メア氏講義メモ雑感
昨夕のNHKニュースで、ケビン・メア米国務省日本部長の更迭が決まったと聞いた時点で、日本との外交上、それが米政府の現状での得策かと思ったのですが、極東ブログで紹介されているメア氏の講義メモの訳文を読んで、少し違う印象を持ちました。日本との外交上の問題として、アメリカ政府の「更迭」という対応の是非にまで口を挟むつもりは無く、気になったのはメア氏の沖縄認識で、どこでそれを感じたか、また、今後の日米関係にとってどのよな意味をもたらすかなど、気づいた点を書きとめておくことにします。
この講義メモの訳文の一部を引用します(参照)。
Tokyo needs to tell the Okinawan Governor, “if you want money, sign it [agree to the relocation plan].”
日本の政府は沖縄県知事に、「おカネが欲しければ、[移転計画に]同意なさい」と告げる必要があります。
-Japanese culture is a culture of "Wa" (harmony) that is based on consensus. Consensus building is important in Japanese culture. While the Japanese would call this “consensus,” they mean “extortion” and use this culture of consensus as a means of “extortion.” By pretending to seek consensus, people try to get as much money as possible. Okinawans are masters of “manipulation” and “extortion” of Tokyo.
- 日本の文化は、合意に基づく「和」(調和)の文化です。合意形成が日本文化に重要なのです。日本人が「合意」というとき、その意味は「高値のふっかけ」で、「高値のふっかけ」として合意文化を使用するのです。合意を求める振りをして、日本国民はできるかぎりのカネを得ようとします。沖縄の人たちは、日本政府への「手練手管」と「高値のふっかけ」では名人級です。
この部分は、日本のメディアが「ゆすりの名人」という言葉を使って煽り記事のように仕立てていますが(産経)、沖縄県民が望んでるのは現金でしょうか。「合意」の意味は「高値のふっかけ」と、どこでそう思ったのでしょう。例えば、メア氏の経験で、カネでなんとかなる県民だといえるような事実があったとか、そうでなければ、メア氏自身が物事をそう受け止める個人的な思考プロセスがあるからでしょうか。それはそれで良いのですが、この発言は、高官として長く沖縄に滞在しても沖縄県民を理解するまでには至らなかった、という証でしかないように感じました。ですから、ナンセンス。この発言の前提に、沖縄が基地依存しているということでもあれば話はつながります。いずれにしても個人の観方で、そういう意見をお持ちであることは否定はしませんが、公の席で学生に教え諭す内容とも思えません。ただ、沖縄の人々の怒りを受けてみて、これは誤解しているとしかいえない気もします。そうであるなら、この誤解を解かなくては、沖縄県民が何を望んでいるかは永久に理解できずに終わると思います。言われた側も、前提にしていることが見え透いているので、本気で怒ることじゃないと思います。ついでに言うと、この発言を煽りの材料にして報じる日本のジャーナリズムにもうんざりです。問題の核心をそらしてしまい、ゴシップとなるのが関の山です。なっていますが。
次の引用は、メア氏の日本人の本音と建前の説明部分です。
-You should be careful about “tatemae and honne” while in Japan. Tatemae and honne is the “idea that words and actual intentions are different." While in Okinawa, I said MCAS Futenma “is not especially dangerous." My statements caused Okinawans to protest in front of my office. Although Okianwans claim MCAS Futenma is the most dangerous base in the world, they know it is not true. Fukuoka Airport and Osaka Itami Airport are just as dangerous.
-みなさんは在日中は建前と本音に用心すべきでしょう。建前と本音というのは、「発言と行動の意図が違っているという意味」です。沖縄にいた頃ですが、普天間飛行場は特段に危険ではないと発言しました。この発言が、私のいる総領事館前で沖縄の人たちの抗議になりました。沖縄の人たちが普天間飛行場は世界一危険な基地だと言っても、彼らはそれが正しくないことを知っています。危険といっても、福岡空港や大阪伊丹空港と同程度です。
これも不理解の上で成り立っている発言で、普天間飛基地が有する飛行場が世界一危険な飛行場であるかどうかを、他の条件の違う飛行場と比較して論ずる事に意味がない上、総領事館前で抗議された時、それは、何に対する講義かが理解されていないのでは?そうでなければ、この二つの次元の違う話を比喩にできるはずはないと思います。が、こういう話を聞かされて鵜呑みにするのもどうかと思います。
