立ち上がった!世界銀行のゼーリック総裁-「人々が栄養のある食物に確実にアクセスできるように」
長期化しているエジプトの動乱で、昨日までに推定300名が死亡、6000人が負傷しているという発表を知り、あれだけの人が集まれば乱闘が起きたりするのも当然だとは思いますが、独裁政権に対してこれが民主的な対抗措置であるなら気が済むまでとことんやったら良いという気もしています。ただ、日に日に犠牲者が増えることと、国全体が麻痺状態となっていることが気になります。
一昨日もパンの争奪で死者が出たと報じていて、エジプトで主食のパンが入手困難になるということは、ただ事ではないわけです。日本でも15年くらい前でしたか、米不足で一時タイ米に頼ったことがありましたが、現在起きている食糧難はアフリカに限らず、世界的なレベルでもあります。これは、先月、チュニジアで起きた暴動の背景の話でも書いたとおり、いくつかの要素が重なった結果です(参照)。とはいえ、何とかならないものかと調べているうちに、世界の食料需要に対して生産が追いついていないということが問題だとわかりました。じゃー、どんどん作ればいいじゃんと思うのですが、どうもそれが上手く回らないようです。原因となっている事は何か、これを少し掘り下げて調べてみました。
昨日、ワシントンD.C.に本部をおく世界銀行のゼーリック総裁から御触れが出ていました(「食品価格高への国際的な対応が必要=世銀総裁」ロイター2011年 02月 3日)。こんな感じの方☟
同総裁は、20カ国・地域(G20)の首脳に対し、貧困国を脅かし、主にアジアの発展途上国でインフレを押し上げている食料価格の高騰と変動幅の拡大への対応を最優先課題にするよう要請した。
2011年のG20首脳会合議長国であるフランスのサルコジ大統領は、商品価格の変動と国際金融システムの改革を優先議題に挙げているが、ゼーリック総裁は、人々が栄養のある食物に確実にアクセスできるようにするため、現実的な対策を打ち出すことが重要と強調した。
総裁はまた、食料価格の上昇による影響を受けている貧困国への緊急支援措置を再開したことを明らかにした。ただ、最近の価格高によるアフリカ諸国への影響はそれほど深刻ではないとの見解を示した。
世界銀行などに一般市民は用事が無いので存在を忘れがちですが、世界銀行とは、各国の政府を相手に直接的な融資をする銀行です。ここのトップが動き出すとなれば少し安心したのですが、引用の「アフリカ諸国への影響はそれほど深刻ではないとの見解」の言及は、個人的に気に入りませんが、理由はわかります。アフリカは産油国ですから外貨取得に困ることのない国です。貧困を生んでいるのは、政府が悪いという理由に尽きるのは理解できます。では、世界ではどれだけ深刻なのか、国連食糧農業機関(FAO)の情報を借ります(ロイター2011年 02月 3日)。
食料価格の高騰により、1月の国連食糧農業機関(FAO)食料価格指数は2カ月連続で過去最高を更新し、2007―08年の食糧危機時の水準を一段と上回る見通しとなっている。
穀物、油糧種子、乳製品、食肉、砂糖で構成される食料品バスケットの月間価格変動を測るFAOの食料価格指数は昨年12月、食糧危機時の08年6月につけた過去最高を更新した。
FAOはこれまでに、食品価格が一段と上昇する可能性があると警告し、世界の気象パターンに懸念を表明している。
昨年の黒海での深刻な干ばつや、オーストラリアの豪雨、アルゼンチンの干ばつに加え、北アフリカと中東の政局不安を受けた需要増加期待で、穀物価格は数年ぶりの高水準に上昇している。
また、米国の穀倉地帯が吹雪に見舞われていることを受け、小麦先物は2日も引き続き圧迫された。
あの2008年を上回るというのに、深刻じゃないわけねぇーだろとは誰も言いませんが、食料価格指数は物価の高騰の裏づけとして、今から手を打っても早過ぎることもないはずです。何故、アフリカに言及して「影響ない」と言えるのか?そっちに深刻な問題がありそうな気がします。
また、価格高騰の原因は投機マネーによる値上がりや品不足が起因しますが、今起きている事を具体的に言えば、昨年の世界的な天候不順で市場が不安定になったため原油の買い占めなどの投機マネーによる値上がりと、中国などの新興国の景気上昇によって需要が拡大し、品不足になった事があります。では、中国の意見はどうなの?と、当然関心が向きますが、あちらからはあまり聞こえてきません。中国というのはなんというか、国内向けと国外向けで言うことが違いますし、国外で言うことも違うのです。中国市民が政府に不満があるときは、政府は沈静化のために日本を悪者に仕立てます。それも演じれたら大したものですが、日本政府は真に受けてしまうので困ったものです。嗚呼、脱線。
