パキスタン情勢の深刻化に伴い、日本政府が問われる問題
米バイデン副大統領がパキスタン訪問を終えた1月12日の時点で取り上げたアメリカとパキスタン情勢を記録したのを最後に(参照)、ここでは取り上げるでもなかったのですが、21日から3日間、パキスタン大統領が来日し、これを報じた朝日新聞社説では来日目的がはっきり掴めず、混沌とした気持ちでした。
見出しは、「パキスタン―南アジアの安定に協力を」(朝日)で、読み進めると、この記事の論旨が終盤になってぼやけてしまったのです。記事を臭しても始まらないのは承知ですが、以下がその部分です。
ザルダリ氏は今回、菅首相に原子力協力協定の交渉入りを促した。NPTに未加盟のまま核武装したインドと、日本が進める協定の締結交渉をにらんだ動きだ。協力が進めば、インドはそこで生まれる余力を核兵器開発に振り向けるとの不信感が背景にある。
もちろん、核関連技術・物質の管理に不安が残るパキスタンと協定を結ぶわけにはいかない。ただ、インドと協定の交渉を進めればパキスタンも同様な要求を出すのでは、との懸念が現実化したことを忘れるべきでない。
南アジアでの核軍拡を防ぎ、中国も含めたアジア全体の核軍縮・不拡散外交を進めることが不可欠だ。インドとの交渉では、核実験の停止を協定に盛り込むべきだ。それを足場にアジアで新たな核軍備管理の道を模索したい。
パキスタンとインドの関係は、これまでに何度も触れてきたとおり、中国がパキスタンの核施設建設など支援をしている背景などから、インドはパキスタンに照準を合わせて核開発を進めていると言われ、パキスタンの原子力協力協定の要請においそれと応じるわけにもいかない日本のはずです。
また、「アジアで新たな各軍備管理の道を模索したい」という記事の結びは、これって日本が担うべきことへの示唆を仄めかしているのか、執筆者の思いなのかが曖昧でボヤケています。究極、日本政府への要望として、パキスタン大統領が日本に望んでいる「原子力協力協定」に、日本はどう答えを出すかを政府に言いたいのでしょうか。このように、私個人の思考レベルやパターン化した考え方が邪魔しているのか、目の前の問題が宙に浮いてしまい、何を視点に考えたらよいかを見失ったのです。
加えて、記事の日付の記憶は定かではないのですが、TwitterでクリップされたAFPの記事によると(参照)、アメリカ人男性が、パキスタン・ラホールで二名のパキスタン人を射殺した件について、米政府はこの対応に追われている状況を知りました。また捜査中に、この男性がCIAの契約社員であることが発覚し、パキスタンから計画的な犯行ではないかと疑念を持たれています。また、この現場に向かった在パキスタン領事館の車が死亡事故を催し、パキスタン人一人が亡くなっているなど、相次ぐ失態を繰り替えてしているアメリカ政府の状態が念頭にありました。
つまり、パキスタン大統領にどう答えるかは、日本としては、アメリカのこの現状を配慮すべきですし、朝日記事のタイトルのような「アジアの安定」以前に、アフガニスタンを見据えたアメリカの対パキスタン外交にとって、日本がどう対処するのが現時点でのベストなのか、それを模索する方が先決問題だと思うのです。と書いて、このように思えたきっかけとなったのは、昨日の日経社説「パキスタン支援を強めよう」(参照)を読んで、空気嫁的なズレを感じたのです。そして、昨夕の極東ブログ記事「深刻化するパキスタン問題」(参照)を読んで、話しの筋道が立ったというものです。
では、筋道が立ってば具体的な結論に至るのか?とさらに進めてみても、ここから先は菅政府に考えてもらうしかないのですが、今後のこの動きで最も需要な点は押さえておきたいです。
それは、アメリカは、核軍拡を進めてきているパキスタンの核化を抑制することが不可能な事態になっている点です。この指摘は、極東ブログ本文中のニューヨーク・タイムズ社説から引いた部分で解説されています。
仮に、アメリカがパキスタン支援を中断すると脅かし、核化に圧力をかけたとすると、待ってましたとばかりにアフガニスタンに侵略され、核兵器が奪取されてしまうだけだという理屈です。いやこんなに簡単なことなのかという思いはありますが、シンプルにそういう事なのだと解しました。ましてや、パキスタン人を殺害したCIAの男性の身柄を拘束されている状態では、アメリカも足元を見られるのが関の山というものです。だから、「支援」は餌にもならず、ストップもできない。そうかと言って、日本がパキスタンの支援要請や核協力協定を受諾すれば、さらに核軍拡に走らせてしまい、それは、アメリカの意図に逆らってしまう結果となると考えるのか。または、アメリカの引くに引けない、押すに押せない致し方のない状況での支援に同調するのが順当な道なのか、判断は難しいところです。同時に、日経が言うように、日本とパキスタンが協力関係を結ぶとしたら、インとドパキスタンの敵対関係を承知でダブルスタンダード的なポジションをとることになると思います。
日本の政府は、この局面をどう切り抜けるつもりなのか、今後が気になります。
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