2011-03-05

バングラデシュ グラミン銀行総裁ユヌス氏解任の背景について

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 国際的に取り上げられるような目立つこともあまり聞かないバングラデシュのことですが、一昨日、NHKニュースが報じた「ユヌス総裁“解任取り消しを”」(参照)にはちょっと驚きました。
 ユヌス氏(70歳)といえば、貧困に苦しむ人たちに無担保で融資を行うというグラミン銀行の創設者で、これを評価されて2006年、ノーベル平和賞を受賞した人物です。それが、解任される事態になっていたとは、何が起きたのかという疑問を持ちましたが、ニュースからはその背景がつかめなかったの調べてみました。
 元になったニュースは次の通りです。

バングラデシュの中央銀行は2日、「ユヌス氏が中央銀行の承認を得ずに総裁に就任していた」として、ユヌス総裁を解任する命令を出しました。これを受けて、ユヌス氏は3日、この命令を不服として首都ダッカの高等裁判所に処分の取り消しを申し立てました。申し立てが受理されれば、今後、法廷の場で解任の是非が争われることになります。ユヌス氏は、貧困に苦しむ人たちに無担保で小口の資金を融資する「マイクロクレジット」と呼ばれる制度を考案し、みずから設立したグラミン銀行を通じて、貧困層の自立を支援したとして、2006年にノーベル平和賞を受賞しています。ユヌス氏は、ここ数年、バングラデシュ政府の腐敗や汚職を批判して、政権との対立が深まっていたほか、去年末には、グループ企業に不透明な融資を行ったと報じられ、グラミン銀行は否定したものの、政府は、ユヌス氏の辞任を求める圧力を強めていました。

 この記事から受ける印象は、政府の腐敗を批判する反政府側を強権的に弾圧し、臭いものには蓋をしろ的な構図のように取れますが、辞任の直接的な理由と見られる「中央銀行の承認を得ずに総裁に就任していた」や、「不透明な融資を行った」などは、ノーベル平和賞受賞そのものを否定するような内容とも取れます。だからこそノルウエー政府が国営放送を通してまで報じるわけですし、ユヌス氏が申し立てをしているのだと受け止めるのが筋とは思います。
 まず、記事中の「ユヌス氏が中央銀行の承認を得ずに総裁に就任していた」については、英フィナンシャルタイムズの3月2日記事にその詳細がありました(参照)。

“According to the bank's legal advisers, the founder of Grameen Bank, Nobel laureate Professor Muhammad Yunus, is accordingly continuing in his office,” the bank's management said.The government controls 25 per cent of the voting membership of Grameen's board of directors and has appointed a chairman, making a battle for control likely.
銀行側によると、ムハマドユヌス氏(グラミン銀行の創設者で、ノーベル平和賞受賞者)は、顧問弁護士よってその執務を認められているとしている。一方、グラミン銀行株を25%有する政府の承認を得ずに総裁に就任していると反論している。

 これはいったいいつのことか?グラミン銀行設立の1983年当時のことを蒸し返しているとしか考えられません。さらに同記事では、銀行法で、定年60歳としていることをも解任を正当化しているようです。確かに、総裁として長く君臨してきたのは確かだと思います。
 また、NHKニュースの「グループ企業に不透明な融資を行ったと報じられ、グラミン銀行は否定したものの、政府は、ユヌス氏の辞任を求める圧力を強めていました。」の不透明な融資とは何を指しているのか、これを調べると、12月1日、ユヌス氏の100万ドル流用疑惑が原因ではないかとする記事があります(indianexpress)。

Bangladeshi Nobel laureate Muhammad Yunus has been accused of stashing some USD 100 million originally for microcredit operations of his Grameen Bank to his another venture in 1996, breaching agreements with donors and violating the country's financial rules.
1996年,グラミン銀行の資金100万ドルをグラミン銀行の下部組織に回したのは財務上違法である。

