2011-01-03

米軍がアフガニスタンから撤退する今年-エジプトに起きたテロの意味は?

 昨年末30日、英米系非政府組織(NGO)「イラク・ボディー・カウント」の調べで、この二年間は鈍化しているとは言え、イラク戦争以降の民間人死者3976人で開戦後最小となった事を知りました。2002年にアメリカで起きた同時多発テロから10周年を迎える今年7月、オバマ大統領の決断によってアメリカ軍はアフガニスタンから撤退を開始する予定です。先行きの見えない戦争としてブッシュ戦争をそのまま引き継いだオバマ大統領の戦法はブッシュ戦争とよく似ているといわれてきましたが、アフガニスタンの治安回復に関わるNATOや西側諸国の負担などの問題解決の見通しもないこの戦争の帰結について極東ブログで触れられていたことが気になっていました(「オバマ戦争」)。

同盟国を巻き込む形で戦闘が進行し、さらに懸念される事態になればブッシュの戦争とは多少異なる帰結になるかもしれない。そうならないことを祈りたい。 

 2003年からアメリカ主導で開始されたイラクでのこの戦争は、ベトナム戦争を抜いてアメリカ最長の戦争記録として残ることになるようです。また、アメリカ軍の死者の数は同時多発テロの犠牲数の約二倍になろうとしていると言われています。
 この撤退が意味するのは戦争の終結ではなく、むしろ、中東でのテロの拡大ではないかと思うような事件が起きています。
 1日、エジプト北部のアレキサンドリアで起きたキリスト教の一派コプト教の教会前で車が爆発し、信徒ら21名が死亡、43人が負傷した事件は、自爆テロの可能性が高いと報じているのを知りました。この事件の前にイラクのアルカイダ系組織「イラク・イスラム国(ISI)」がコプト教会の攻撃予告をする声明を出していたと知り、アフガニスタンからアメリカが撤退するすることは、この戦争の終わりを告げるものでもないと感じます。話は前後しますが、昨年、グランドゼロ近くにイスラム教のモスクを建設する問題で、信教の自由と遺族への配慮という世論がアメリカで二分され、半イスラム感情が根強くアメリカに残っていることを痛感しました。この戦争の意味が何なのか、平和ボケも手伝って私には良く分りません。
 エジプトの車の爆発事件の背景にISIの関わりがあるようなので関連事件として、その背景をクリップしておくことにします。

アルカーイダ系がテロ扇動、国外移住加速も イラク、キリスト教徒受難

➠エジプト:キリスト教会前で爆発 21人死亡、43人負傷(毎日2011年1月1日 16時59分

 爆発は午前0時半ごろ、新年のミサのため約1000人が集まっていたアレキサンドリアのクッデスィーン(聖人)教会前で発生。ミサ終了後に外に出てきた教徒らが巻き込まれた。車の下か中に置かれた爆弾が爆発したものとみられる。

 保健省幹部は国営テレビに、死者が21人に達したと明らかにし、「アルカイダがエジプトの教会を攻撃すると脅していた」と述べた。エジプト大統領府は声明で爆発を「テロ攻撃」と断定。ムバラク大統領はコプト教徒とイスラム教徒に対し「協力して国家の安全と安定を脅かす攻撃に対処しよう」と呼びかけた。

 エジプトのコプト教会に対しては、ISIが「イスラム教に改宗した女性を拘束している」と主張、解放しなければ攻撃すると警告していた。ISIは10月末にバグダッドでキリスト教会襲撃事件を起こし、50人以上が死亡している。

 エジプトは人口の約1割がコプト教徒とされ、イスラム教徒との衝突が起きていた。昨年1月7日には乱射事件でコプト教徒7人が死亡、イスラム教徒の男3人が逮捕された。首都カイロでも11月に教会の建設をめぐり暴動騒ぎが起きている。

 ISIの「イスラム教に改宗した女性を拘束している」という主張で何が問題なのか、この記事の背景が良く分らないので調べてみると、産経が11月17日に伝えていることが背景にあるということが分りました(産経2010・11・17

 ここで言及された女性は、エジプトで今夏、失踪(しっそう)したコプト教司祭の妻、カメリア・シェハタさんのことだ。失踪は家庭問題が原因だとされているが、一部のイスラム教指導者が「彼女がイスラムに改宗したのでコプトに拉致された」と主張。イスラム教徒による抗議デモが頻発した経緯がある。

 エジプトでは過去にも同様の改宗騒ぎがあり、抗議デモが繰り返されている。宗教問題に詳しいエジプト人ジャーナリストは、当局はそうしたデモを一定の範囲内で容認し、「一部の国民の反コプト感情のはけ口として利用してきた」側面もあると指摘する。
 シェハタさん問題では結局、イスラム教スンニ派最高権威のアズハル機構が9月、改宗はデマだと示唆し、エジプト国内ではいったん幕引きが図られた。しかし、犯行声明を機に、イスラム過激派系サイトでは「コプトを処刑しろ」などの書き込みが続出。実際のテロの可能性は低いとみられるものの、当局は教会側への配慮などから反コプト・デモを当面、禁止した。

 この女性が改宗したことがデマであるか否かに関係なく、イスラム過激派はこれをコプト教徒への攻撃の正当化に利用しているということがうかがえます。テロというものは無差別に人の命を奪うことにその意味があるのかもしれませんが、撲滅の日はいつやってくるのかと疑ってしまいます。その理由に、アメリカがアフガニスタンから撤退することは中東のイスラム過激派にとってはさらに活動しやすくなる条件になると思います。そして、アメリカにイスラムを嫌悪する風潮が高まるならば、イスラム過激派の米社会を敵対視する意識に拍車をかけます。また、欧州では、イスラム移民の排除に賛成的な政党が政権を握るようになってきています。
 対して中東では今回のエジプトのISIの活動に見るとおり、イスラム過激派による少数派キリスト教徒への迫害活動は、イラクからキリスト教徒を追い出そうとする動きです。
 「オバマ戦争」と呼ばれるこの戦争の終わり方はどうなるのだろうか、そのようにぼんやりとこの7月のことを思っていましたが、お互いを寛容できない限り、この戦争の終わりを見ることはなさそうです。

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