温家宝首相が、旧正月の挨拶で国内向けに演説したのを見つけました(ロイター2011年 02月 2日)
中国国営メディアは2日、温家宝首相が、旧正月の演説でインフレ抑制と不動産投機取り締まりへの決意を示したと伝えた。
温首相は、消費者物価全般の安定に努めると表明。今年は困難な問題に対処する必要があるとの認識を示した。
人民日報によると、首相は「われわれの行く手には依然として数多くの困難、問題が待ち構えている」と発言。
「人々が最も懸念する問題を解決する必要がある。過度な物価上昇を断固として防ぎ、確固たる姿勢で不動産市場をうまく管理していく必要がある」と述べた。
菅さんよりはすっきりしていますが、簡潔明瞭過ぎ。これだけで私が何を読めるか?ですが、これってもしかして、中国は自国の価格安定のために外国からどんどん輸入するということでしょうか。それは、つまり、国際相場が上がるということになります。あれっ、と思ったのですが、現にそうなってきています。ふむ。
また、不動産取得についてですが、中国の地主さんは政府ですから、この問題はどうにでもなるんじゃないのかと単純に思います。土地に投資したくても、中国国民は政府から土地を有償で借りていると言ったらいいのかな?だから、何の意味かよくわかりません。悪しからず。
そして、価格高騰の原因の極めつけが、オイルマネーというところでしょうか。この辺もロイターで記事がまとまっています(ロイター2011年 02月 2日)。
食料インフレによる社会不安を警戒する中東の産油国が、食料の買い付けを急いでいる。在庫の積み増しで価格高騰を防ぐことが狙いだが、大量のオイルマネーが食料市場に流入すれば、広範な物価上昇をもたらす恐れもある。
食料インフレは各地で暴動や反政府デモの一因となっており、チュニジアやエジプトの混乱が自国に飛び火することを警戒する中東湾岸諸国は、海外からの食料輸入加速に加え、海外農地への投資にも乗り出している。<サウジは小麦備蓄を拡大>
サウジアラビアは先週、世界的な食料インフレを懸念していると表明。すでに3年以内に小麦備蓄を倍増する意向を示している。
中東最大の経済大国であるサウジには、大量の外国人労働者が流入、約1900万人の自国民は高失業率に悩まされている。<アルジェリアも大量の買い付け>
アルジェリアは1月、100万トン近い小麦を買い付けたことを確認。穀物輸入を緊急に増やすよう指示を出したことも明らかにした。
リビア国営石油のガーネム代表は、商品価格全般が値上がりしており、原油高は正当化できるとの考えを繰り返し示している。
同代表はロイターに「食品価格の高騰分を補うには、1バレル100ドル前後の原油価格が必要だ。食品価格の上昇は、所得が大きく減ることを意味する」と述べた。<途上国の農地を買収>
湾岸諸国は、食料安全保障のため、途上国の農地買収にも乗り出している。
湾岸諸国の海外農地買収も、食料インフレの原因となり得る。
IHSのランドルフ氏は「もしサウジやカタールが、マダカスカルの農地を買収すれば、現地の物価に壊滅的な影響を与えるだろう」と指摘した。
ざっと拾ったという感じですが、この動きはヤバイです。中国は世界の約20%の人口でアフリカは13.7%ですから、世界一の人口を誇る中国と産油国が、資金力をもって買いあさりを始めると、貧困な国への供給が減るだけではなく物価も上昇します。そうなると、今度は、国際的な争奪戦へと展開します。パンどころの話じゃなくなります。
世界銀行の総裁が仰るとおり、アフリカはオイルマネーがあるので直ぐに困るようなことはないにしろ、それでも世界を揺するような大きな暴動が起きては飛び火しています。アフリカも範疇に入れた対応をお願いしたいです。
先日、小麦粉が少なくなってきたという情報をTwitterで知り、慌てていつもよりも多目に買ったばかりの私です。なので、外国を取り上げて、他所事みたいな話をするはお恥ずかしい限りです。
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