2011-02-01

ミャンマーが欲するものは「民主政権」に非ず-報道への違和感

 ミャンマーでは昨日予定どおり新国会が召集され、民政移管に向けた第一歩を踏み出したようです。と、書いた時点ですでにアウトだと言われそうですね。この議会が予定とおり行われただけでも評価に値すると言えるのだろうか、という疑問も同時に起こるのかもしれません。が、私はミャンマー情勢を報じた内容に少し違和感を持ちました。
 各紙が報じているのを見ると、注目されているのは民政移管を見せかけた軍事政権の維持に他ならないのではないかという見方と、そうであるなら国際社会の評価として、制裁の解除に値するか、その査定に焦点が当てられています。そして、この判断を左右するとも思われている軍のタンシュエ氏が横滑りして再選されるかどうかです。
 これまで独裁的権限を振るってきたタンシュエ氏が民政移管後の国家元首である大統領に横滑りすれば、民政移管が見せかけに過ぎないという証となり、制裁を加えているアメリカや国際社会との関係回復はどうなるのかという点です。
 日が変わって2月1日、毎日では、タンシュエ氏の後継者と目されているシュエマン前軍総参謀長(63)が議長に選出されたと報じているので(参照)、タンシュエ氏の横滑りはほぼ確定ではないかと思われます。悪い予感が当たったというか。では、これでミャンマーへの制裁措置解除の方向性も閉ざされてしまうのだろうかということに問題が移ります。
 結局、その犠牲になるのがミャンマー市民で、極貧生活を強いられているのが実情ですから、軍政権に民衆の声を届けてゆく以外に方法はないとなります。その望みと言ってもよいのか疑念もありますが、昨年11月の総選挙で、民主化勢力としては、民主化指導者アウン・サン・スー・チーさんNLDから分派した国民民主勢力(NDF)が上下両院で計12議席を得ています。選挙自体が民主的ではないと、アウン・サン・スー・チーさんは、この選挙をボイコットしています。
 この制裁措置について、今月16日東南アジア諸国連合(ASEAN)非公式外相会議での評価はスー・チーさんの解放などからも、経済制裁の解除・緩和を欧米諸国に求めていくことで一致したそうですが、立場を変えると、野党勢力にとっては制裁は軍政との交渉材料でもあるので、これを失うことは政治的には不利になります。
 スー・チーさんはこの件に関してかなり慎重ではあると報じていますが、スイスのダボス会議にビデオメッセージを送って訴えているのをみると、そうでもないような感触です(毎日新聞 2011年1月29日)。

【ダボス(スイス東部)伊藤智永】ミャンマーの民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんは28日、スイスで開かれている世界経済フォーラム(ダボス会議)に「私たちは地球社会の一員となることを切望している」とのビデオメッセージを寄せた。

 スーチーさんは「ミャンマーは東南アジア最貧国の一つなのに、50年以上に及ぶ軍事政権と政争で、人々が教育や健康への多くの機会を失ってきた。国民の和解と政治の安定がなければ、社会と経済の発展は夢物語にとどまる」と強調。

 会場の投資家や企業経営者らに「私たちにはインフラが必要だが、皆さんは投資する際、法律の順守、環境や社会、労働者の権利、雇用創出、科学技術の普及促進といった点に特に注意を払ってほしい」と訴えた。

 スー・チーさんのこのような個人的な声が国際会議に送られ、その場で公表されるというのは、個人でできることとして知名度の高さを思いますが、考えてみると、ミャンマーの軍政権内で声を上げずとも、このような方法で国際社会に呼びかけのできる人物がミャンマーに存在していることに大きな意味があるのだと思います。
 ミャンマーにとって、早急に暮らしを安定させることが急がれている中、制裁解除を許してしまうと軍への交渉材料がなくなるというのは本当にそうなのだろうか。議会を民主的に運営することの条件に、国際社会からの支援を並べて書き、なおかつそれを餌に軍政権だけ批判的に報じることは、何か情報が間違ったものとしてすり返られてしまうような錯覚を起こしただけじゃないのかと感じます。
 イギリス植民地から独立後、ミャンマーを取り巻く物騒な周辺国に対して、守る立場である軍は、民族国家を目指しながら今のミャンマーを建国させてきたのも事実です(参照)。この国にないのは、経済発展だけではないのかという印象です。先に挙げたスー・チーさんの訴えからも、ミャンマーの人々が求めてるのは、貧困から脱することではないのかと思います。メディアの捕らえ方なのか、私の読み方の間違えか、「民主化」という言葉に少々誤魔化されて、ミャンマーが必要とするものを見失いがちですがミャンマーの人々が欲しているのは仕事ではないのかと思います。
 軍政権に注文をつけるとすれば、経済にキーンな人物を政府内に登用することです。それと、間違っても日本の二の舞はしないことです。

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