2011-02-13

漫画「のらくろ(田河水泡)」のこと

 「のらくろ」。それは、田河水泡の漫画で、主人である野良犬のこと。またしても残念なことに、私は読んだことがない。またしてもというのは、以前ここで触れた「ヒストリエ」の事を思い出したからなのです(参照)。全6巻のヒストリエが、おそらく私の生涯で一番まともに読んだと言える漫画で、漫画読みが苦手なのです。昔、友達から少女マンガを借りて読んだことはあるのですが、直ぐに読むのに疲れるのです。また、母が漫画嫌いであったため、漫画を読む環境が家になかったというのもあるのです。
 何故、唐突に読んだこともない「のらくろ」の話がここにこぼれているかですが、昨日、この漫画は日本の戦前・戦中を知るのに読むとよい漫画なのだとTwitterで知り、読みたいと思って調べてみたのです。それと言うのも、戦争は、私が身近に感じることのなかった一つなのです。
 母は昭和3年、父は大正15年生まれですが、戦争当時、母は中国で育ち、父は戦争に召集されて入隊したばかりだったそうです。が、入隊した途端にソ連の捕虜となってシベリアに抑留されたため、実戦の経験はないのです。戦争の話を両親から聞いたことがないのはそのためで、特に、日本軍の話などは皆無なのです。
 この「のらくろ」について調べながら僅かながらに思い出したのは、テレビで見た記憶です。確か、黒い犬がヘルメットを被って動いていたという程度の事で、それは猫のようでもありました。その頃私は、学校の部活か何かで忙しくしていたのでしょう、じっくり見た記憶はないです。
 ここで出来れば読んでおきたいと思い、早速アマゾンや古本をネットで当たったところ、最初に書かれた「のらくろ」は、戦後、書き換えられ、そのまま復刻版になったそうです。では、どんな漫画だったのだろうか?疑問のままに調べたのですが、探すとないもで、全巻揃うかどうか分かりません。そもそもこれはどんな内容なのか?Wikipediaにはこのようにあります(参照)。

 ノラ(孤児)の黒犬・のらくろ(野良犬黒吉)が猛犬連隊という犬の軍隊へ入隊して活躍するというお話。最初は二等卒(二等兵)だったが徐々に階級を上げ、最終的に大尉まで昇進する(当初、のらくろを少佐に昇進させるつもりだったが軍から苦情があり、やむを得ず大尉で除隊させた。別説では、少佐になると偉くなり過ぎて前線にはやたらに出せず、動かし難い。戦後に描かれた話には、戦闘描写はあるがほとんど誰も死なず、物語の序盤で軍隊は解散する。孤児ゆえの辛さを描写する事もあるが、田河はこの辺りの描写を自分自身と重ね合わせたという。ブル連隊長、もしくはモール中隊長が父親的な役割を演じている。いわゆる正伝では最終的に所帯を持ち、喫茶店の店主になるが、外伝では様々な職業を手がけている。

 そして、作者については(参照

 田河 水泡(たがわ すいほう、男性、1899年(明治32年)2月10日 - 1989年(平成元年)12月12日)は、昭和期に活躍した日本の漫画家。現代美術家から転じた。世界で初めての専業落語作家でもある。東京市本所区林町(現東京都墨田区)出身。義理の兄は文芸批評家小林秀雄。
本名・高見沢 仲太郎(たかみざわ なかたろう)。現代美術家としての名は高見沢 路直。落語作家としてのペンネームは高沢路亭。

 田河水泡の名前の由来は、「高見澤」をローマ字で「TAKAMIZ・AWA」と書くと、田河水泡になるからで、ローマ字のようにきちんと読んでもらえなかったからだそうです。
 1931年から今の講談社の「少年倶楽部」に連載され、1941年、内務省からのクレームで打ち切られたとありますが、その後もキャラクターとしての人気を博していたため、田河の弟子によって新作が発表されたとあります。私の記憶にある「のらくろ」は戦後のそれもずっと後なので、キャラクターとしてのイメージしかないことにここで気づいたのです。実際、のらくろのぬいぐるみや学用品のキャラクターを見かけたことも思い出しました。
 ますます当時の「のらくろ」がどのような漫画だったのか知りたくなり、掘り当てたのがこれです(参照)。

Img159e

9 ブル聯隊長「あの鉄条網はどうしても爆弾で爆破せねば攻めとることは難しいな」
10 決死隊「聯隊長殿 自分達三人で決死隊になります」 ブル聯隊長「爆弾を投げに行ってくれるか えらいぞ」
11 決死隊「御国のためだ 命はいらない」
12 爆発音
13 ブル聯隊長「それッ このひまに突ッ込めェ」 兵隊「突ッ込めェ」 モール中隊長「あの三人を犬死にさせるなッ」 のらくろ「一番乗り のらくろ一等兵 ここにあり」

