2010-10-23

「ドル安の先には資本規制」マイケル・ハドソン氏の世界展望について-ファイナンシャル・タイムズ紙より

 本題が分りやすくなるために、ちょっとした三面記事から押さえておくことにします。 
 アメリカドルのレートが下がっていることの影響で円高が進み、それが元で起きている詐欺事件のことから。
 まず、イラク、スーダン通過の投資話しのトラブルなのですJastニュースから。

➠イラク、スーダン通貨の投資話 トラブル続出すでに被害10億円超(2010/10/22 20:18
「いま買っておけば、将来必ず儲かる」「希望すれば、いつでも両替可能」と説明されて外貨を購入したものの、その後業者と連絡がとれなくなったり、両替(換金)できなくなるなど、被害金額は10億円を超えた。

  そもそも、日本の銀行ではイラクディナールもスーダンポンドも、円に換金することはむずかしい。換金できたとしても、現在2万5000イラクディナールは2000円弱に過ぎないから、それを1枚10万円で販売する業者は「丸儲け」なのだ。
   購入した人のもとに外貨が届かなかったり、「いつでも両替可能」とセールスしていながら、両替(換金)を申し出ても断わられたり、最悪の事態は業者との連絡が取れなくなっていたりしている。

 「おれおれ詐欺」のヴァージョンアップ版といった内容ですが、要は、株で儲からない時代になったため対象を外貨に変えただけの話なので、円高を上手く利用した詐欺です。このような事件から、日銀の包括的緩和政策とやらはどうしたのか、とやや焦る気持ちも出てきます。円高が市民に直接的に影響するといえばこのような詐欺事件ですが、嬉しいと言えば、外国製品の値下がりです。
 例えば、国産のトマトのホール缶が180円に対し、外国産の同じタイプの缶詰が80円ほどです。セール品となると2缶で150円です。主食品とは違うので需要はさほどない商品だとしても、倍以上値段が違えば、誰だって安い方を買います。ここで問題になるのが国内産業の低迷です。
 需要が減ると製造が停滞し、業績不振となって従業員の解雇が起こります。デフレ不況とは、この循環を繰り返しながらどんどん下降する現象のことです。外貨やトマトの缶詰の例でデフレの仕組みが分ったところで、気になるドル安の話に戻します。
 アメリカは、中国の人民元対策としてドルを増やしています。理由は、アメリカの雇用問題は人民元のせいだからだと言っています。さっきのトマト缶の話と同じ理屈です。これ以上中国製品の輸入は勘弁ならんというわけで、ドルをぐっと安くして対抗しようというわけです。言う所のインタゲ(インフレターゲティング)です。また、中国の輸入品だけに限定した輸入税の増税をしようとしています。中国元も少しずつ上がってきているようですが、元が安いのでその成果は微々たるものです。ここで、アメリカは第二段の策に出ようというのが11月のQE2と言われている量的緩和です。これを決行するのか否かが大変気になる私です。先日も触れましたが、このドルの影響は、韓国も必死です(参照)。日本円との開きほどではないせよ、中国元が流れ込むとアメリカのような二の舞を踏む事を懸念しています。
 そして、先日イギリスのファイナンシャルタイムズのコラムで見かけた「Capital controls will follow the weak dollar By Michael Hudson」(ドル安の先には資本規制:参照)では、アメリカはQE2をやるべきではないと言及しています。先ほどのトマト缶の例のように、アジア諸国でもドル安の影響で投資家が国債を買いあさることを懸念して対策を講じようとしています。
 国債の購入は、国内の雇用問題を改善することには直接的な貢献度は低く、むしろ、輸出企業の価格競争力を弱体させるので、外国市場から締め出しをくうというのです。結局このことは、投資家が手を引いた時に、貿易パターンを崩壊させてしまうような逆行の流れができてしまうというのです。競争心のない輸出企業は、置いてきぼりになりますし、居場所がなくなるというのは道理です。そのため自国の資本の守りに入るのは当然ながら、アメリカにとっては面白くないことだとしながらも、ハドソン氏は「それは自分で蒔いた種だろ」とアメリカの姿勢に批判的です。
 ドル安を敬遠するブラジル、ロシア、インド、中国、BRIC諸国のブロックと、米ドルを中心としたブロックの二つに分かれてしまうと見ています。具体例として、イランや上海協力メンバー国と共に中国、インド、ロシアは、貿易決済通貨として自国の通貨を使用するための試験段階を踏んでいるということです。
 氏がもっとも言いたいことは、このように金融で二分するような動きを阻止するために、アメリカの経済成長の鈍化という代償を払ってでもQE2は見送るべきだということです。
 また、アメリカの政策の難点として、それが近視眼的に終わらないためにも、欧米諸国の銀行が外国通貨へ投機する事を禁止する新たな規制を設けるべきだとしています。それは、他国が自国通貨を守ろうとする措置を講じなくても済むようになることで、そうでもなければ、発展途上国への影響は断行されないだろうということまで示唆しています。
 トマト缶の低価格化や通貨のレート格差が引き起こす三面記事的な事件は、今後の資本規制の問題と同等の身近な問題でもあることに驚きました。先進国と後進国(新興国)の反目を回避できるのであるというスケールの話まで見えてきました。アメリカには、11月の量的緩和を取りやめるべく熟考を願います。

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