保安院が「炉心が格納容器へ漏れ出している」のを認めたことについて
昨日のTwitterでクリップしたニューヨークタイムズ「Core of Stricken Reactor Probably Leaked, U.S. Says」(参照)に目を通した時、不思議に思う点がいくつかあった。アメリカの下院の公聴会で、議員の一人エドワード・J・マーキー議員が日本の原発事故の話を何故持ち出すのかという点と、意外にもこの件で、アメリカの原子力安全委員会(NRC)内部でも情報把握に矛盾があるように感じたことだ。ここが記事の読ませる部分。日本のメディアのやすっぽさと違うのは、その矛盾した組織の質や管理体制を突くようなことを同時に書かない、事実だけを書くスマートさだ。特にこの記事を追うと、福島第一原発2号機の圧力容器の底が抜けているのかいないのか、それを誰がどのように捉えているのかだけが浮かび上がってくる。矛盾についても、読み取るのはこちらで、とても考えさせられて頭が割れそうに混乱した。
時間を置いて、同じくTwitterのクリップ記事で、この件をダウジョーンズニュースワイヤー記事が矛盾点だけを拾って報じていた(参照)。引き続いて、ブルームバーグ記事「米原子力規制委:福島2号機圧力容器、溶けて損傷と認識-下院議員」(参照)とクリップが続くとおりに追って拾い上げてみて、真相がかなりはっきりしてきた。
分かりやすいブルームバーグからその部分を引用する。
4月6日(ブルームバーグ):米原子力規制委員会(NRC)が福島第一原子力発電所2号機について、原子炉の過熱に伴い圧力容器が溶けて損傷している可能性が高いとみていることが分かった。エドワード・マーキー米下院議員(民主、マサチューセッツ州)が6日、下院エネルギー・商業委員会の小委員会の公聴会で明らかにした。
マーキー議員の広報担当ジゼル・バリー氏は、福島第一原発2号機の状況に関する情報は、議員のスタッフとNRCとのやり取りで明らかになったと説明している。
一方、NRCの原子炉・危機管理プログラム担当のマーティン・バージリオ副局長は公聴会後に記者団に対し、NRCは「炉心容器が壊れている」とは考えていないと述べ、日本に駐在するスタッフから毎日数回の報告を受けているが、破損について言及はないと指摘。「圧力容器が失われれば、最後の防御壁の格納容器しか残らない」と付け加えた。
バージリオ副局長は、東日本大震災の余震が続く中で、燃料棒の過熱を防ぐために使われる水によって圧力容器を覆う格納容器が壊れやすくなっているとの米紙ニューヨーク・タイムズの報道について、同紙が引用したNRCの報告は承知していないと語った。
NRCの矛盾点がはっきり浮かんでいる部分は、最後の「米紙ニューヨーク・タイムズの報道について、同紙が引用したNRCの報告は承知していないと語った。」の部分だ。
マーキー議員の広報担当ジゼル・バリー氏が話している通りだとすると、マーキー議員のスタッフとNRCとのやり取りで、圧力容器が溶けて破損している可能性は明確だ。が、マーティン・バージリオ副局長は記者に、破損についての言及はないと断言している部分だけを見ると、NRC内部の情報伝達にミスや漏れがあるのか、共通理解ではないことが見て取れる。
問題は、先日から私が気がかりだった2号機の圧力容器の底抜けの点だ。これは、「福島第一原発廃炉へ、現状からどう向かうのか」(参照)で触れた底抜け問題として、一貫して一番の関心事である。自分の書いた部分だが、再度明記しておくことにする。
炉の水漏れを止めるための修理作業のことだが、底が抜けているとしたら、それを修理するのは可能だろうか。大前氏のこの説は、アメリカのフェアウインド・アソシエイツ顧問で沸騰水型軽水炉を監督して40年の経験を持つアーニー・ガンダーソン氏の見解(参照)に似ている。また、私の知る限りでは、東電はこの件には触れていない。でも私は、この問題が核心ではないかと、実は一番気になっている。
福島第一原発を廃炉にする方向であるなら、葬るまでどのような道を辿るのだろうか。
先の一連記事は、ガンダーソン氏の「底抜け」の見解がやっとまな板に乗ったという気がして、この点が議論さるのを心待ちにしていた。高濃度の放射性物質が水に混ざって海に流れ出した元の原因部分ともなる上、冷却水を入れればその分汚染源を増やすことになる。日本の保安院は、このことをどのように監視しているのか、大変気になっていた。
ここで突っ込むのも気が引けるが、この度の原発事故後、随分経ってから保安院の存在を知り、この機関が何をする機関で、政府とのつながりはどうなっているのかも知らなかった。ニュースで登場してもまるで素人トークで、事故後、日本の一般市民の常識からみてもはるかに勉強不足だと感じた。
話を戻すと、私の記事読みはここまでで、尻切れトンボで気持ちが悪かったが、昨夕、極東ブログで「マーキー米下院議員は福島第一原発2号炉の底は抜けていると主張」(参照)が挙がった。やったー!お待ちかねのまな板に上げる材料が今度こそはっきりするのジャマイカ、そういう期待感一杯でじわっと読ませてもらった。
絶句。何にって、まず私の読み落としに気づいたから。
極東ブログで最後に引用している部分で、日本の保安院の件に触れているのがその部分だ。
But a spokesman for the Nuclear and Industrial Safety Agency of Japan said that he was familiar with the NRC statement and agreed that it was possible the core had leaked into the larger containment vessel.
