2011-02-02

エジプト-中東和平にまつわる問題とエルバラダイ氏の関わり

 エジプトのデモが始まってから一週間が過ぎ、死傷者の数も多く、自体の収拾はどうなるのかと見守るしかないのですが、米オバマ大統領が30日、「エジプト国民の願望に応じる新政府への秩序ある移行」を支持すると発表し、概況で気になることを書きとめておくことにします。
 このオバマ氏の声明は、事実上ムバラク政権に引導を渡した事には違いないのですが、ワシントン・ポストによると、米政府は9月に予定されるエジプト大統領選を管理する暫定内閣を発足させたいという思惑を込めて、「移行」という言葉を選んだと伝えています。また、イギリスの新聞デイリー・テレグラフが、エジプトのムバラク大統領が、同国内での反政府デモの拡大を理由に、私用護衛とともに同国の首都カイロを脱出したことを明らかにしました(参照。これでムバラク大統領による独裁は終わり、エジプトにどのような政権が誕生するかが気になってきます。
 親米政策をとってきたエジプトは、イスラエルやヨルダンとの国交を築き、中東和平の仲介役としてアメリカに協力してきています。イスラム過激派への対応にも力を注ぎ、見返りに、アメリカから年間13億ドルの軍事援助を30年以上も受け取ってきていると言われています。ムバラク政権崩壊後、これまでの支援は当然見直すことになると思います。おそらく、ここまではアメリカのシナリオのとおりに進んで来たかに思いますが、この先がまったく見えません。
 アメリカにとって一番望ましいのは、エジプト国民が反対しているムバラク政権関係者が退陣し、支持されている野党と軍が協力体制を速やかに作る事だと思います。が、最大野党で非合法のイスラム原理主義組織、ムスリム同胞団が気になります。数の上では最大なため、民主的な選挙を行えばエジプトの政権を獲得されてしまうという懸念が拭えません。これは、もちろんアメリカが望まない方向へ行くことになります。
 元国際原子力機関(IAEA)事務局長の民主化運動指導者エルバラダイ氏がウイーンから急遽帰国し、ムバラク退陣を訴えてデモに参加したことでさらに求心力が加速した今、ムスリム同胞団がエルバラダイ氏を支持するという声明を出しというのです(毎日2011年2月1日 21時1分

 今年9月に予定される大統領選挙を巡り、現行憲法の規定では、立候補要件が厳しいためスレイマン氏だけでなく、民主化勢力指導者として浮上しているエルバラダイ前国際原子力機関(IAEA)事務局長の出馬も困難だ。エルバラダイ氏に対しては、高い組織力を持つ穏健派イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」が支持を明示しているが、エルバラダイ氏自身の姿勢にぶれも見られ、他の民主化勢力との間で支持は一本化されていない。

 ここで願わくは野党の一本化ですが、これは不可能に近いのではないかと思います。既存の野党は、ムスリム同胞団が政権を握ると、エジプトがイスラム化することになるため強く反対的です。これは現政権やアメリカと同じ意見だと言えますが、最大野党であるムスリム同胞団がエルバラダイ氏を支持するとなると、野党が割れてしまうことになり、政権が野党に移るとも言えなくなります。
 これではムバラク後の政権が安定するどころか、まったく先が見えない状態です。これが、中東情勢にどのように影響するのか。また、エジプトとイスラエルの関係でも、パレスチナ自治区ガザを支配しているハマスは、エジプトのムスリム同胞団を母体に設立された組織で、対ハマスでイスラエルとエジプトの利害の一致点です。今後この関係が崩れ、封鎖が解除されることにでもなれば、これまで籠城していたハマスに勢いがつく可能性もでてきます。ファタハ・アッバス議長の立場が危ぶまれ、中東和平問題へと移行する可能性も見逃せません。
 また、エルバラダイ氏は、民主化を訴え人々に呼びかけはしていますが、肝心の政権像についての具体的な話は語っている様子はないようです。ムスリム同胞団がいち早く支持を表明したと言っても、この段階では支持者の増大を狙ったものではないかと思います。
 エルバラダイ氏の決断が、今後の中東全体の和平の鍵を握っている言えると思います。正しい判断を仰ぎたいです。

 暴動が起こる前、アメリカがエジプトをどのように見ていたかについては、極東ブログ「米国はエジプトをどう見ていたか、なぜ失政したのか」(参照)が詳しく、冒頭のオバマ大統領の声明とのつながりと機微が感じ取れると思います。

※ 線引き部分について:6時のNHKニュースによると(2011/02/02)、ムバラク氏はエジプトで退陣の要請を受けているとの事で、国外脱出は事実ではないようです。

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