2011-01-11

政争のバランスを命と引き換えにしたいくない話題-アリゾナ女性議員狙撃事件

 一昨日の8日、米アリゾナで銃乱射によるショッキングな事件が起こりました。女性で民主党穏健派ガブリエル・ギフォーズ下院議員(40)がスーパーマーケットの敷地内で対話集会中に男に狙撃され、頭に重症を負った上、合わせて19人の死傷者を出したのです。幼い子どもをも巻き添えにしたというのが何とも痛ましいことです。
 事件から二日目に当たる現在のギフォーズ議員の容態は快復に向かっているということですが、その場で逮捕された容疑者はジャレッド・ロフナーという22歳の男で、その後の捜査で見つかったメモなどから計画的な犯行ではないかと見られているようです(47ニュース2011/01/10 23:14 )。
 現職議員が狙撃されると聞けば、暗殺ではないかと直ぐに推測が走ります。が、本当に政治がらみなのかどうなのかという疑念を事件の全容が解明される前に騒ぎ立てるものでもないと思いますし、野次馬的にネットで不確かな推測ばかりを流すことに抵抗がありますが、事件の背景となるアリゾナにはどのような問題があるのか、という点に絞って調べてみました。
 まず、事件に使用された銃についてですが、日本では銃刀法によって一般人が銃を保持することは容易ではありませんから、このての事件では、まず入手先がどこかが問われます。一方、アメリカ社会では、このような事件が起こるたびに銃規制の強化を問う問題が浮上します。今回に関してはどうかと調べると、やはりありました。産経が報じていることによると、銃規制が進まない理由を「個人の権利だとする建国以来の国民意識が背景にある。」からだと結びつけているようです(産経2011年1月10日(月)08:00)。それを言うなら、仮に禁止する法律があるとすれば守られるべきではありますが、銃乱用の抑止的な効果程度しかないのではないかと思うのが特にアリゾナです。

Unitedstates

 理由はメキシコ合衆国との国境を有し、国境付近での騒乱が頻発する土地であることと、そのため、自衛手段は個人の権利だとする強い主張があります。しかも、不法移民に対して取締りを推進している保守派と対立関係にあるのが穏健派で、これに加えてティーパーティーが共和党ジョン・マケイン上院議員(前大統領候補)との関係を持ってるといわれてます。この状態を「一触即発の空気である」と、冷泉彰彦氏(「凶弾に凍りついた政局、アリゾナ乱射事件Newsweek日本語版)は話しています。

 具体的には2点、まずアリゾナ州というのは「英語が喋れないヒスパニック」だと思われたら警官が職務質問を行って良く、その際に身分証明ができない場合は即手錠をかけられるという悪名高い「不法移民取締法」など、不法移民問題に関して取り締まりを推進する保守派と、他州なみで良いというポジションの穏健派は厳しい対立を続けている状況があります。

 これに加えて、ティーパーティーがかなり食い込んでいます。例えば共和党の大物であるジョン・マケイン上院議員(前大統領候補)などは、予備選の段階でティーパーティー系の新人にギリギリまで追い詰められる中、「不法移民の合法化」をブッシュ前大統領と共同で進めていた過去をかなぐり捨てて「なりふりかまわぬ右傾化」とドブ板戦術で辛うじて共和党公認候補の座を守っています。

 また、今回のターゲットになったギフォーズ議員の場合は、そのティーパーティー、とりわけサラ・ペイリンの「ファンクラブ」的な団体から「医療保険改革に賛成した憎い敵、11月の中間選挙で絶対落選させるべき標的」として、ポスターの中で「標的」のマークをつけられていたという背景もあります。

 これについては、ティーパーティー・保守派の広告塔的存在になっているサラ・ペイリン前副大統領候補のWebサイトで、中間選挙前に示された「撃たれるべき20人の政治家」のリストにギフォーズ議員の名前が含まれていたことも重なっていると思います。

Vagabond26_2

 このマークは、日本ではあまり馴染みがありませんが、銃社会では良く見る射撃のターゲットの印「cross-hair(クロス・ヘアー)」のことです。このポスターが正にペイリン氏のプロパガンダの証拠品だと意味づけている人もいるようですが、今回の狙撃とクロス・ヘアーが被っただけに過ぎない風評であると思いたいです。
 また、ティーパーティーが反対する医療保険改革も絡んで、これまでのギフォーズ議員に対する過激な抗戦がアリゾナを分断し、憎悪を生み出す元になっていたとすると、今回の事件が逆にそのバランスをとる警鐘となれば不幸中の幸いではないかと思う反面、払った犠牲の大きさはとは換えがたいことだと思いました。

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