2011-01-15

悪化するパキスタン情勢-アメリカ軍撤退に危機感

 バイデン米副大統領が12日パキスタンを訪問し、国際テロ組織アルカイダなどの武装勢力壊滅へ向けてパキスタン側の協力を求めたと知りました(毎日1月13日)。かねてからアメリカはパキスタンに協力要請を繰り返していますが、なかなかアメリカの思うようには行かない関係が報じられてきました。今回の要請は、武装勢力の本拠地はアフガンではなくパキスタンだというはっきりとした認識を示したこともあり、今まで以上にパキスタンには重圧がかかったということになります。これを受けたパキスタンがアメリカの主導するように動くのであれば、アメリカが撤退開始を予定している7月までに武装勢力を弱体化できるのではないかと期待を寄せる気持ちも持ちますが、パキスタンを担い手とするにはやや重荷で、期待できない国内情勢でもあるようです。関連記事をいろいろ見ると、アメリカとは危うい同盟関係だということがわかります。
 バイデン米副大統領を歓迎しないタリバンの自爆攻撃を既に受けたことからも、そん激しさがわかります

 同日にパキスタン北西部の警察施設など2カ所で自爆攻撃が相次ぎ、計20人が死亡、30人以上が負傷した。AP通信によるとアフガン旧支配勢力タリバンが犯行を認めた。バイデン氏の訪問にあわせて攻撃を仕掛けた可能性がある。

 バイデン氏は11日、訪問先のアフガニスタンで、「我々は最終的にパキスタンのアルカイダを崩壊させる。アフガンをテロリストの避難所にしてはならない」と語り、武装勢力の中心拠点がアフガンではなくパキスタンにあるとの認識を示していた。

 12日の会見では「安定し、民主的なパキスタンが我々の利益だ」と述べ、ザルダリ大統領・ギラニ首相の政権を支持する考えを表明した。

 今年7月、アメリカ軍はアフガニスタンから撤退を開始する予定ですが、パキスタンにとってこの撤退の影響は、アフガニスタンの国内情勢が悪化するかまたは混乱が起こりパキスタンと敵対関係が出来上がることだと思います。目下のところはアメリカが抑止でもありますが、この存在がなくなるとアメリカの変わりに攻撃を受けかねないという懸念を持つのは自然です。そうなると、今からアフガニスタンを敵に回すのはマズイというのがこれまでの中途半端なパキスタンの動きからも分るとおりです。
 アメリカ撤退後、国がまとまっていれば無問題のはずですが、そうではないと思わせるに充分な要素がパキスタン政府にあるようです。
 年明けに連立を組んでいたムータヒダ民族運動(MQM)が連立から離脱する騒ぎがありました。これによって下院が過半数割れした政権に対し、野党イスラム教徒連盟シャリフ派のシャリフ元首相は改善要求を出し、揺さぶりをかけられていました。1日から実施されていたガソリンの値上げの撤回を表明したことでMQMは7日、連立に復帰すると発表し、政局の混乱は免れたようです(朝日1月3日)。

 多額の対外債務を抱え、国際通貨基金(IMF)からの財政健全化圧力を受ける政府は先月31日、ガソリン公定価格の9%引き上げなどの石油製品値上げを発表。これがインフレをさらに悪化させると与野党双方からの批判にさらされ、MQMの離脱を後押しする形になった。

 MQMの連立離脱で院内多数派となった野党側だが、政党間対立を抱えており、一致した行動をとれるかは不透明だ。最大野党・イスラム教徒連盟シャリフ派を率いるシャリフ元首相は昨年末、「MQMは多くの市民を殺害している」と発言、両党の反目は激化している。

 人民党政権の不人気からシャリフ派は次期総選挙での勝利を確信しており、今の議会勢力での政権奪取に消極的との指摘もある。一方、先月、連立離脱したイスラム急進派のイスラム聖職者協会が政権復帰の条件としてギラニ首相の解任を求めており、首相交代で事態が収拾に動く可能性もある。

 現政権を直ぐに乗っ取るというでもないシャリフ派と、人気のない現政権から距離を置く方が得策と考えているのかMQMとの連立も危なっかしい状態です。また、IMFからの要請である財政再建問題やアメリカの要請による武装組織掃討作戦への加担という難問を抱え、ぐらぐら状態のパキスタン政府は難問だらけと見て取れます。
 また12日、産経新聞「知事殺害男、英雄扱い パキスタン「冒涜法」改正めぐり不穏」(参照)によると、

報道によると、カドリ容疑者は「単独で犯行にのぞんだ」と証言しているが、犯行を動機づけた宗教指導者の存在があったとみられている。また、同容疑者は過去に過激思想が問題視され、州警察特殊部隊から外されていたにもかかわらず、2008年にエリート部隊に配属されタシール氏の警護を担当していた。事件時、ほかの警護官が同容疑者に発砲をやめさせなかったことに対しても批判が出ている。

 しかし、こうした批判や冒涜法のあり方についても、同法改正反対の動きにかき消されている。法改正に反対する宗教指導者らは9日、南部カラチで大規模なデモをし、動員力を見せつけた。タシール氏に近いはずのザルダリ政権も早々に冒涜法改正はしないと表明。過激派の圧力に屈したともとれかねない態度に、テロとの戦いに対する政権の姿勢を不安視する声も出ている。

 ハイダー元法相は、「国内の穏健派が殺害され続ければ過激派とテロリストが国を乗っ取ってしまう」と危機感を募らせる。

 このような動きに対し、アメリカがアフガニスタンから撤退後、パキスタンがテロリストの攻撃から守りきれるかという危機感を募らせると同時に、一方では防衛力の強化を支援している中国との関係は深まる一方で、ますます影響を及ぼすのではないかと思います。
 ちょうど昨年7月のNHK解説委員室の時論公論「米軍撤退まで1年 どうなるアフガニスタン」(参照)で扱われた中国のアフガニスタン包囲網構想の図が分りやすいです。

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 アメリカ軍の撤退開始がどうなるかはすべて今後の状況次第です。しかし、それに伴ってアフガニスタンをめぐる大きな地政学的な変動、新たなグレート・ゲームが起きる可能性があることを私たちは認識すべきでしょう。アメリカ軍の撤退開始に向けた今後の1年間、アフガニスタン情勢はきわめて重大な時期を迎えることになると思います。

 この記事からすでに半年が過ぎようとしている今、パキスタン情勢は悪化し、内政もコントロールしきれないような状態に陥り、財政面でも困窮しています。中国とパキスタンの関係も、核化施設の支援などを中心にかなり親密になってきています。アメリカ軍の撤退予定を覆すような見識は今のところ聞きませんが、7月に撤退する是非を改めて問うとしたら、アメリカ軍の存続も一つの選択だと思います。が、その先の日本の関与を思うと、この政府にいったいなにができるかなと考え込んでしまいます。

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 なお、これまでの経過として、日本のアフガンの民政支援が難しいとされる理由に関しては極東ブログが詳しく、リンク先を参照されたい。☞「民主党によるアフガン民生支援金問題、補遺」

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