2010-07-28

極東ブログ[書評]「グーグル秘録(ケン・オーレッタ)」に思わず武者震い

 「グーグル秘録」なんて、いかにも読者の興味をそそるタイトルだと思った。それが謎めいた躍進を遂げているグーグル本体の生の取材を通して、声を絞り込んだ一語一句から構成されているというのだからわくわくした(参照)。
 書評を読む前にまず注文した。何故なら、極東ブログ紹介のこの手の本、つまり起業家達や企業の成功の軌跡を書いた本は全て「how to」や「know how 」ではなく、人を知り、その臭さみを知る面白さが読める本ばかりだからだ。
 そして、本書の内容であるGoogleという会社の形態の特徴や、Google化されるという言い方に置き換えられた社会の移り変わりにも興味を持ったが、それを地味な取材から浮き彫りにしたという著者の姿勢に感動したというのにもっと驚いた。著者を褒め称えて感動したなどという感想、今までに極東ブログに書かれていた記憶がない。

しかし、本書を読み終えた私は、そのことはそれほどすごいだとは思わない。すごいと思ったのは、本書の存在だ。著者オーレッタ氏がこの本のためにした地味なそして膨大な取材だ。この本の大半は、人間に直に合って話を聞くという人間臭い作業の地味で膨大な繰り返しから成り立っている。原注には裏付けとなる発言の日時がいちいち記されている。
 この本は、一人のジャーナリストが、"Google it"を横目に、ただ人間的な知性によって成し遂げた作業の集積であり、Google的な知識に立ち向かうジャーナリストの挑戦でもある。Googleによってジャーナリズムの息の根が止まるといわれても、ジャーナリストはそれに立ち向かうことができるという挑戦の証でもある。

 「ジャーナリズムの息の根が止まる」というのは、もはや業界では誰もが危機として抱いていることであるし、その本元になっているGoogleにメスでも入れるかのような変な興味を持つような人も多いだろうと思う。いわゆる「叩く」ような。この業界のみならず、競争に敗れ、新規企業の参入に追い越されて片方では滅して行く運命を背負っているわけだ。挑戦の証として十分読み応えに耐える内容なのだということは読む前から想像できるし、それがこの本を読みたいという興味に変わった。
 こんなにちっぽけな私でも、ある種の敗北感が潜んでいて、その部分にある意味刺激を受けるのもよいものだと思っている。夢のような躍進を遂げた大会社の礎となった一人一人の人間ドラマを垣間見ることの方が、会社自体がどれほど優秀かを知るよりも遥かに興味が向く部分だ。
 また、もう一つの魅力になったのは、ジャーナリストである著者の使命感だ。

 もう一つ感動したことは、Googleが、"Don't be evil" (悪をなすな)というとき、私たちの市民社会がそれをどのように信じるのかという水準を、本書によってジャーナリズムが明確に示したことだ。著者オーレッタ氏がGoogleに突きつけたのは市民社会の公正な視線であった。本書は当初、Googleをターゲットにしていたわけではなかった。メディアの行く末を模索することだった。

 これは、ジャーナリストのプロ魂ということに尽きるのだと思う。対象がGoogleでなくてもよかったとしながらもGoogleを選んだ理由に、Googleが最初は協力を拒んだことにきっかけがあるというのもGoogle泣かせな事だ。Googleも襟を正して、逆に自分達の存在に使命感を持つべきだ、と学んだのではないだろうか。正にそれがジャーナリストの仕事だと思う。思うにこのような場合、当事者は仕込みの段階が本気の勝負のようなところがあって、出来上がったものはカスという感覚で残る。私達読者は、そのカスの部分を楽しませてもらうということかもしれない。クリエーティブな仕事というのは、そういう場合が多い。
 そういえば、安っぽい嘘っぱちなジャーナリストの名前が浮かんだ。最近、筋金入りの惚れ惚れするような姿勢を持ったジャーナリストを見かけない。若かりし頃ならしたというジャーナリストは高齢化して角が取れて丸くなり、後続の卵を育てる側に回っていっているようにも見るし、テレビや週刊誌などで売れていそうな若手ジャーナリストは、謙虚さがなく人の話も聞けずして、社会の出っ張りを突き回るだけの浮き草家業のように見える。
 嗚呼、なんだか久しぶりに本物に触れることができるのではないかという気がしてきた。
 本が届くのが楽しみだ。

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