2011-01-20

混乱が拡大するチュニジア情勢-新政権に不満を持つ人々

 チュニジアに続いた23年間の独裁政治は終わり、衆議院議長であった78歳のメバザア氏が暫定大統領となり、ガンヌーシ首相に新組閣を命じてスタートしたばかりです。然もありなんことですが、何かとがたがたしています。政権がよもや交代するかというときなので、何かと起きる事も予想はできますが、その暫定政権の歩み出しが既に崩壊しそうだという感触です。新内閣に反対する国民の暴徒化を食い止める手立ては何かが気になります。また、この鎮圧のために軍の出番が来るのかという点と、イスラム過激派が政権を取りに舞い戻るのかという点です。日本の新聞を見ると、戦乱へつながるような煽り記事とも思えるような書き方も目に付きますが、情勢だけを拾って、できるだけ事実に則した記事を拾っておきたいと思います。
 まず、国民の不満が何かですが、新内閣に起用されているのは、首相以下主要閣僚を与党・立憲民主連合(RCD)である点です。これまで弾圧や強権支配を行ってきたRCDの政治家の退陣を求めるデモに発展し、治安部隊と衝突を繰り返しています。産経がこの状況を詳しく書いています(参照)。

 【カイロ=大内清】民衆の抗議行動で政権が転覆したチュニジアのガンヌーシ首相は17日夜に発表した新内閣で、複数の野党指導者やベンアリ前政権下で拘束されていた著名ブロガーを起用し「変化」をアピールした。しかし、18日には有力労働組合が、与党・立憲民主連合(RCD)主導の新政権を拒否。労組出身の閣僚が政権入りを辞退するなど、チュニジア政局は混迷の度を深めている。

 18日は首都チュニスなどで数千人規模の反RCDデモが行われ、前日に引き続き治安部隊が催涙ガスなどでデモ隊を鎮圧する事態となった。

 ガンヌーシ首相は17日、国内の情報統制を担ってきた情報省を廃止しメディア活動を完全に自由化することや、すべての政治犯を釈放することを約束。当初は2カ月以内に行うとしていた大統領選についても、「準備期間が必要だ」との野党側の声に配慮し、議会選とともに6カ月以内に実施するとした。

 一方、今回の組閣から排除された非合法のイスラム主義政党「ナフダ」指導者で欧州亡命中のラシド・ガンヌーシ氏は18日、RCD主導の新政権を強く批判。他のアラブ諸国に比べ世俗化が進むチュニジアではイスラム主義勢力の影響力は強くないとされるが、ナフダは政治プロセス参加に意欲を示しており、今後の火種となる恐れもある。チュニジア政府によると、昨年12月から続くデモや暴動の死者は計78人に達した。略奪などによる経済損失は約30億チュニジア・ディナール(約1730億円)に上るという。

 また、これでも収まらない国民の不満を沈静化するためにムバッザア暫定大統領とガンヌーシ首相が18日、与党・立憲民主連合(RCD)からの離党を表明したということです。前政権の独裁政治が長年続いたツケというのか、国民の不満が学生の暴動と重なってさらに大きくなったようです。
 ここで報じられているイスラム過激派の指導者ラシド・ガンヌーシ氏に関して、毎日が報じている地元国際政治誌のカマル・ビニューナス編集長は、チュニジアのイスラム穏健派との接点はないとはいえ、条件付で受け入れるかもしれないと見ているようです。(参照2011年1月17日)。

 「チュニジアのイスラム主義者の多くは穏健派で、過激主義とは距離を置いている」と指摘する。既存政治勢力は、「弾圧は過激化を生む」と受け入れを認める陣営と、政教分離原則を主張する陣営に分かれているという。
モハメド・ガンヌーシ首相は帰国予定のイスラム主義指導者とも対話の方針を打ち出しており、ビニューナス氏は「護憲や暴力放棄を条件に政治参加を認めるのではないか」と見ている。

 また、新内閣の内部では、与野党の対立が浮き彫りとなり、容易く連立できないということの現れでしょうか、18日には有力労働組合が、与党・立憲民主連合(RCD)主導の新政権を拒否し、労組出身の閣僚が政権入りを辞退しました。また、これに続いて野党である「労働と自由のための民主フォーラム(FDTL)」のムスタファ・ベンジャファル氏(70)は19日、「新政権の政策優先順位が明らかでなかったため」という理由で保健相を辞任したことを毎日新聞の単独会見で明らかにしたそうです(参照2011年1月20日)。
 こうなると政権に力がないことを国民に悟られてしまうのがオチで、激しくなる反RCD運動が加速するのではないかと懸念します。ここで混乱を収拾するために軍が出てくるとなるのが一番の気がかりです。これは、中国の64天安門事件に見る軍の学生民主化運動弾圧の風景を思い出させます。もしも新政権の命に従って軍が出てくるようなことにでもなれば、チュニジアの民主化は遠のくことを意味しますし、そうなると、イスラム過激派が黙っていないとなるのかもしれません。
 欧米諸国は、これまでのベンアリ政権は独裁とはいえ、事実上の実権を握っているうちはイスラム主義者を弾圧していたことは承知のはずで、事実上は独裁政権を黙認してきたわけです。イスラム過激派による政権よりは独裁であってもベンアリ氏による強権支配政治の方がぶっちゃけありがたかったのではないかと思います。
 このチュニジアの暴動の影響は、周辺にも出始めているようです。19日、毎日が伝えていることによると、エジプトのカイロ、北部のアレクサンドリアで焼身自殺を図って自殺するという事件が続いているようです。

 エジプトの首都カイロで18日、2日続いて人民議会前で焼身自殺を図る未遂事件があり、北部アレクサンドリアでも同日、男性(25)が焼身自殺した。チュニジア政権崩壊の契機となった焼身自殺事件に触発された可能性がある。イエメンでは首都サヌアのサヌア大で同日、チュニジア政変に影響された学生ら数百人のデモ隊が20年以上続くサレハ政権打倒を訴え、警官隊と衝突した(毎日2011年1月19日)

 また、産経では

 フランス通信(AFP)によると、ブーテフリカ大統領が1999年から政権を握るアルジェリアでも16日、市長に失業問題を訴えようとして面会を拒否され、自らに火をつけた無職男性(37)が死亡した。アルジェリアでは過去1週間で4人が同様の方法で自殺を図っている。また、モーリタニアでも17日、男性(42)が政府に不満があるとして、首都ヌアクショットの議会前で焼身自殺を図ったという。

 イスラム教では自殺を禁じており、イスラム教徒がほとんどを占めるアラブ諸国での焼身自殺は異例だ。

 一方、20年以上の強権支配が続くイエメンの首都サヌアでは16日、学生約1千人が「政権打倒」を呼びかけ行進。王制のヨルダンでも同日、リファイ首相退陣を求める3千人規模のデモが行われた(産経2011年1月18日)。

 チュニジアで起きた野菜売りの男性の焼身自殺の死が残したメッセージは、各国の強権政治に反発する若者達へ届いた結果、一連の暴動は、起こるべくして起こっているという気がします。日本のかつての学生運動を連想してしまうというのは、正にこういう連鎖反応です。これが学生運動にとどまらず、軍が銃口を市民に向けるような惨事にいたらないことを願うだけです。

 チュニジアの暴動の始まりから、渦中の政府と周辺国との微妙な関わりについては極東ブログ「チュニジアの暴動からベンアリ独裁の終わり」が詳しいです。

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