欧州諸国の経済再建に関わる中国と背景の問題
財政に苦しむ欧州に、経済力では押しも押されぬ中国が黙って逃すわけはないと、昨日、ドイツを応援しながら脳裏を掠めたのが中国の関わりでした。年内のニュースにまとまらず、この件は年越ししてしまったけれど、引き続きクリップしておくことにします。
まず、ロイターが12月30日に報じているハンガリーの各種プロジェクトへの出資と、国債買い入れの可能性です(ブダペスト ロイター)。
タマーシュ国家開発相はハンガリーのニュースサイトindex.huに対し、ハンガリーのオルバン首相が中国の温家宝首相と10月末に上海で会談した際「財政における戦略的な協力関係について検討することで合意した」ことを明らかにした。協議は中国の代表団が1月にハンガリーを訪問する際に続けられるとしている。
そのうえで「中国がハンガリーの財政に関わることを決定すれば、プロジェクト・ファイナンスから国債への出資に至るまで、形式、手段、規模の面から多岐にわたる可能性がある」とし、中国人民銀行がハンガリー政府が実施する入札を通してハンガリー国債を買い入れることも選択肢の1つとの考えを示した。
財政面での協力関係を提案したのは温首相で、オルバン首相はこれに賛同したとしている。
ハンガリーと国際通貨基金(IMF)との支援をめぐる協議は決裂しており、タマーシュ国家開発相は、ハンガリー政府は市場から資金を調達する意向を持っていると強調した。
ハンガリーの公的債務の国内総生産(GDP)に対する比率は約80%と、中欧諸国の中では最も高い。
ハンガリーはユーロ圏ではありませんから、目下のところEUの支援を要請する他ないところですが、このIMFとの決裂はハンガリーにとって中国の救いの手にすがる引き金になっていると思われます。どういった背景があるのか調べてみると、4月に政権交代を果たしたオルバン新政権がスタートした時点で、「前政権の財政赤字を過小評価していた」という報道官の発言をきっかけにハンガリーの財政破綻が懸念され、金融不安を招く引き金になるという連想からユーロは大きく売り込まれたようです。
また、2008年にIMFから受けた支援の条件に2010年までにGDP比3.8%を達成するために新銀行の導入し、財政再建検策をとって火消しに回った結果、破綻を回避するまでに至っています。
ところが、IMFからの支援を仰いでから緊縮財政に舵を切った結果、マイナス経済成長を続け、税収見込みも大きく下回る結果を招いてしまい、GDPは4%を上回ってしまったという経緯があります。
オルバン新政権は、緊縮財政に反する減税を掲げて選挙に勝利したため、方針転換は刻への裏切りとなるのは必須です。また、IMF管理下にあったアルゼンチンと同じ轍を踏む可能性として、2005年4月、増税と歳出削減を発表した時に国内に暴動が起き、対外債務支払い停止に追い込まれたという経緯も教訓となっています。
仮にハンガリーが財政破綻すると、日本にとってのインパクトはギリシャ以上であることは間違いないです。また、オーストリア、ドイツ、イタリアの銀行が多額の融資をしている中で、オーストリアは与信残高は370億ドル近く、これは突出した金額でギリシャへの与信残高の8倍に及ぶと言われてます。ハンガリーが財政破綻すれば連鎖的にオーストリアへの金融不安は相当に大きくなるのは確実です。
中国が世界戦略を企てていると見て調べてみるといろいろ出てくるのですが、ポルトガルに関しても少し気になります(北京 ロイター)。
[北京 23日 ロイター] 中国外務省の報道官は23日、中国はユーロ圏諸国が経済の健全性を取り戻すための支援をする用意があると表明した。
外務省の姜瑜報道官は定例会見で、ユーロ圏は中国の外貨投資にとって最も重要な地域の一つだと述べた。
22日付の金融時報によると、欧州当局高官は王岐山副首相とのハイレベル協議の後、中国側が欧州の金融安定支援に向けてより「協調的な措置」をとることを提案したと語った。
これとは別に、ポルトガル紙は22日、中国が40億─50億ユーロのポルトガル国債を購入する用意があると報じた。
