2010-12-19

コソボ総選挙で浮上した問題

 今月12日、2008年にセルビアから独立後コソボで初めての総選挙(120議席)が行われました。サチ首相率いる与党コソボ民主党が得票率33.5%で、首位で第一党を維持したとは言え、単独過半数に満たなかったため、連立交渉が焦点となり、難航が予想されています。また、コソボの民主化を確認する意味でも注目が寄せられている選挙であったのは言うまでもないことと思います。
 1990年以降、アルバニア人が独立を宣言したにもかかわらず、連邦の中心であったセルビアでは、連邦崩壊の危機感から憲法を変えて、それまでコソボに与えていた自治権を大幅に削減し、独立も住民投票も認めないとして軍隊を送り込み、実力行使によって反対してきた歴史的背景もあります。コソボの独立後、選挙が民主的に行われることは、これまでの政治が民主的であったかどうかを見極める意味でも興味深く思っていました。
 ところが、日本で報じられている中で、この選挙での不正の可能性や、サチ首相の臓器密売疑惑の記事を見つけ、無事に終わったわけではないと知りました。注目選挙だけに、陰謀論的な事を言い出す人もあるのかもしれないとは思ったのですが、クリップしておくことにします。
 まず、選挙が不正に行われた可能性について(産経ニュース)。

 コソボのサチ首相は14日、12日の同国議会選挙(120議席)で自らが率いる親欧米の与党コソボ民主党が得票率33・5%で首位に立ったとの選挙管理当局の中間開票結果を受け、他党との連立交渉に入る考えを明らかにした。ロイター通信が伝えた。

 一方、サチ氏の支持者が多いコソボ中部の二つの地区では、投票率が全国平均の約2倍の90%以上に達したとされ、欧州の選挙監視団が不正の可能性を指摘。フランス公共ラジオによると、第2党となったライバルのコソボ民主同盟は14日、開票結果に対する異議を司法当局に申し立てた。選管の最終開票結果は週内に出る予定。(共同)

 そして、選挙後、サチ首相に起こった臓器密輸疑惑について朝日新聞では次のように報じています。

 【ウィーン=玉川透】コソボのサチ首相が、セルビアと争った1990年代末のコソボ紛争時、セルビア人らから臓器を摘出して密売する組織に関与していたとの疑惑が浮上、欧州47カ国でつくる人権擁護機関の欧州会議(本部・仏ストラスブール)の委員会は16日、加盟国に真相解明を求める決議を採択した。AP通信などが伝えた。

 この疑惑は2008年、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)の元主任検察官が著書で指摘。これらの情報を基にスイスの国会議員ディック・マーティー氏らが09年に現地調査し、欧州会議に報告書を提出した。

 報告書は98~99年のコソボ紛争時、コソボで多数派だったアルバニア系武装組織「コソボ解放軍」が、セルビア人らを隣国アルバニアに拘束して腎臓などの臓器を摘出し、海外の闇市場で売買したと指摘。当時、コソボ解放軍幹部だったサチ氏らが主導的に関わったなどとしている。

 来年1月下旬の加盟国による会議でも、報告書について議論される予定という。

 一瞬この報道を陰謀ではないのか、と疑ったほどです。
 その第一に、発表のタイミングが選挙の直後であることと、この摘発の元になった著書が、「旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷の主任検察官によるもの」というだけで、名前に言及がないため、信憑性に欠けることです。さもなくば、コソボ独立に反対的なアルバニア人の陰謀である可能性もあります。その理由は、コソボ独立宣言当時の背景にあります。
 1990年当時、多くのアルバニア人が不十分な証拠でセルビア警察に逮捕されたり、不当に監禁され、拷問を受けたり、殺されたりした事実もあり、西ヨーロッパ諸国は、セルビア政府の行為に重大な人権侵害の疑いがあると批判していたということもあります。
 また、スイスの国会議員が欧州会議に現地調査の結果を報告したという点で、陸続きである欧州周辺国としてはコソボ政権が活発化する傍らで、かつてのセルビア軍による無差別殺人のような悪夢の繰り返しを懸念するという意味で、コソボ政権を支持したがらないという理由はあると思います。コソボ独立宣言に反対であるセルビア他、ロシア、中国などがいまだに反対している状況下では、いろいろな疑念がわいてくるのは当然です。
 サチ首相を落としいれたいとする動きなのか、本当にこのようなことがかつての紛争の雑多の中で起きたことなのか、後味の悪い選挙であると思います。
 問題は違うとは思いますが、アフリカのルワンダ・カガメ大統領に起こったジェノサイド疑惑も16年前のこととは言え、コソボ独立宣言と時期が重なります。この頃というのは、世界的に民族闘争で荒んだ時期でしたが、表に見えない部分で多くの人が無意味に殺害されたのだということを忘れてはならないと思います。

***

 ここまで書いてから、告発の元になった著者のことを調べて分った点があるので追記します。
サチ首相の臓器密売関与をめぐって」(swissinfo.ch

欧州評議会法務人権委員会のメンバーであるマーティ氏が行った調査によると、コソボのハシム・サチ首相はセルビア軍と戦った「コソボ解放軍 ( KLA ) 」の一派である犯罪組織のリーダーだった。この組織は1999年6 月から2000年にかけ、麻薬やセルビア人捕虜の臓器を密売していた。

 マーティ氏が2009年から2年かけ行った同調査は、スイス人カルラ・デル・ポンテ氏の著書『追跡、戦争犯罪と私( La traque, les criminels de guerre et moi )』の中に記載された報告に基づいていた。

 現在アルゼンチンのスイス大使を務めるデル・ポンテ氏は、元国際連合戦争犯罪主任検事で、旧ユーゴの国際戦犯法廷 ( ICTY ) の検事を務めた。著書には、「コソボからアルバニア北部に連れ去られた、セルビア人捕虜約300人の体から臓器が摘出され密売されていたという証言がある」と記されている。

コソボの反応
 14日にマーティー氏の調査報告が欧州評議会のサイトに掲載されて以来、サチ首相は、調査を「スキャンダラスで、とんでもないデタラメ」と決め付け、
 「これはコソボのイメージを覆すために作られた。今後あらゆる政治的、法的手段を使って真実に光を当てていく」
 と述べている。

セルビアの反応
 一方、セルビアの戦争犯罪担当検事たちは、自分たちが提供した資料が調査に役立ったことに満足したと14日発表し、
 「長年、臓器密売の調査を行ってきたわれわれにとってこの日は記念すべき日になった」
 と語った。彼らによれば、コソボが行った臓器密売の犠牲者はおよそ500人に上り、うち400人がセルビア人捕虜で、残り100人が非アルバニア系の捕虜だという。

 しかし、コソボの最大日刊紙「コハ・ディトレ ( Koha Ditore ) 」の編集長は
 「これは単にサチ首相の問題に留まらない。同時に ( 戦争に介入した ) 西欧諸国の問題でもあり、1999年の介入の仕方でもある。さらに、この調査は、1999年以降に起こったこと( 臓器密売など ) はたとえ何であれ、戦争そのものやセルビアがコソボで行ったことよりもっと重要な犯罪だと言っているかのようだ
 と話す。

 北大西洋条約機構は当時、コソボ内のセルビア軍に対し78日間に渡る空爆を行った。

 臓器の密売が事実であるなら、売る側の向こうには買う側があり、この臓器売買の行為の重さを問わなくてはならないと思います。

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