もはや対岸の火事ではないが・・・韓国軍によるソマリア沖海賊の韓国船人質救出に思うこと
韓国の化学物質運搬船(1万1500トン)がソマリア沖で海賊に乗っ取られ、この救出のため海軍を出動させ、海賊8人を射殺し5人を拘束し、タンカー船員21人全員を救出したと報じたのは21日でした(AFP1月21日)。この海域には日本も護衛艦などの艦艇を派遣していますが、2009年6月19日に海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(海賊対処法)が成立したことから、新法施行の7月24日以降は、派遣部隊は護衛活動の根拠法を自衛隊法等に定められた海上警備行動から海賊対処法(参照)に切り替えて警備に当たっています。
この法案がなかなか可決されず、やきもきしていた当時を思い出していました。決まったからと言って海賊の被害を防ぐものではないので、決まってよかったほっとした、と言うものではない問題です。世論ではいろいろな意見があり、例えば、小さな海賊船に日本の自衛隊が出動するほどのことがあるのかとか、他所は駆逐艦までだしているだとか、海上保安部隊に任務させればよいのじゃないか、そもそもソマリアの国はアレはいったいなんだよ、などです。
韓国の救出の話に戻すと、AFPの伝えていることから今回の韓国の対処は、韓国政府の海賊に対する姿勢の内外への明確化と、この発動が李明博(イ・ミョンバク)大統領の命令であったことから、韓国軍の力を北朝鮮に見せ付け、威嚇の意味なったのではないかと思います。昨年のアメリカとの合同演習の際、北朝鮮から攻撃を受けてもロクな対応ができていないという韓国国民の批判を受けていたこともあり、政府に対する信頼回復にもなったのではないでしょうか。
さて、この問題が対岸の火事ではない事は言うまでもない事ですが、では、日本だったらどうするの?日本は、特殊だと言われている「専守防衛」です。侵攻してきた敵を自国の領域において防衛で撃退するということですが、海賊に備えて武装しているわけではないので、遭遇して拘束された船員をどう救出するのかが問題です。ここで効力をもっている海賊対処法によって自衛隊が出動するということになるのですが、今回の韓国の救出のように、犯人を狙撃してでも救出することには少し問題があると思います。
救出作戦が行われたのはソマリア沖から北東に1300キロの海域。韓国海軍特殊部隊SEALは夜明け前にタンカーに乗り込んで人質全員を解放し、船内で海賊と銃撃戦となった。船長は銃撃戦の際に腹部に銃弾を受けたが命に別状はない。また、特殊部隊隊員の負傷者はでなかった(AFP)。
また、産経ではこの作戦を詳しく伝えています。
韓国軍は現地時間21日未明、「アデン湾の夜明け作戦」に着手。ヘリコプターの援護射撃を受け、特殊部隊が小型ボートでタンカーに接近、突入して機関銃などで武装した海賊8人を射殺し5人を拘束した。制圧までの時間は約5時間だった。韓国軍は米軍の駆逐艦や偵察機の支援も受けた。
韓国では、海賊被害が多発しているとして昨年、海軍部隊を派遣。今回の事件対応をめぐっては「軍事的な制圧には法的根拠がない」とする議論も出ていたが、「李明博大統領の政治的判断で『専守防衛』から軍事行動に切り替えた」(政府筋)という(産経)。
海賊被害が頻発していたと知って、日本の被害についてはどうか調べると、これが結構あったようです。
国交省によると、日本船籍や日本の船会社が運航する船舶の海賊被害は、統計を取り始めた平成11年の39件をピークに年々減少傾向にあったが、昨年中は前年比10件増の15件で、過去10年間では14年の16件に次ぐ多さとなった。
発生場所は、マレー半島西側のマラッカ海峡付近を含む東南アジア周辺が10件、内戦で事実上の無政府状態が続くアフリカ東部・ソマリアの沖合やアデン湾、インド洋沖が5件となっている。