EUではますます中国様様となる気風が高まるとは思うのですが、中国のこうした戦法には必ず交換条件がつきます。足元をられてしまうとロクなことはないのは常です。中国はどのような交換条件を出しているのか調べてみると、EUが中国に対する武器禁輸措置を解除する可能性も報じられています(毎日12月30日)。中国から巨額の融資を受ければ中国の発言力も調子付いてくるのは目に見えていますから、起こるべくして起きていることです。
【ブリュッセル福島良典】30日付仏紙フィガロは欧州連合(EU、加盟27カ国)が来年前半、中国に対する武器禁輸措置を解除する可能性があると報じた。EUは89年の天安門事件以来、禁輸を継続しており、中国から再三、解除要請を受けてきた。
EUのアシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)は17日のEU首脳会議に提出した外交方針文書で、武器禁輸について「外交・安保でEUと中国の協力を強化する上で主要な障害になっている」と指摘、解除の検討を提案していた。
フィガロ紙はアシュトン氏側近の話として、禁輸解除が「迅速に進む可能性がある」と伝えた。解除にはEUの全加盟国の同意が必要。EUは来春にも外相会議で対中政策を討議する予定だ。
フィガロ紙によると、対中関係強化の観点から早期解除が望ましいと考えるスペイン、フランスに対し、英国、オランダ、ドイツなどが異を唱えてきたが、反対論は次第に弱まりつつあるという。
中国は最近、財政再建下にあるギリシャの国債を購入する用意を表明するなど、ユーロ安定を支援する姿勢を打ち出し、EUに対する影響力を強めている。
中国の武器輸出に関しては節操もあったものではなく、先日「インドが抱える国際関係と内政の問題」でも触れたように、インドとパキスタンの関係を知りながらも堂々とパキスタンに核施設の支援を行ったり、アフリカ・スーダンへの武器供与を否定しながらも中国製の弾薬が発見されるなど、国際社会のルールを守らない中国に対する批判も大きいです。しかし、その中国の融資を一度受けてしまえば何かしらの見返りを期待され、それが武器輸出解禁への道を譲ることに発展してしまうのはなんとも残念なことです。
また、EU各国対中国との利害関係が個々に結ばれることによって、EU諸国全体がまとまりにくくなるのは避けられません。この状況を中国が目論んでいたとすれば、中国への圧力は軽減されるという漁夫の利を得るのは中国で、これはかなり強かだと思います。が、これが中国。
昨年は何かと中国に振りまわれたか弱い日本でしたが、欧州諸国も中国に足元を見られてしまったら、もはや蛇に睨まれた蛙も同然です。中国の政治経済・軍事パワー全開の口開けが昨年なら、今年はどのような嵐が吹くというのか。
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コメント
地球上にのこされた最後の多民族支配帝国である中国の末路は、ソ連共産帝国やオーストリア、ドイツ、イギリス、オスマンなどの帝国同じ道を歩む。これは、歴史の必然。
経済的な行き詰まりは2009年から始まっており、2015年ごろには経済的な停滞から民族分裂運動、動乱になる可能性大だろう。それを乗り越え、真の民主国家になった時が、中国の発展となる。その時は、ウイグル、内モンゴル、満州、チベットは分離独立の国家になる。中国が現在の領域になったのは、女真族に支配されてからであり、本来の姿にもどらなければ、国家体制が維持構築できない。
イスラムのテロは、欧州キリスト教勢力と西アジアイスラム勢力の争いであり、ローマ帝国崩壊後、イスラムの北アフリカ、イベリア半島侵攻、キリスト教の十字軍により反攻、オスマンのバルカン半島征服、そして西欧列強のイスラムを含めた植民地支配と1000年以上にわたって継続しており、そう簡単に解消はできない。西欧列強の砲艦外交もテロと同列だと思うが。
キリスト教の世界観での現在の民主主義政治思想とその行動原理とイスラム世界観とが調和しないかぎり難しいだろうね。
投稿: テムジン | 2011-01-03 18:38