 としていますが、実はこの100万ドルは、ノルウエー政府からグラミン銀行への資金提供であったため、下部組織に流用したのはノルウエーとグラミン銀行間の取り決めに違反するというのが本筋のようです。しかも、この後12月8日、この資金をグラミン銀行に戻したことで解決しているとノルウエー政府はユヌス氏を擁護する声明を出しています。
 以下は、これに間違いないとする声明です(参照)。

"There is no indication that Norwegian funds have been used for unintended purposes, or that Grameen Bank has engaged in corrupt practices or embezzled funds," Norwegian minister for environment and international development Erik Solheim said in a statement issued by the country's foreign ministry.
 ノルウェー環境大臣と国際開発エリック・ソーエム氏は、ノルウエー外務省が明らかにした「グラミン銀行は、ノルウェーからの資金を故意に目的外使用したり、基金を横領したとい事実は全くない。」という公表した。

 この100万ドル疑惑も、10数年も前の話です。にもかかわらず、昨年末にバングラデシュのテレビで放送された事から何を連想するかと言えば、政府のユヌス氏への弾圧としか思えません。誰がこのいちゃもんをつけているのかは、先のフィナンシャルタイムズが、現首相だと報じています。

Sheikh Hasina recently expressed open scepticism about the benefits of microfinance , and outright antipathy towards its famous pioneer, accusing microlenders of “sucking blood from the poor in the name of poverty alleviation”.
現首相のハシナ氏には、最近マイクロファイナンスの利益に関して懐疑的な見方があり、「貧乏人から、貧困緩和の名にかけて吸血する」とあからさまに訴えている。

 二人の関係は2008年の選挙の際、二大政党に批判的なユヌス氏が新党を発足させるなどの政治活動を展開し、政府批判をしたことなどが現政権の不興を買っているという背景があることを報じています。
 この選挙は、2007年1月の予定でしたが、政党内の対立により夜間外出禁止令が出されるほど情勢が不安定になったため、翌年に延期されたという経緯もあります。これってどこの国にもありがちな、足の引っ張り合いじゃないのか?ただ、バングラデシュに関しては、ノーベル平和賞の受賞であることや、その認定をしているノルウエーが、授与者として相応しいかどうかを見極める味もあり、世界のメディアが取り上げるのはもっともだと思います。
 因みに、ハシナ氏の言いがかりである「貧乏人から、貧困緩和の名にかけて吸血する」と言う根拠はあるのか?そこを調べてみました。
 「マイクロクレジット」と呼ばれている無担保小額融資制度が、グラミン銀行の貸付けシステムです。これは、貧困層でなくても嬉しいシステムですよ。一般的に、土地や建物を持っていないと借り入れできないのは当たり前で、本当に困っている人には貸してくれないのが銀行というイメージはあります。それだけならとても良い制度ですが、金利は年利20%だそうです。因みに、日本の住宅金融公庫の年利は、最初の10年が2.2%ですから、約9倍。カードローンでも10%です。と、ここでハシナ首相も単に罵っているだけではないのかと思ったのですが、とんでもない、バングラデシュの高利貸しの金利が100%以上だと知り(Wikipedia)、グラミン銀行の利息はベラボウでもないと思いました。というか、物価上昇率の高さを加味すると、相対的には低いと言えそうです。
 やはり、今回の騒動は、どう見てもハシナ氏の言いがかりのようにしか思えません。
 オチもヒネリもない、つまらない話でした。

追記:「オチもヒネリもない」と書いてみて、何か面白い話はないかとネットで探したところ、極東ブログ「どういう恰好で寝るべきなのか」(参照)で、今日のエントリーとは全く関係ないのですが、バングラデシュ人の寝る時の習慣について触れています。エントリーそのものが面白いのでリンクを張ります。握手をして融資の成立を確認するのが信用貸しの方法だと言うグラミン銀行ですが、人のよさそうな国民と言う気もします。そして、政権転覆を何度も繰り返すバングラデシュにある日、ノーベル平和賞を授かると言う栄誉が転がり込み、銀行総裁の座から引きずりおろされるような不名誉は、これだけでも大きな問題だったといえそうです。

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