だけ、データがない(参照5/6ページ)。理由は分からないが、4日以降の6日、8日、10日と続いてNO4の海域(福島第一原発沖合い30km海域)ではデータを取っていないというのがデータのようだ。
ウオール・ストリート・ジャーナルに戻ると、「周辺国で高まる海への汚染拡大に対する懸念を軽減する狙いとみられる」と、ウオール・ストリート・ジャーナルが推測し、保安院の報告書の一部から、「海に放出した汚染水の濃度は非常に低いことが明らかになったと表明した。」と安全性だけをクローズアップしているように読める。これは、裏取りが甘いのか、あえて記事に書かなかったのか。どうなんだろう。
記事で引用している部分だけを見ると、文字面は安全だが、経済産業省原子力安全・保安院の報告書にあるとおり、文部科学省のデータを辿れば、30kmの沖合い海中(表層)のデータでは急上昇している。これに関して、保安院も「高濃度の汚染水が漏出した経緯もあるので今後の動向を注視する必要がある。」と言及している。
保安院の報告と文部科学省の報告書が示す数字で中国や韓国を安心させられるどころか、日本の私たちにとっても今後も注意が必要だと言われたに等しい。
原発から30km離れた沖合いで、何故数値が上がっているか、また、何故ここで急上昇したのか不気味だ。今後の魚介類への影響も含め、専門家の分析を仰ぎたいところだ。
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コメント
引用されている保安院の報告書で、
「本区域は高濃度の汚染水が既に流出」「しており」
「こうした環境において、今回放出された汚染水は」
「周辺環境と大きな差は無い」
の部分は、
(言いたいことは分かるんだけど、)
とてもトホホな感じがする。
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(自力で式を追ったわけじゃないんですけど、
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51666668.html
と同様に計算すると、)
「放出した放射性物質の総量は約1.5×10の11乗ベクレル」は、
(乱暴は承知で)そのすべての線源がヨウ素131だと仮定したら、
約33μgになるみたい。(既知ならご容赦を。)
素人目には、
「放出した滞留水の合計は 10,393 トン」に対して、
こんな微量で問題になるような物質を(実験室以外で)扱うための技術や手順を、
日本は本当に有していたんだろうか、と思う。
投稿: 774 | 2011-04-17 11:55
774さん、「技術や手順」といえば、ヘリコプターで「二階から目薬作戦」のレベルで、この政府はもはや終わったと思っていましたよ。
投稿: ゴッドマー | 2011-04-17 15:23