これがオフレコであったのかどうだったかも当然どうでもよい話で、この話のないようは、アメリカ人の世間話程度の軽さだと思います。これが大学の講義だったというからびっくりな話になっただけじゃん、と思うのです。
また、これらの内容が速記で書き取られたものでもなく、テープ起こしでもないメモですから、メモを取った人のフィルターも通っているので、いぜんとしてメア氏の発言そのものでもないわけです。
さて、キャンベル米国務次官補が8日、日本に向けてアメリカを飛び立つ直前のインタービューの内容が気になります。 先の産経が報じているのは次の通りです。
キャンベル氏は来日前の8日午前(日本時間8日夜)、ワシントン郊外のダレス国際空港で記者団に対し、「報道がもたらした誤解について個人的に陳謝したい」と述べ、メア氏の発言自体にではなく、発言報道による混乱に対し、メア氏の上司として「陳謝」することで、事態の沈静化を図ろうとした。
ここで言われている報道とは何を指し、そこから生まれた誤解とは、勿論、日本が誤解しているということでしょう。謝る相手は日本なので、当然こちらで誤解しているという意味のはずです。何が誤解なのか、よく分かりません。
ところが、日本に到着後、氏の姿勢が変わったのです。
しかし、成田空港についた際、一転してキャンベル氏は米政府を代表して謝罪する意向を表明。出発前の発言だけではかえって沖縄の反発を招くと判断、「米国を代表して心から陳謝したい」と発言した。
この変化について、日米外交筋は、「メア氏更迭を日本側に伝えるようホワイトハウスから指示を受けたようだ」と語る。
確かにこのように報じていたのを記憶していますが、途中で急に対応が変化した理由が気になります。何故、そうなったのか。昨夜のNHKニュースが、これもまた微妙なニュアンスです(参照)。
アメリカ国務省のメア日本部長が「沖縄はゆすりの名人だ」などと発言したとされる問題で更迭されたことについて、上司にあたるキャンベル国務次官補は、日米関係を損ねたうえに、外務・防衛の閣僚協議などを控えた重要な時期にあることから、更迭に踏み切ったことを明らかにしました。
これは、日本を訪れているキャンベル国務次官補が、10日、都内のアメリカ大使館で、テレビカメラを入れない形で記者団の取材に応じて明らかにしたものです。この中で、キャンベル次官補は、メア日本部長が「沖縄はゆすりの名人だ」などと発言したとされる問題で更迭されたことについて、「日米関係をある程度損ねてしまい、責任ある行動を取ることが適切だと判断した。メア氏はこれまで日米関係に尽力してきたが、今回の事態を受けて、新たな日本部長を任命するのは避けられなかった」と述べました。そのうえで、「日米両国は、外務・防衛の閣僚協議などハイレベルの会合を控えた非常に重要な時期にある」と強調し、アメリカ政府としては、ことし春に外務・防衛の閣僚協議を行って日米同盟の深化を目指す立場から更迭に踏み切ったことを明らかにしました。一方で、キャンベル次官補は、メア氏について、次の職務は分からないものの国務省には残るとしたうえで、メア氏本人に発言内容を確認するのかという質問に対しては「われわれはすでに謝罪し、立場を明確にしている」と述べるにとどまりました。
あくまでもニュースから受ける印象ですが、メア氏の発言に対しての是非よりも、この大騒ぎの沈静化を意図するものだと明確にしている辺りから、日本人の本質的な部分にきっちり焦点を当てていると感じます。キャンベル氏が謝罪のつもりでアメリカを飛び立った後、日本では大騒ぎになってることに急遽対応したことをうかがわせます。つまり、こういうことで大騒ぎになる国民だと見破られているのでは。そのために、政府の高級官僚をも更迭させ、ポーズをとらざるを得なかったのかという残念な思いが残ります。
昨年、オバマ大統領がアフガニスタン駐留米軍マクリスタル司令官を事実上更迭した事を思い出しましたが、あの時の判断も早かったです(参照)。発言の事実関係を検証するよりは、騒ぎを拡散させないとなると、さっさと蓋を閉じるが勝ちよみたいです。アメリカがこのような対策を講じるのは、発言問題よりも沖縄問題の方が重く、よもや不利益となるからでしょう。
これで何を学ぶか。少なくとも沖縄に関しては理解されてないのですが、日本の政府が沖縄を理解することに尽きると思います。ただ、この政府にはそれは望めそうもないのが、とほほです。角度を変えれば、今回のアメリカの素早い措置、対応は、米政府のための得策というよりは、日本はこれに助けられたとも言えます。
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コメント
>日本の政治家はいつも本音と建前を使う。
>沖縄の政治家は日本政府との交渉では合意しても沖縄に帰ると合意していないと言う。
>日本文化はあまりにも本音と建前を重視するので、駐日米国大使や担当者は真実を言うことによって批判され続けている。
日本人は、「本音と建前」が詭弁であることを知らない。我々は、そのように教育されてはいない。
「沖縄の政治家は日本政府との交渉では合意しても沖縄に帰ると合意していないと言う。」は、当人たちは嘘をついているということである。
このような態度では、我々は統一ある世界に近づくことはできない。
日本人の判断基準は、「世の中は、、、、」(現実の内容) ということ。
英米人の判断基準は、自分の考えの内容 (非現実の内容) である。
本音も建前も現実の中にある。だが、理想は現実の外にある。
だから、日米間では話は合わない。不信感は募るばかりである。
日本人には、問題を解決する能力がない。だが、事態を台無しにする力を持っている。だから、厄介である。
この厄介が閉塞感の原因になっているのかもしれない。
http://d.hatena.ne.jp/takashi1982/20110307/1299426703
投稿: noga | 2011-03-11 17:39