しかし、原子力安全・保安院広報はNRC声明と同感で、炉心が大きいほうの格納容器に漏れている可能性も同意していると述べた。
この引用部分は冒頭の、最初にクリップしたニューヨークタイムズの事実だけを報じた記事からだった。犯罪者は現場に戻るではないが、最初に分からなかった部分へ戻ってみると、話の全容が見えてきたというわけだ。
実は、その時点で私は保安院のすることに腹立たしさを覚え、冷ますのに少々時間がかかった。冷静になって始めた作業は、保安院を嘘つきだと腹を立てるよりも、どこかで格納容器に漏れ出した事実を認める話をしたのか、その事実はないかと探してみた。
この記事はどうだろうか(産経2011.3.15 08:46)。
福島第1原発2号機で15日午前6時過ぎに起きた爆発で、原子力安全・保安院は、2号機の原子炉建屋に損傷があり、そこを通じて原子炉内の放射性物質が外部へ漏えいしている恐れがあると発表した。
原子力安全・保安院によると、圧力抑制プールは通常3気圧だが、爆発音の後1気圧に下がったため、損傷したと判断したという。圧力抑制プールは原子炉圧力容器の底にある水をためた部分。
また、東京電力は、2号機の爆発を受け、同原発所長の判断で、2号機の監視や操作に必要な人員以外を原発の外へ避難させ始めたことを明らかにした。
海水の注水は継続、原子炉に大きな変化はみられないという。
この記事は3月15日、大きな爆発があった日でもあるが、「圧力制御プール」というのは、先のニューヨークタイムズの「the larger containment vessel」ではないのか?燃料が反応する部分は「原子炉圧力容器」と呼び、その容器を丸ごと覆っているのが「原子炉格納容器」で、「制御プール」へ通じている。産経記事が指している部分は圧力制御プールだが、ここが破損しているという言及にとどまっている。これは、先のニューヨークタイムズで保安院が認めている、「炉心が格納容器に漏れ出している可能性」とは直接的には整合しないが、構造的にはつながっている為、微妙なところではないかと思う。保安院は、どの部分で燃料棒が「格納容器へ漏れ出している」といっているのだろうか。または、どこか他で認めたのだろうか。それが謎。極東ブログの追記部分にもあるが、見解が出ていればなおのこと気がかりは残る。
何かといえば、保安院がこの事実を知っていたのであれば、4月1日、ピットの亀裂から漏れ出している汚染水の出所について察しがついたのではないかと思った。それでなくても、炉心からしか出てこない放射性物質を、既に汚染水から検出しているという経緯もあった。そこで、海洋生物への影響や、漁業関連への通達などは直ぐにはなかったように記憶しているが、このような通達がいつも遅れていると感じる。これが保安院の仕事でなければ誰の仕事だろう、という疑問が常にある。
追記:
マーキー議員が下院の公聴会で福島原発の話を持ち出した理由についてだが、ニューヨークタイムズ(日本語版)「米ペンシルベニア州原発、全電源失えば炉心損壊の可能性=NRC分析」(参照)で、原発に反対派である氏が、原発の危険性を公聴会で説くために、ペンシルベニア州の電源が全て失われた場合を想定して分析した結果を公表し、日本の原発についても言及した。これは、皮肉にも第2号機の炉心溶融と底が抜けている点を決定付ける説明にもなった。
分析は米原子力規制委員会(NRC)が行った。同州ピーチボトムにある原発の2基の原子炉で深刻な事故が起きた場合の影響について分析している。議員らによると、この原子炉は、福島第1原発やバージニア州サリーにある原発の原子炉と似た仕様になっている。
反原発派のエドワード・マーキー下院議員(民主、マサチューセッツ州)は声明で、福島第1原発の2号機の炉心が「非常に高温となっているため溶融し、恐らく原子炉圧力容器から漏れ出している」と述べた。また少なくももう1つの炉心も著しく損壊していると指摘した。
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