ユーロ圏の経済危機に直面するドイツ-頑張れ!ドイツ
日本の景気回復と財政再建が深刻であるのと同時に、欧米諸国も同様、興進国以外のこれらの国の抱える問題は同じです。ただし、ドイツだけは例外で、積極的にEU以外の国との外交を進め、欧州最大の経済大国と言われています。このドイツの肩にのしかかる問題としてと言えばよいのか、ユーロ圏全体の問題の取り組みとして捉えるべきなのか良く分らない問題が持ち上がっているのでクリップしておくことにします。
エストニアの、欧州単一通貨ユーロ導入を決めたことに端を発しているようです(時事ドットコム)。
【フランクフルト時事】バルト三国の一角、エストニアが2011年1月1日、旧ソ連圏として初めてユーロを導入する。これにより、ユーロ圏は17カ国に拡大する。ギリシャなど小国の危機がユーロ圏全体を揺るがしたことで通貨統合に尻込みする中・東欧諸国が相次いでおり、エストニアの成否は今後のユーロ圏拡大の行方を占うことになりそうだ。
エストニアは1991年の独立後、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)への加盟を果たし、ユーロ導入により欧州回帰の「ゴール」に達したといえる。
同国の人口は約134万人と岩手県とほぼ同じ。国内総生産(GDP)はユーロ圏全体の0.2%弱にすぎず、通貨統合で「ユーロ圏への大きな影響はない」(独エコノミスト)との見方が大半だ。緊縮策断行の結果、財政状態も良好。また、通貨クローンとユーロの為替相場を連動させており、ユーロ移行の影響は限定的とみられる。(2010/12/30-15:14)
今年5月にギリシャ、11月にアイルランドの破綻がユーロ圏の各国を大いに揺さぶったのは事実で、日本の菅さんまでもがギリシャの破綻を間違った解釈で引用し、国民に増税の必要性を説いたのは記憶に新しいことです。国の破綻に敏感なのは何処も同じで、ユーロ導入に尻込みしたりユーロ圏の国が破綻を迎えるのもユーロ参加国にとっては負担を抱えることになります。
このような状況下で何故エストニアがユーロに参加することになったのか?産経ニュースは、次のように報じています(産経2010.12.29 21:17)
2000年以降、国内総生産(GDP)比で7・1~11・4%の経済成長を続け、“バルトの虎”と呼ばれたエストニアだが、金融危機に直撃され、昨年の経済成長率はマイナス14・1%。しかし、この落ち込みが逆にユーロ導入の障害だった年10・9%のインフレ率を急激にさまし、今年6月、EU首脳会議でユーロ参加が正式決定された。
人口134万の小国エストニアにとり為替変動リスクを回避できる“大きな通貨”ユーロを導入するメリットは大きく、ユーロの信認を問われているEUにとって新規加盟を認めることは改めて通貨同盟の結束と大きな通貨の魅力を演出する格好の機会だった。
インフレからデフレに急激に落ち込む状況は日本も経験していることなので良く分りますが、レートの大幅な違いにより輸出で利益が出なくなり、国内総生産がどんどん落ち込んで景気が悪化します。これを食い止めてくれるのが変動差の小さい「大きな通貨」としてのユーロだとういことは納得できます。
一方でユーロ参加に積極的ではないポーランドやチェコは、破綻したギリシャよりも経済規模が大きいことから、導入に踏み切るのに慎重にならざるを得ないようです。ユーロ導入のメリットは必ずしもあるとは言えないようです。そこで、ユーロ主要国ではユーロ加入の利点を拡大するための措置が考えられているようですが、ドイツとフランスの反対にあって議論が進んでいないというのが意外です。
年明けにはポルトガルの救済は不可避との見方が強まる中、EUは12月の首脳会議で、ユーロ圏の財政危機国救済策として欧州版IMFを13年に導入する構想を承認したが、融資枠の拡大や信用力の低い国の資金調達が容易になるようEU各国による共同債を発行する案はドイツやフランスの反対で議論されなかった。
スペインがEUに支援要請した場合、現行制度では支えきれない恐れがあるため、ユーロ圏は抜本的な対策を迫られている。
つまり、ドイツが鍵を握っているということです。ここで、気になる記事があります。ドイツのユーロ圏への融資について、声明が二転しています。まず、23日のロイター16:53によると
