2010-12-30

インドが抱える国際関係と内政の問題

 インドの経済成長は目覚しいものがあり、今や中国と並んで世界をリードしていると言われています。欧米諸国は、インドと経済や政治関係を密接にするために競うように「インド詣で」が始まっていることは前にも書いています(「フィナンシャル・タイムズ「新たな均衡に向かう世界 」って例えばこんなこと?」)。このような関係で注目するのは、中国との関わり方です。
 インドを中心に、中国との関係には1965年中印戦争後の国境線画定問題があり、その中国は、インドと係争中のパキスタンの核開発を支援しています。この三国を巡る問題がかなりシビヤーに起こる中、中国とインドは今月16日、オバマ大統領との商談額(100億ドル)をはるかに上回る160億ドル(約1兆3500億円)の商談に合意しました。中国の商には恐ろしい秘密が潜んでいるかに思われますが、インドは、貧困層の底上げと共に経済成長のために安価な中国製品輸入などに頼る部分もあり、中国とのパートナーシップは欠かせないのは言うまでもない事です。順風満帆に進んでいる外交の一方で、やはり内政が気になります。国民の反発が燻ってる、と感じた記事があったので引用します(朝日010年12月29日13時43分)。

➠政府批判に扇動罪、インドで相次ぐ 言論弾圧と批判も

 医師で人権活動家のビナヤク・セン氏が先週末、扇動罪で終身刑の判決を受けた。インド中部チャティスガル州の奥地で少数部族民の保健医療に長年携わり、国際的に表彰されたことがある人物だ。その一方で、同州などを基盤とする反政府勢力「インド共産党毛沢東主義派(毛派)」への治安部隊による掃討作戦に対しては、批判していた。

 一方、首都ニューデリーの警察当局は11月、英ブッカー賞を受賞した女性作家アルンダティ・ロイ氏に対し、扇動容疑で捜査を始めた。

 ロイ氏はパキスタンとの係争地カシミールをたびたび訪れ、治安部隊の弾圧に抵抗し、分離独立を求める地元民に共鳴。10月に行われた集会で「歴史的にみて、カシミールはインドの一部ではなかった」と発言し、問題視されていた。

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 インドは、民主主義国として世界最大であると誇っても、言論の自由を認めないのは片手落ちというものです。内政を揺らす毛派の勢いを抑圧するため、「終身刑」を言い渡すというのはかなり強権な政府であるという印象を受けます。また、パキスタンとは1965年の印パ戦争後、中国の継続的なパキスタン支援に対して、インドは国防と牽制の意味で核軍備しています。
 また、インドとパキスタンが国境付近の領有権問題で係争中であることで、中国はパキスタンに配慮した政策を取る事にインドの反発を強めているという背景もあります。加えて、この国境問題が解決していないことで浮き彫りになっているのは、中国がインド人に発行する「査証」の問題です。これに触れて、産経ニュースが報じています(産経2010.12.27 08:03)。

インド北部ジャム・カシミール州は、パキスタンと中国も一部の領有権を主張している。中国当局は今年7月、同州を担当したインド軍幹部への訪中ビザ発給を拒否したが、これは、同州のインド領有権を中国が認めていないに等しい。訪中する同州住民に対しても旅券とは別の紙にビザを発行している。
 前例を覆したインドの“反撃”について、インド英字紙、ヒンドゥスタン・タイムズ(18日付)は「『一つの中国』への言及からインドが手を引いたのは、(中国を支持するという)“切り札”が役に立たないと認識したからだ」と指摘する。

「インドにとってのカシミール問題は、中国にとっての台湾、チベット問題と同様に繊細な問題だ」と配慮を求めている。

 これらの状態から、中国の関わり方がインドの内政問題にも発展し、インドの対中外交に強い姿勢を見せざるを得ない状況を作っているとも言えると思います。
 また、汚職の横行するインドでは珍しくシン首相個人に関してあまり問題を聞きませんが、21日AFPが伝えていることによると、2008年、当時の通信相のアンディムス・.ラジャ(Andimuthu Raja)氏が、携帯電話の周波数帯の新規割り当てを不当な低価格で行っていた疑惑を、シン首相は知りながら黙認したことが野党から追求されているようです。

 同問題を最も強く追及しているのが、ヒンズー教系の野党インド人民党(Bharatiya Janata Party、BJP)だ。BJPは、シン首相が、これほど長期間にわたって沈黙を続けてきた理由を明らかにするには会計委員会では不十分だと主張。調査委員会が設置されなければ、2月の議会でも審議に協力しない姿勢を示している。

 国民会議派は、2009年の選挙後、小規模政党と連立与党を組み政権の座についた。だが、10月に主催した英連邦競技会(Commonwealth Games)では、費用が予算を超過したうえ、競技会に関する調査で疑わしい契約や手抜き工事などが見つかるなど相次ぐ不祥事に見舞われており、インド政界は混迷を深めている。(c)(AFP/Penny MacRae)

 日本の民主党でも「カネと政治」の問題が尾を引いているので、このインド問題は耳の痛い話です。
 中国のような一党独裁政権では、国民の民主化運動が進んで国民のご機嫌取りのようなパフォーマンスが外交手腕に求められ、日本のような弱い国がイジメの対象になります。一方、民主主義国では国民のことはそっちのけで、政府与野党の揉め事が起こるのは常です。
 昭和の経済成長期を経験している私は、いつかもっと良い日が訪れるのだとばかり思っていましたが、政治構造の対照的な中国とインドで、しかも戦火を交えた両国の政治的なつながりをこうして見ていると、歴史は繰り返すのだとしみじみ思います。

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