ただ、両地域では手口が全く異なる。東南アジアの海賊は夜間に停泊している船に忍び込んで刃物などで脅し、現金や船のケーブルなどの備品を奪うことが多いが、増加しているアデン湾などに出没するソマリアの海賊はマシンガンなどの重火器で攻撃、大型船ごと乗っ取るなど、より過激だ。
外務省の担当者は「乗っ取った船の乗組員を人質にとり、日本円で億単位の身代金を請求する。東南アジアが窃盗、強盗ならソマリアは誘拐だ」と指摘する(産経 1月17日)。
カネで解決できるうちはよいですが、命はカネと引き換えにはなりません。とは言え、海賊の要求が満たされれば人質を解放するのが確かだとも言い切れませんが、殺害するなどの刺激は、海賊をさらに凶暴化させるかもしれません。このことは、2009年の米軍や仏軍がこの海域で、人質救出の際に相次ぐ海賊殺害後、報復宣言を出しています。
ソマリア沖では米軍が12日に海賊3人を、仏軍が10日に海賊2人を射殺した。CNNによると、
ある海賊は現地の報道関係者に「今後、人質の中に米国やフランスの兵士が含まれていれば殺害する」と語ったとされる。
AFP通信も「捕らえられた米国人は今後、われわれの慈悲を期待できない」とする海賊のコメントを伝えた。
中東の海域を管轄する米海軍第五艦隊のゴートニー司令官は12日の記者会見で、「今回の出来事が、
この海域における暴力をエスカレートさせることに疑問の余地はない」と語っている(産経)。
話が散漫になるので詳しくは触れませんが、ドイツでは10人の海賊に対する裁判が続いています。こちらは殺害ではなく、逮捕です。が、無政府状態のソマリアから連れてきた被告の年齢すらわからない上、法制度も生活慣習も違うソマリア人を裁くことに何の意味があるのか、と言う声が出ているようです。ドイツで訴追する羽目になった理由は、それまでケニアで訴追を行ってきたことがかなりの負担となり、お手上げ状態になったからだと言うのです(ニュース・スパイラル)。
海賊が出るような国の政府ってどうよ、と問うと、ソマリア隣国のスーダンやチャドと似たジェノサイドがあったり、イスラム原理主義勢力下に置かれたこともあり、政府が機能するどころの状態ではないようです。海賊を征伐するよりも、ソマリアの国の建て直しが急がれているとは思いますが、アフリカにおける国際社会の支援がそこまで行き渡るとは思えないです。
新テロ対策特別措置法案を取り上げた極東ブログの2008年1月13日のエントリーに(参照)、ソマリア沖で北朝鮮船が海賊に遭遇した際、米軍が救出した事を取り上げています。へえ、と思ったのは、この時に救出に加わったのは米軍・英国・フランス・ドイツ軍で、構成された司令部は、日本から給油を受けていた国だったことです。このことは後に、日本が間接的に戦争に加担している云々の議論の元ともなるのですが、この例で見ても同様に、日本に法律があれば解決できる問題ではないのです。逆に、あるから問題にもなるとも言えますが、そこが変な国な日本。
やっと通過した海賊対処法があっても、先の韓国やフランス、アメリカのように、実射による殺害は何のためなのかが問われると思います。
そもそも論になってしまいますが、「みんな漁師だった。政府が機能しなくなり、外国漁船が魚を取り尽くした。ごみも捨てる。我々も仕事を失ったので、昨年から海軍の代わりを始めた。海賊ではない。アフリカ一豊かなソマリアの海を守り、問題のある船を逮捕して罰金を取っている。ソマリア有志海兵隊(SVM)」(参照)この話は、ソマリアの漁民の究極的な訴えとして聞こえます。私達が考えるべきことは、ソマリアに元のような静かで平穏な海を返すことや、漁民達が海賊をやらなくて済むような環境をどうしたら作れるのかではないかと思い至りました。
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