2010-09-08

極東ブログの「多剤耐性アシネトバクターによる院内感染」からさらに、新タイプの大腸菌について

 先日、多剤耐性アシネトバクター菌の院内感染の件で帝京大病院の例を取り上げました(参照)。ここでは、極東ブログの「多剤耐性アシネトバクターによる院内感染」から、報道のあり方と情報の受け止め方がいかに重要かということを痛感しました。そして、9月6日夕方、NHKユースで栃木県の獨協医科大学病院で検出された「新タイプの耐性菌日本発検出」(NHKニュース参照)を知りました。

 去年5月、入院していた50代の日本人の男性患者に発熱などの症状が出たため検査したところ、血液から抗生物質が効かない大腸菌が検出されたということです。先月になって病院で菌の遺伝子を詳しく調べたところ、インドやヨーロッパで感染が広がっている「NDM-1」と呼ばれる酵素の遺伝子を持つ耐性菌であることがわかったということです。

 ここで、先日の帝京大病院の例と今回検出された新型という点で、一口に多剤耐性菌と括ってしまって良いのだろうかと疑問が出てきたのは、Twitterで「大腸菌が問題。耐性菌自体はコントコーラブル。」だという意見を聞いてからです。つまり、大腸菌と一口に言っても一種類ではないのです。この辺がまったくの素人で、調べるうちに、これはいろいろと誤解をしていたのではないかとだんだん怪しくなってきました。その後のコメントで「人間を宿主としていること、遺伝子変化が起きやすいこと。」ということを知って、ますます「耐性菌」が手強い相手なのだというアウトラインは分ってきました。充分とはいえないかもしれませんが、自分自身の混乱を回避するためにも調べたことをクリップしておくことにします。

 NDM-1の遺伝子を持つ耐性菌は、2年前にインドのニューデリーの病院の患者から初めて検出されたあと、ヨーロッパやアメリカで相次いで検出されています。大腸菌や肺炎かん菌から多く見つかり、健康な人の間でも感染してぼうこう炎や肺炎を引き起こし、死者も報告されていることから、先月にはWHO=世界保健機関が加盟各国に監視体制を強化するよう呼びかけています。これまで問題になってきたアシネトバクターや緑のう菌などの耐性菌は、病院内で抵抗力が落ちた患者の間で感染が広がってきましたが、NDM-1の遺伝子を持つ耐性菌は、病院内だけでなく、健康な人の間でも感染が広がるおそれがあるため、専門家は警戒を呼びかけています。(NHK ユース

 多剤耐性菌は大きく分けて、①菌②真菌(カビ)③ウイルス④腫瘍があり、これらが元で発病すると、多種の抗生剤に対して耐性を持っている生物なので、これまでの抗生剤が一切効かなくなるか、効きにくくなるということです。
 前段の獨協医科大学病院の例は、人間の体内を宿主としているため、遺伝子変化が起こりやすいということもあって非常に手強い相手だということになるわけです。
 以下は、耐性菌について日常的に起こっている凡例です。

「耐性菌」あるいは「薬剤耐性菌」という言葉を、お聞きになったことはありませんか?
これは、薬に対して抵抗力を持ってしまい、薬が効きにくくなった菌のことです。つまり、耐性菌にかかると、薬を使っても病気が治らなくなってしまうのです。
 有名な耐性菌としては、「MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)」があります。体が弱った人に、この菌が感染して血液中で増えてしまう(敗血症)と死に至ることもある、恐ろしい菌です。とにかく、薬(抗生物質)が効きにくいので、なかなか手に負えません。この菌は、すでに日本中に広がっています。身近なところでは「とびひ」。以前は、抗生物質を使うとすぐに治っていたとびひですが、最近は、抗生物質を使ってもなかなかとびひが治らない場合があります。調べてみると、その原因菌がMRSAのことがときどきあるのです。とびひからすぐに敗血症になってしまうことは、ほとんどありませんが、とびひが治らないのは、やはりつらい。
 その他には、「PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)」というのもあります。これも、抗生物質が効きにくい。身近なところでは、中耳炎。この菌が中耳炎の原因になると、とても治りにくくなります(薬剤耐性菌)。

 これらの例のように、昔ならあまり心配しなかった伝染性も、甘く見ると命を落とすほどまで発展してしまうということは知っておくべきだと思いました。
 また、このような耐性菌が生まれた理由について、これは、抗生物質の乱用以外のなんでもないということです(参照)。

 その大きな原因は、抗生物質の乱用です。細菌感染症の治療の原則は、その菌に「有効な抗生物質」を、「適切な量」で「適切な期間」使用することです。これを守らず、「有効でない抗生物質」を使ったり、「量が少なかったり」、「投与期間が長すぎたり」すると、耐性菌発生の原因となります。
 「風邪には抗生物質は効かない」ということをご存じですか? 「風邪」のほとんどは「ウイルス」が原因です。抗生物質は「菌」はやっつけますが、「ウイルス」には効果がありません。ですから、「風邪」には抗生物質はほとんど効かないのです。「風邪」のうち、「菌」が原因のものは約5%といわれています。つまり、「風邪」の95%は抗生物質は効かないということです。
 ところが、日本外来小児科学会のワーキンググループの調査では、「37.5℃以上の発熱がある風邪の患者さんには必ず抗生物質を出す」医師が、157人中58人(37%)もいることがわかりました。これには、私も驚いてしまいました。不要な抗生物質を使い続けることによって、どんどん耐性菌が増えてゆくのです。高熱があって、細菌感染が疑われるようならまだしも、咳だけとか、鼻水だけで、抗生物質を使用するのはいかがなものでしょうか?

 「風邪薬」といって抗生物質を出す時代は終わったと思います。これからは、医師自身が耐性菌を意識した適切な抗生物質の使用方法を考えていかなければ、耐性菌が蔓延し、結局は自分の首を絞めることになりかねないと思います。

 昔から「風邪は万病の元」と言われ、私は、兎に角休養と栄養で風邪は治すもので、風邪を治す薬はないといわれて育っています。が、私よりも少し若い世代のお母さん達は、医者で処方される薬は飲むものだと信じています。医者の説明も、発熱時は抵抗力が低下し、他の菌が悪戯するのを予防するためだと言います。どれほどの確率かは分りませんが、確かに髄膜炎などの怖い病気を併発するのは知っています。問題は、風邪を引くたびに抗生剤をきっちり飲むことで多剤耐性菌を生み出し、抗生剤が効かなくなる厄介な病気にかかる可能性が将来強くなっても良いのかということを天秤に掛けているということです。

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 以前、極東ブログで紹介のあった「BBMに学ぶ医者にかかる決断、かからない決断―治療をためらうあなたは案外正しい(名郷直樹)」では、多剤耐性菌に限って書いてあるわけではありませんが、薬や医者に依存的である前に自分自身が病気とどう向き合うかとうい観点も含めて書いてある本です。

これくらい放っておいても大丈夫だよということであったり、治療をどんなに一生懸命したって、これくらいはうまくいかないよ、そんなことです。

 と、言い切っていますが、世界標準の医療データに基づいて提案されています。私の世代ではこの名郷さんが提唱することはその元から理解できますが、私よりも若い世代の方にとっては目から鱗が落ちるような新鮮さが得られるかと思います。

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