大延坪島(テヨンピョンド)付近の海域での射撃訓練実施にまつわる問題-北朝鮮の交渉相手は誰?
北朝鮮の強い反発があるにもかかわらず、韓国の射撃訓練の実施を予定通り18日から開始していたらどんなことになっただろうかと大変気がかりでした。一般市民の感覚では、有事発生の危険を冒してまで訓練の実施をする必要はないのではないか、と軽く思ってしまうのですが、李明博大統領は、北朝鮮との力関係で優位につけたいという戦略からか、決断に苦慮していると報じています。一両日中に何らかの方向が見えてくるのではないかという思いはありますが、現時点での様子を掴む意味で記事を拾っておきます。
射撃訓練実施に悩む韓国 北朝鮮の挑発、見極め難しく(朝日)
韓国政府内で、北朝鮮の第2次挑発の可能性を巡ってぎりぎりの分析が続いている模様だ。
韓国軍は「最も気象条件の良い時期に1日だけ実施する」と発表。天候を理由に18、19両日は実施しない見通しという。しかし、18日は同島周辺でほぼ晴天が続いていたため、こうした理由に疑問の声が上がっている。
韓国政府関係者らによれば、韓国軍が訓練実施に最も熱心とされる。元々、先月23日に実施中の射撃訓練が、北朝鮮軍の砲撃で中断。軍は「早く再開しないと、この海域で演習できないという悪例を残す」と主張しているという。軍事関係筋は「発表した以上、延期すれば更に北を有利にする」と語る。
一方で、政府内には北朝鮮の2次挑発を憂慮する声もある。韓国軍は北朝鮮が砲撃すれば、「断固たる対応を取る」と宣言。航空機による空爆も検討している。北朝鮮も「より深刻な状況を再現させる」と警告しており、戦闘が拡大する可能性がある。拡大しない場合でも、2次挑発が韓国社会や経済に深刻な影響を与えることは必至だ。
アメリカ政府は
韓国全面支援を表明している米政府は表向き、「韓国は主権国家として軍事訓練をする権利がある」(クローリー国務次官補)と理解を示している。クローリー氏は17日の会見でも、「北朝鮮は訓練をさらなる挑発行為の口実にすべきではない」と牽制(けんせい)した。
ただ、北朝鮮の出方が読み切れない中、米側は「銃撃の応酬という連鎖反応が起きかねず、事態が拡大して制御できなくなる懸念がある」(米統合参謀本部のカートライト副議長)との不安も強めている。米軍はアフガニスタンとイラクの二つの戦場で疲弊、朝鮮半島のこれ以上の軍事的緊張は避けたいのが本音だ。
ロシアは(日経)国連安保理への働きかけを積極的に行ったもようで、このことは今の緊張状態にどう働きかけて行くのか期待するところです。
国連安全保障理事会は19日午前(日本時間20日未明)、北朝鮮による韓国・延坪島(ヨンピョンド)への砲撃で緊張が高まっている朝鮮半島情勢への対応を話し合う緊急会合を開いた。同会合は、ロシアが安保理議長国を務める米国に開催を要請。ロシアは、南北双方に緊張を激化する軍事演習などの行為を自粛するよう求める内容の声明採択を目指している。
これに先立ち、緊急会合開催を要請したロシアのチュルキン国連大使は18日、記者団に対し「安保理が北朝鮮と韓国の双方に(軍事的な行為の)抑制を警告するメッセージを送る必要がある」と述べた。
北朝鮮が11月23日に砲撃して以来、国連安保理がこの問題を取り上げる正式な会合を開くのは初めて。米国や日本が主体となり水面下で非難声明のとりまとめを探ってきたが、中国による反発で交渉が難航していた。
中国は、自制を促したとして具体的に動いたようです。
中国:南北に自制要求…韓国訓練に北朝鮮「打撃」警告(毎日新聞 2010年12月19日 0時21分)
中国の張志軍筆頭外務次官は18日、国営中央テレビの取材に応じ、中国外務省が韓国と北朝鮮の駐中国大使を同日までに緊急に呼び出して中国側の立場と主張を改めて伝えたと明らかにした。また、韓国軍が計画している延坪島(ヨンピョンド)周辺での海上射撃訓練に北朝鮮が新たな「打撃」を警告していることを念頭に、自制と衝突回避を重ねて求めた。
この中で張次官は「現在の朝鮮半島情勢は一触即発の状態で、中国側は深く懸念し、憂慮している」と強調。「6カ国協議首席代表による緊急会合の必要性と緊急性がさらにはっきりとした」と語り、早期の対話再開を呼び掛けた。
周辺国は、このように朝鮮半島で有事が起こらないよう、韓国と北朝鮮に呼びかけていますが、冒頭に挙げた「射撃訓練実施に悩む韓国 北朝鮮の挑発、見極め難しく」の記事でも触れている通り、韓国の決断が今後の北朝鮮問題をどのように運ぶかの鍵になっているようです。
ここで、韓国が北朝鮮の挑発行為を批判し、警告を発するのは更なる危険を招くようには思いますが、韓国の筋は通ると考えます。また、リスクを半分背負って切り込むよりも、国連安保理の仲介に応じるという形を取って自制するのが穏当かもしれません。
牽制だったか本意であったか、韓国の李明博大統領が繰り返し声明を出している北朝鮮に対する報復措置が、今となっては決断を鈍らせているのか、面子と有事のリスクが天秤にかかっているのかもしれません。この判断を待つよりも先に、外国人を含む一般市民の非難が心配です。安全確保はできているのでしょうか。そのことを報じる記事がないことが気になります。
ところで、北朝鮮の交渉相手に関して疑問な点があります。
北朝鮮は、金正日氏の体調悪化や老衰なども重なって、軍をその指揮下に置いていないのではないかと感じます。11月の北朝鮮の砲撃もかつてなかったことである上、核施設の披露やミサイル実験など、金氏が健康で軍のバランスを取っていた頃には起こらなかったことです。北朝鮮の軍の分裂や権力闘争が表面化しているのではないかと憶測しています。この憶測の上に、さらに前提としてですが、各国が北朝鮮の誰と交渉をするのが好ましいのかという点がはっきり見えてこないのが気がかりです。金正日氏の指揮下で軍が動いているのか、または、統率力が衰退した金氏をよそに、軍内部で権力の争奪があるのか、などは、一切透けて見えません。最悪の事態として、韓国との有事が北朝鮮軍内部の抗争のダシに使われるようなことにはなって欲しくないと懸念しています。
北朝鮮の軍の分裂抗争を憶測する理由は、金正日氏の後継者である金正恩(キム・ジョンウン)氏のお披露目エントリーでクリップした記事によります(極東ブログ「コスプレ金日成、見参、その陰で」―はじめて知った後継者問題の舞台裏)。
統一部の関係者は、「金英徹氏が今後も重要な地位を維持し続けるならば、今後の韓国に対する軍事挑発でどのような形で現れるか、注目に値する」と述べた(朝鮮日報)。
金氏の側近である張成沢の指導体制が実質的だと報じられていましたが、失脚したとされた呉克烈氏の後継者である金英徹氏のことも同時に浮上していました。その後、金英徹氏のことを報じる記事は特にないようです。
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