2010-01-05

「たった2つ!の生地で作れるパン」相原一吉のパンのこと:小さなサイズの角パン三種:引き継がれるパンとは、誰もが作れて美味しいパン

たった2つ!の生地で作れるパン―発酵は冷蔵庫におまかせ

 これまでパンの話はし尽くしたと思っていましたが、ここへきてとても感激的なパンの作り方に出会い、その最初の元となった「たった2つ!の生地で作れるパン」相原一吉氏の本に触れて書いておきたいと思います。
 「冷蔵圧力発酵」という方法(参照☛)が、その方法で、これまでにも冷蔵庫で寝かすパン生地は、イーストの発酵を遅らせて小麦の熟成をゆっくりすることで、小麦粉に風味をつける事は既に知っていました。グルテンのないライ麦粉のパンを膨らましてパンにするには、ライ麦粉と水を何度も練り合わせて熟成させ、それが発酵してイーストを生み出します。それがパンの原点だと本で知り、小麦粉でも同様の種を起こした時、パンの風味が大変よく、美味しいパンが出来た時から天然酵母パン作りを始めたのでした。このような自家製のパンの種を各家庭で持つアイルランドでこの事を知っていたというのも、何かの引き合わせのように思います。

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 さて、早速レシピの通りに生地を仕込んで焼いてみたことをお話します。
 初めての試みでは、慣れた手つきや経験がある意味邪魔をすることがあるので、そこを白紙に戻して、何度となく生地のふくらみ加減や袋などがもしや破裂していないかなどをチェックしながら作業しました。途中で、このパン焼き方法に慣れれば、すごく楽チンになるのは目に見えていました。この作り方の簡単さは、天然酵母に気配りする比ではないのです。そして、ここで「簡単」と表現するのは、著者に対して失礼になるのだろうし、控えるべきだと思うのです。その言葉だけが独り歩きするのは困るのです。何故か。それは、小麦粉のことを熟知され、年月をかけてこの方法が生まれたのだろうと察するからです。
 そもそも、著者の紹介欄によると故宮川敏子さん(洋菓子研究家)の助手だったそうです。しかも男性で、私よりちょっと年上のおじ様です。宮川さんの遺志をついで菓子作りの研究をされ、この本を発表されるに至ったそうです。あまり詳しくは書いていないのですが、すごく興味深い部分です。こう、何と言うか実を結ぶ形というのが、この本に現れていることなのだろうと感じます。ですから、速く焼けるパンの本ではない、でも、そうなる裏づけに納得できる方法です。
 一応、レシピとしての分量も表示されていますが、いい本だと思ったのは、パンの焼き上がりの姿を目指せるように、色や生地の張りなどに気を置いて書いてあることです。レシピ本にありがちな、「分量の通りにやっても同じようにできない」という結果にならないような配慮だと思います。分量を明記する当たり前が、実は微妙に不親切になる可能性を含んでいるというのはよくわかります。書き方は、その辺がむしろ読者を「作り手」にしてしまう魅力的な部分だと思います。ご本人が書いたのかどうか分からない本というのはよくありますが、本書は、著者ご本人によって書かれたのではないかと思います。
 さて、昨日仕込んだ生地は、いきなりアレンジです。「2つ!の」のうちのリーンなパンをアレンジしました。基本は、シンプルに小麦粉と塩とドライイーストだけという材料で、トッピングは上新粉です。変更部分は、荒挽きのライ麦粉を小麦粉(400g)の10%(40g)加え、表面にはポピーシード(ケシの種)白、黒と蕎麦粉の三種類をトッピングです。出来上がったら、可愛いハリネズミのようですが、実は、我が家のハムスター君サイズの9cmです。
 ▶360gの強力粉ライ麦粉40g、塩とドライイーストを混ぜて240㏄(粉の60%)のぬるま湯で15分ほど捏ねます。これをレジ袋に封じ込めて、紐で両端を結び、この大きさよりも生地が膨らまないように固定します。これが私が感激した部分です。発酵しながらガスを発生して熟成する生地を狭い場所に閉じ込めることで、生地を捏ねる作業で引き伸ばしたり叩いたりする代わりの役目を果たしてくれるのです。

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▶出来上がりの生地の重さは640gですから、これを16個(一個約40g)に等分して、一度丸めてから少し休ませます(ベンチタイム)。▶成型は、生地を手前から向こうへと麺棒でのばして5cm×7cm(アバウトでよろしい)の楕円にのばします。▶手前1/3をたたんで両端を押さえ、残っている生地を被せるように閉じて指先で綴じ目を押さえます。▶表面を霧吹きで湿らせ、お皿に出したポピーシードを押さえつけて二次発酵します。