 当時の漫画には、コマごとに読む順に番号があるのにちょっと感動しました。予断ですが、「ヒストリエ」を読み始めた頃、読む順番がわからない(番号がない)ので疲れるという話をしたら、そこが漫画の読ませどころなのだと教えられたのです。この時から、てっきり漫画のコマには番号を付さないものと思い込んでいたのです。
 戦前の初等科の国定教科書になっていた「三勇士」でこの三兵士が、正に鉄条網破壊のため、自爆して突破口を作ったと言われて英雄になった下りです。「肉弾三勇士」とも言って、自爆による英雄だったのです(参照)。しかも、年号に注目。満州事変が勃発したのは1931年9月で、「のらくろ」の連載も1931年12月ですから、戦争で起きた事をまるで実況のように漫画として世に広めたわけです。これは、田河の性格のせいなのか、それとも製作者魂というべきか、海の向こうでは戦争の真っ只中だというのにいずれにせよ暢気なものだと思いました。
 さらに調べると、のらくろシリーズ全10巻が単行本化されたのは翌年からで、『のらくろ上等兵』(昭和7年12月)、『のらくろ伍長』(昭和8年12月)、『のらくろ軍曹』(昭和9年12月)、『のらくろ曹長』( 昭和10年12月)、『のらくろ小隊長』(昭和11年2月)、『のらくろ少尉』(昭和12年5月)、『のらくろ総攻撃』(昭和12年12月)『のらくろ決死隊長』(昭和13年8月)『のらくろ武勇談』(昭和13年12月)『のらくろ探検隊』(昭和14年12月)。このように、のらくろは昇進してゆく様が分かります。また、最後の「のらくろ探検隊」は昭和14年、つまり、十五年戦争と言われる年代にそっくりかぶっています。
 十五年戦争とは、1931年(昭和7年)の満州事変から日中戦争を経て大東亜戦争の終結の1945年(昭和16年)までですから、 大東亜戦争終結の二年前に政府からお咎めをいただいて幕を閉じたということになります。
 第一巻の「のらくろ上等兵」の結末について、リンク先では次のように触れています。

 この戦闘の一番乗りの功により、のらくろ一等兵は、上等兵に昇進します。そして、亡くなった3匹は、それぞれ金鵄勲章の栄誉にあずかるわけですが、ラストのコマで、戦死者の墓を前に「一しょに凱旋しようと思つた戦友は名誉の戦死を遂げて自分ばかり上等兵になつてすまないなァ」と泣くのらくろの描写でこの話は終わります。

 また、『のらくろ総攻撃』・『のらくろ決死隊長』・『のらくろ武勇談』の3作では、動物のキャラクターを戦争に関わった国にたとえて、山羊は蒙古で、豚の国の豚勝(トンカツ)将軍が、そこに駐留する猛犬連隊に腹を立て、熊の国の支援を頼りに戦争を仕掛け、豚の国の一部と見なしていた羊の国を猛犬連隊の力で独立させてしまったとあるのです。 

猛犬将校  オイオイ、豚勝将軍 君の方ではまた戦争をする気だそうだがやめた方がいいぜ平和のために

豚勝将軍  そんなら羊の国を返すあるか

猛犬将校  君はまだ分からないのだな 羊の国は羊が独立したのだ
          犬がとったのじゃない だから豚は豚でおとなしくしていればいいじゃないか

豚勝将軍  そんなら犬は犬の国へ帰れ豚の国に出しゃばって守備隊なんかに来て呉れんでもよいある

  猛犬将校 バカ言え 犬が守備してやらなければ豚の国は熊に食われてしまうぞその時に困るから守備してくれと君の方で頼んだのじゃないか

豚勝将軍  アハハア そうか それ忘れてた どうか守備隊様々頼むある

 漫画の下りとは言え、しかも不謹慎かもしれませんがじーんと泣かせる内容で、当時の人のやり取りを漫画の中の会話がまるで再現しているように感じ取るのは間違いなのだろうか。極一部の抜粋とは言え、今風のギャグで茶化したりオノマトペ的な表現ではなく、生きた会話による筆致という印象を受けます。
 手塚治虫の漫画の一代前に、田河のような漫画家がいたとは知りませんでした。亡くなったのはいつだったのか調べると、田河は1989年(平成元年12月12日)に90歳で、因みに、手塚治虫は同年2月9日に61歳で、昭和と共に去ってしまった漫画家だったのです。

|

コメント

豚ロースのピッカータのレシピを参考にさせていただきました。大変おいしかったです。

たまたまのらくろの記事が目についたので、自分がこの漫画を見かけた場所をお教えします。
一つ目は国会図書館です。すべての本が閉架にあるため、本が出てくるまで少しかかります。
二つ目は、京都国際マンガミュージアムです。こちらは入場料さえ払えば、オープンな棚にあるため誰でも手に取れるようになっています。今年のはじめに行った時は置いてありました。

もし近くに行かれる機会があれば、念のため今も置いてあるか確認されてから行ってみてはいかがでしょうか。

投稿: 漫画好き | 2011-02-19 13:39

漫画好きさん、感激!
是非、行って見てきます。

因みに、若い頃国会図書館ではいろいろ文献の探し物でお世話になっています。確かにリクエストした書籍が出てくるのに時間がかかりましたが、ない本はない場所ですね。なるほど、あそこは穴場かも。

ポークピッカータのレシピがお役に立ってよかったです。

投稿: ゴッドマー | 2011-02-19 17:16

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/516876/50855321

この記事へのトラックバック一覧です: 漫画「のらくろ(田河水泡)」のこと: