イラクとリビア介入を国連安保理決議1441に照らして考え直してみる
国際社会の軍事介入問題は難しい。特に、イラク戦争が何だったの?という疑問が頭をもたげる。また、同様に、リビアの争乱に国際社会が軍事介入した点は置き去りにできない。今まで私も随分悩んできた。日本が直接的に関わっているわけではないにしろ、何が悩みかと胸のうちを明かすと、良心の呵責による苦みのようなものと、どう悩んでもどうにもならない事だと置くに置けないこれって何、と、繰り返し戻ってくる。そして、問題が絞れないことが混乱につながっていた。
昨日、極東ブログ「リビア・ステイルメイト」(参照)は、最初、私の抱える問題の的を絞りやすくしてくれるような気もしたが、とんでもなかった。逆に、国際社会が考え直さなければならない大きな点を浮き彫りにした事にもなり、ついては、またしても私の悩みだなあと受け止めた。
虐殺は、人権を無視した行為であり、これは許してはならない事だとはっきりしているにもかかわらず、リビアへの介入は何か違うものが当初あった。正直な話し、私如きが良心の呵責に苦しんでいるのに、米英仏はどうなんだろうかという見方にもなり、心のどこかで、イラクと何が違うのかと批判的に見ていた。いや、イラクの後だけに、事態はもっと悪いと思っていた。それもあって、リビアへの介入は、当初から「イラク2.0」(イラクのバージョンアップ版)という見方は変わっていない。
そして、極東ブログで引用されている英ガーディアン社説では、「リビアの混乱はまさに国連安保理決議1441の問題であり、それは国連安保理の存在から、世界の国際法のあり方を問い直す」という問題が提起された。私は、この部分から「イラク2.0」を考え直せというメッセージを突きつけられ、自分なりにここで整理しておくことにした。
イラク攻撃直前の国連安保理決議をめぐって各国がどのような主張をしていたか、拾い上げてみた。
- 米国:イラク攻撃の根拠は、国連決議1441、687、678で十分。新たな国連安保理決議は不要。
- フランス・ドイツ・ロシア:イラクが大量破壊兵器を国連安保理決議1441に基づいて完全に破棄したのであれば、その申告義務を履行しているかどうかの見極めに、さらに査察の時間が必要で、継続すべき。当面は、攻撃するべきではない。
- 英国:上記の中間的な意見。短期的な査察延長が必要とし、イラクに義務違反があれば攻撃するという内容の新しい国連安保理決議を要する。
- 安保理非常任理事中間派各国:中期間(45日間)程度の査察延長後、義務違反の有無を判断する。
- 日本:単純に米国支持。
かなり大雑把だが、アメリカ主導の下にイラク戦争が始まったと言われる由縁がここにあり、先のガーディアンが指摘する「国連決議の1441の問題」が理由に挙がる。これは、イラク戦争前に各国が攻撃開始の根拠にしているからで、国連決議の1441自体がそもそもどうよと、ここを疑うことだ。この根拠が崩れることはイラク戦争の正当性がなくなることであり、その決議を採択する基になった国際法自体がどうよと問うことになる。ここが問題の核心であり、考えの的が絞られた部分だ(と思った)。
この国連決議の1441とは何か?一言で言うと、イラクに武装解除を求めることで、主な内容は、Wikipediaにもあるので引用した(参照)。
- イラクが武装解除義務の重大な不履行を続けていると判断
- イラクに、大量破壊兵器および関連計画について全面的かつ完全な申告を30日以内に提出するよう要求
- イラクに、直ちに無条件で国連の査察に協力することを要求
- イラクに、順守の最後の機会を与えたと警告
- 以前の決議(決議1154)で査察の対象外とされていた大統領施設についても査察を認めるよう要求
- イラクの違反が続いた場合、それがイラクに対して重大な帰結をもたらしうるものだと再三警告したことを想起
国連がイラクの武装解除を決議し、その義務に違反したイラクを厳しく取り締まることを全会一致で採択したのがイラク攻撃だ。考える的は、全会一致が正しいとは限らないという点と、国連の決めたことが絶対とするならば、一致していることが必須ではないかと思う。矛盾したような表現になるが、これが国連の矛盾点ではないかと思う部分でもある。
前者の全会一致が正しいかどうかだが、イラク戦争の正当性であった大量破壊兵器の所有の点で、今のとこ存在は確認されていない。念には念を入れて各国が捜査するとしながらも、「あるはず」という仮定での見切り発進を採択した結果、未だに正しかったとは言えない。この点だけでも既に国際審議違反と言える。
また、一致という点では、リビア攻撃は最悪だった。攻撃開始時点で各国のリビア攻撃理由がばらばらで、反対していたトルコなどは無視に近く、米英仏が主導で採択したような背景だった。しかも、アメリカは早くからNATOに引き継ぎたいと言う姿勢を示し、フランスはNATOの介入に不満だった。このことは3月25日の「リビア内戦への軍事介入」(参照)でも触れた。このような不一致は、明らかだった。
国際法を問い直すのであれば、最低でもこの二点を取り上げなくては矛盾したままになる。
問題は沢山あると思うが、あまりに理不尽で、都合よすぎやしないかと思う。
日本は国際法を優位としてそのまま取り入れていることもあり、当初、私自身が国際法そのものを問うという思考回路が働かないこともあったが、胸にあった違和感の元だったのかもしれない。
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