2011-01-31

ダライ・ラマ14世の後継者問題

 昨日、チベット仏教の活仏カルマパ17世が住む僧院の家宅捜索で、20カ国以上の外国通貨1億2600万円相当の現金を押収したという記事がTwitterで流れ(朝日)、「全てに関心を持つ必要はないよ」と言われたのですが、どうしても気になったのです。

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 その彼が現在住む僧院から大金が見つかったことで、中国とのやり取りがあるのではないかという疑惑を持たれ、捜査が続いているというのです。でも、私の関心は現金にまつわる事ではなく、このカルマパ17世(25歳)という若い僧侶がこれからの中国とチベットの関係では重要になるのではないかという点です。現在は、インドの北部のダラムサラに住み、チベット主要宗派であるカギュー派の最高位ですが、7歳で中国政府からカルマパ17世として活仏に認定された後、14歳でインドに亡命しています。上の画像は当時のものですが、忘れられない印象が残っています。

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 彼がインドに亡命したことは、ダライ・ラマの脱出劇と重なる人も多いと思います。私にはそれが糸で結ばれた運命のような、何かと興味をそそられる元にあるのかもしれません。よいチャンスだと思ったので、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所公式サイトでカルマパ17世が脱出した当時の様子を知って大変身近に感じました(参照)。

1月17日付のタイム誌によると、カルマパは、中国により自由を拘束されていたことに苛立っていたようだ。また、ダライ・ラマを非難するよう強く圧力をかけられていたことも明らかだ。さらに中国政府は、「信教の自由がある中国」とカルマパに公言して欲しかったらしい。ところが実情は、カルマパの仏教教育は完全に止まったままであった。中国がカルマパのチベット仏教黒帽派またはカルマ・カギュー派3人の摂政(全員インド在住)の訪問を許さなかったからである。そしてついに、昨年12月末、カルマパは首都ラサの北西50kmほどにあるツルプ寺での公の地位から逃げ出すことに決めたのである。

逃亡を準備するため、カルマパは中国側の番人に瞑想修行に入り寝室から出ない旨を伝えた。こうした修行の間、専属の料理人と教師のみ面会が許され、番人たちは外でテレビを見ているのが普通である。こうして番人たちの注意がそれるとすぐ、カルマパは寝室の窓から脱出。12月28日の夜10時30分のことだ。車1台、運転手2人、侍従の僧2人、お付きの召使1人、そしてカルマパの姉で24歳になる尼僧が共にカルマパを待っていた。

1959年にダライ・ラマが馬で脱出したのとほぼ同じルートで、カルマパ一行はネパール国境に向け車を走らせた。そのころ寺院では、カルマパの料理人と教師が誰もいないカルマパの部屋に日課の訪問をし、カルマパが中にいるように見せかけていた。

 ダライ・ラマ14世の後継体制では重要な役割を担う可能性が報じられているとおり、関心はその部分に向くのですが、それがあまり単純な問題ではなさそうです。いずこも後継者問題は必ずついて回ることですが、ダライ・ラマ14世の後継者にはチベットの政治的な役割が求められます。この役割が機能しなくなれば、逆に中国が動きやすくなり、長年中国の弾圧に苦しんできた人々へのその後の関与が気がかりです。
 また、宗教的な問題として、後継者としての相応しさがあると思います。私は、宗教的なことに詳しくないので調べてわかったのですが、「ダライ・ラマ」は、転生によって引き継がれるもので、「生まれ変わり」でなくてはならないそうです。実務をこなせるまで最低でも20年はかかると言われていて、14世は1935年7月6日生まれ(75歳)ですから、今から後継者を育てるのは難しい問題です。また、宗派的にも勿論、同じ宗派でなくてはらないはずです。これが、カギュー派のカルマパ17世がゲルク派のダライ・ラマの後継者として直結しない理由です。
 ダライ・ラマ14世ご自身は、この後継者問題をそう考えているのか、その動きはあるのか調べると、昨年末のYahooホットラインニュースで触れています(ソースの元は読売新聞のようです)。

 【ダラムサラ(インド北部)=新居益】ダラムサラに本拠を置くチベット亡命政府のサムドン・リンポチェ首相(71)は30日、本紙と会見し、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(75)が、2011年に行われる亡命政府首相・議会選挙を機に、自身の政治的役割を縮小して首相と議会に一層の権限を持たせる方針であることを明らかにした。

 リンポチェ首相によると、ダライ・ラマは、3月20日投票の選挙(有権者約8万人)後に招集される亡命議会で、亡命政府の公式文書への署名や、閣僚の就任宣誓への立ち会いなど、現在行っている儀礼的役割を首相や議会議長に移管する考えを表明する。

 首相は、「ダライ・ラマの指導力への依存は減らす必要がある。次のダライ・ラマが成人するまで20年かかる」と述べ、亡命政府の権威確立を急ぐ必要を強調した。

 また、2009年12月15日のNewsweek「チベットを担う若きリーダー」の独占インタビューでは、カルマパ17世自身の後継問題についての考えが興味深いです(参照)。

 ダライ・ラマの後継指導者になれるかと尋ねると、自分は多くの候補の一人にすぎないと、カルマパは答えた。「ダライ・ラマは太陽のようだ。どれだけ星があっても太陽のようには輝かない」。

  カルマパは昨年3月にチベット自治区ラサで起きた反中国の暴動も含め、暴力を非難している。ただ、中国政府の抑圧下での暮らしを余儀なくされているチベット人や亡命チベット人の「いらだちや閉塞感」は理解できると言う。「どんな生き物でも、何度も繰り返し窮地に追い詰められたと感じると、もう怒りを爆発させるしかないと思うものだ」と、カルマパは本誌に語った。

  カルマパ17世にもダライ・ラマ14世と同様な役割を果たせるのではないか。「私には目標がないし、絶大な影響力をもつという野心もない」とカルマパは語った。「だが、私に変化を生む力が授かれば、その力を発揮する」

 この後、中国との接触についての質問が続き、そこでは「接触はない」と答えています。このことから、2009年のこの時点までは金銭的なやり取りはなかったということでしょう。
 また、調べている中で知ったことに、カルマパ17世がもう一人アメリカに実在するということです。この人物が後継者選びにどう関わるのか、その影響の可能性のほどはよくわかっていません。
 現金隠匿の疑惑やもう一人のカルマパ17世の存在についての事実確認は大切ですが、今の時点で取り上げて言及するのはまるで後継者問題によくあるスキャンダラスな馬鹿騒ぎのように思え、書き控えました。それよりも、チベットと中国の両国から認定を受けているカルマパ17世がダライ・ラマの後継者となることは、何かと問題の起こるチベットと中国間のパイプ役としてなくてならない存在ではないかと思えてきました。

 参考までに:極東ブログ「仏教の考え方の難しいところ」(参照)で、チベットの宗教についてかなり詳しく解説されています。

 

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