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▶生地が1.5~2倍くらいに膨らんだらはさみを斜めに当てて切り込みを作ります。この切り込みは、パンが均一に丸く膨らむように逃げ場を作るという意図と、先端部分の薄くなった生地が焦げるので香ばしく焼けるのです。

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 今回は230度で17分焼きました。本によると「230度~250度で13分」とあるのですが、こういう表現をどう判断するか一番悩むと思います。出来上がりの焼き色を自分で判断する目安ではありますが、オーブンの癖もあります。こういう部分はパンを焼く条件にもよるので、固定できないのです。焼く時間の長さと温度の加減は、自分で判断する他ないのが手作りの面白さなのです。決して困る部分ではないのです。
 肝心のパンの風味ですが、期待以上でした。それに、生地のきめが縦に裂けるように剥がれてくるので、最高の出来栄えです。このような生地がパン作りの理想とされています。確かにしっとりとして弾力があります。

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 風味豊かなパン作りで気をつけたいことは、小麦粉をよく熟成させる事です。それには、小麦粉に含まれているタンパク質(グルテン)を引き出すための水分を与えて十分捏ね、発酵させます。膨らむ理屈は、イースト菌によるガスをその生地に含ませ、熱によるガスの膨張がパンを膨らまします。通常、イーストの発酵温度はわりと高目で、40度前後まで耐熱します。適温であれば60分で発酵が完了するくらいなので、速さがイースト菌の良さではあります。が、そのため、小麦粉の熟成が追いつかず、風味のないパンになったりする原因になります。

 私もそのとおりだと思い、ですから面倒でも天然酵母で時間を掛けた熟成方法を取り入れていました。が、その常識は、今回のイースト菌による「低温圧力長期熟成」との出会いで覆されました。
 本書には伸ばすだけの成形や、切り分ける方式も紹介していますので、リッチなパンとリーンなパンの二種類の生地で作れる色々なパターンのパンにきっと目を見張ることでしょう。また、男性が作るパンというのも、ある意味主婦を刺激するものがあると思いますし、男性にとっても目指す姿として、挑戦する相手に不足はないことでしょう。
 ここにこっそり、一枚の画像があります(参照)。ブリオシュ生地を分割して丸め、リング型に並べる手間をざっと削って、おそらく大きなドーナツ型に形どった生地をいきなりシフォン型に埋め込むようにして焼いたのではないかと想像します。“究極の手抜き技”だと思いませんか。でも、何故かその発想と、このパンを作りながらそこに工夫を凝らしている姿を想像すると、恐ろしいほどに頭を使ったか、持って生まれた天性のようなもののなせる技なのか、そういうものを感じて敬服です。実は本書を薦めてくれたご本人の作なのです。
 また、このように、作り手を本来の自由な世界に案内してくれるような、そんな魅力がこの本にはあるのかもしれません。

材料(生地)

  • 国産強力粉・・400g
  • ドライイースト・・4g
  • 塩・・4g

その他の材料

  • 人肌のぬるま湯・・240㏄
  • ポピーシード白黒・・各大さじ1
  • 蕎麦粉・・大さじ1
  • レジ袋・・1枚(本書には三重とありますが、厚手のを1枚使用)
  • 紐・・20㎝×2本

作り方

  1. 材料を混ぜてしばらく捏ね、表面が滑らかになったらレジ袋の底を紐で結び、丸めた生地を入れる。
  2. きっちりと上部を紐で結んで冷蔵庫に12時間以上置いて一次発酵させる。
  3. 出来上がった生地のガスを抜いて16個に分割し、丸めて15分ほど休ませる。生地を残すときには、再び同じように紐で結んで冷蔵庫に戻す。
  4. 成型した生地の綴じ目のない方を霧吹きで濡らし、皿に取ったトッピングに押さえつけてからオーブンシートに並べ、生地が1.5~2倍に膨らむまで乾燥しないように、布を被せた上をビニールで覆って二次発酵させる。
  5. 二次発酵が終了したら、斜めにはさみを入れて1cmほどの切込みを入れて、さらに霧吹きで生地を湿らす。フランスパン生地に近い状態の、表面が固いパンができます。
  6. 230度に予熱したオーブンで、焼き色が付くまで(約17分)焼いて出来上がり♪

焼き方が良い時は、オーブンから取り出したときにプチプチと可愛い音を立てます

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