[ベルリン 23日 ロイター] 23日付の南ドイツ新聞によると、ドイツ政府は、財政が悪化したユーロ圏加盟国を支援するため、新たに「欧州安定成長投資基金」を創設することを提案する。
同紙によると、ドイツ政府は方針説明書で、ユーロを維持することは「国益だ」と再確認したうえで、「ユーロ圏最大の経済国であり、安定の要であるドイツに対する譲歩」として、ユーロは「ドイツの安定の利益に方向を合わせる」必要があると主張する予定。
基金は、基本的には欧州中央銀行(ECB)に次ぐ独立性を持つ機関とし、金準備や国営企業の株式を担保に融資を行う。
ところが、これを訂正する記事として同日の21:29によると、
[ドイツ 23日 ロイター] ドイツ財務省は23日、同国政府がユーロ圏の安定に向け新基金の創設を提案するとの一部報道について、財務省の下級レベルで作業部会が原案を作成したが、政府の見解を反映したものではないと表明した。
財務省報道官は声明で「提案書は財務省幹部クラスに提出されておらず、承認もされていない。提案書に盛り込まれた構想は、財務省や連邦政府の立場を反映したものではない」と表明した。
そして、30日、ブルームバーグが報じていることによると、ドイツはユーロ圏の統合には賛成的な立場を表明しています(ブルームバーグ)。
12月30日(ブルームバーグ):ドイツのショイブレ財務相は、ユーロ圏の統合について「大いなる強化」を求める立場を表明した。ドイツ紙、ターゲスシュピーゲルが同相の特別寄稿文を引用して伝えた。
ショイブレ財務相は、財政と予算、経済、社会政策の面で欧州の統合が一段と強化されれば、欧州中央銀行(ECB)は金融面での安定に注力することが可能となり、その独立性が一層向上することになると指摘した。
結果として、ユーロは長期的に安定した通貨としての地位を世界の金融界に認めさせることになるだろうと書いているという。
これはどういうことなのか?
調べてみると、前者についてはまんざら誤報というわけでもなく、メルケル首相の発言にユーロ圏救済メカニズムの規模拡大は検討対象にないという意向を示す声明があります(ロイター)。
首相はサルコジ仏大統領との会談後「救済メカニズムの拡大は今回、議題に上っていない。アイルランドに投じられた融資分は同メカニズムの10%未満に過ぎず、(規模拡大は)検討対象ではない」と述べた。
ただ、ユーロには「単なる通貨以上の意義がある」ことを理由に、ユーロを破たんさせることは許されないと付け加えた。「ユーロの破たんは欧州の破たんであり、これは非常に深刻だ」と語った。
将来の危機に備えたユーロ圏の恒久的な危機対応メカニズムの設立は、ユーロ防衛を示す最善策との考えを示した。
首相は「(来週開催の)欧州連合(EU)首脳会合では、われわれがユーロを防衛しているとのサインを示すべきだ。恒久的な危機対応メカニズムと(EU)条約改正における判断を下すことが重要なのはこのためだ」と述べた。
この記事から、ドイツは、ヨーロッパ最大の経済大国然としての威厳が現れているというか堂々とした発言に、かつての静かなドイツという私のイメージが変わりました。ドイツの政治も戦後60年もすると変わったということでしょうか。
第二次世界大戦のナチスの歴史を引きずりながら、欧州諸国に統合して行くことだけがドイツの生き延びる道のようにして、ひたすら低姿勢で復帰の道を歩んできたという認識です。既に世界は民主的になり、戦争の傷跡を持つ世代は政界から消え去りつつあるため、特にドイツが低姿勢である必要などないしナチスの歴史を背負うこともないのです。ごく普通の当然の権利として、自国の主張なり意見を国際社会に向けて発信すべきです。先の財務相の発言が訂正されるなどの行き違いも、メルケル首相のこの発言から見ると、当初はユーロ圏への融資が国益にならない損なことだと判断したのかもしれません。失言として訂正するでもなく、事務レベルの落ち度ということにしたのかもしれません。
ドイツ銀行のこれまでのユーロ圏への貸し出しを考慮すると、ユーロ圏の経済崩壊はドイツの経済に危機を齎します。つまり、ドイツは関係国と共に、この経済危機から脱出する大きな鍵を握っているのだと思います。こうした中、ドイツ国民の声はメルケル首相にエールを贈るのだろうか。
頑張れ!ドイツ。
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