2010-01-09

きざみメカブ:女将さん、お元気ですか

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Img_wakame  春先が旬だと思っていたメカブですが、もう魚屋さんに並んでいました。
若布の根元に育つ、粘りのある部分のことです。最近では、直ぐに食べられる状態に加工されて、パック詰めで売っています。粘りのあるもの同士、納豆などと同じ棚によく見かけますね。私も時々このパックの恩恵に与るのですが、やはり旬になったら磯の香りたっぷりのメカブの美味しさを満喫したいです。待ちきれなかった思いのまま買い込んでしまうと、きざむ時には延々とその作業に縛られますが、その甲斐もあって、ご飯の時は至福の至です。そのままお醤油で味付けしても良いし、納豆や長いもなどの粘りのあるものと混ぜてみたり、酢の物にしたりと食べ方は色々です。
 実は、このメカブも、茹でた後なら冷凍して保存できます。むしろ冷凍で固いうちに包丁で叩いて細かくすると作業性が良いのです。旬の味をそのまま閉じ込めて保存できるのは、好きな人にとっては後々楽しめてありがたいことです。

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 特別なレシピの紹介というわけではありませんが、旬を味わってほしいと思うものです。街で見かけたら一度はトントンと叩いてみてはどうでしょう。そのためにの準備も整えてから始めるとよいと思います。
 用意したらよい道具は、できれば出刃包丁のような重たい包丁を二丁、よく研いである物がよいです。包丁の重さで軽く振り下ろすだけでメカブがどんどん切れていきます。これが軽くて切れない包丁だとまったく刻むことが出来ませんので、是非研ぎ澄ました包丁を用意してください。
 メカブの中心の固い茎は食べなれないので、包丁を立てるように茎に沿わせながらメカブの葉を削ぎ取ります。鍋にたっぷりのお湯をたぎらせ、メカブの色が鮮やかな緑色になるまで茹でます。引き上げたメカブは、色止めのため、直ぐに冷水に取ります。ここで既にどろっとした粘りのある状態になるので、水分をよく切ってまな板に乗せます。最初は少しずつ切り崩して行きますが、だんだん包丁を振り下ろすようにしてチョップします。細かくすればするほど食感がなめらかになるので、好みのきめになるまで叩きます。

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 メカブに愛着がある私ですが、これにはエピソードがあります。たいしたことではないのですけど、メカブが出回る時期には、同時にいつも思い出すことです。
 四年前の春、長男が秋田の高校に入学することになり、入学式に出るために700km近い道のりをひたすら運転して北上した時は、随分と遠くへ行ってしまったものだと思いました。
 息子は、一週間ほど前に、既に荷物と一緒に下宿でお世話になっていて、たったの一週間だというのに、何だか久々の再会のような楽しみな気持ちでした。合格後、制服の新調や日用品の買い物に訪れたばかりの能代が、まるで我がホームタウンというほど身近に感じられました。
 その時の私の宿泊先は、ネットで調べて見つけた、アットホームで尚且つあまり新しくない宿です。私は、新しいホテルなどはあまり好きではないので、わざわざ古いところを見つけるのですが、着いてみると、こちらの畠山旅館が大当り。お値段もかなり安いのですが、それよりも、食事が驚くほど豪華なのです。夕食は、魚、牛肉、豚肉、鶏肉を使った一品料理が必ず全品揃っていて、朝食には八品おかずがつくのです。いつも食べきれないと言っては、残せない性分なので完食です。出来合いのものを一切使わず、秋田地方の食材をふんだんに使っての田舎料理です。ここでも相当量の食材や料理を紹介できたのも、この旅館で頂いたり教えてもらったからです。
 女将さんは、リュウマチを患っているので、動作が不自由で痛々しく見えました。また、大変気さくな方なので直ぐに親しくなり、食事のあとの食器の片付けなども、最後の頃には一緒に食器洗いをするほどに仲良くなったのです。
 入学式の朝は、早くからまな板を叩く歯切れの良い音が聞こえて、それで目が覚めた時のことです。まだ覚醒しない薄ぼんやりした意識の中にだんだんはっきりとした音として聞こえ始めて、それが階下の台所からの音だと分かった時に、なんとも懐かしいまな板の響く音でした。しかし、早朝からトントン鳴り響く音は、10分以上も続いたでしょうか、それが何の音なのか、食事の時にはその不思議だと思っていたことはすっかり忘れていました。
 朝食の時間に、食卓に出された一品に、鮮やかな緑色のメカブを目にした時、あの延々と続いた音がこの一皿のためだったのかと繋がった時、本当に嬉しかったです。細かく不揃いな形に切り刻まれたメカブの一片一片を真っ白なご飯の上に感じたとき、まな板の前に立ちっぱなしでトントン刻む女将さんの姿を想像してありがたい思いがこみ上げてきました。
 それ以来、春のこの時期になると、メカブの磯の香りと鮮やかな緑色が懐かしい一品として我が家の食卓にも並ぶようになりました。そして、まな板に向かってトントンする時、あの時能代でご飯の上に乗っていたメカブの大きさはこれくらいだっただろうか、と、想像しながら眺めたりします。覚えていないだけで、私が幼い頃もこんな光景があったのかもしれないと、思い出そうとするのですけど、記憶に残るというようなことではないのかもしれませんね。そのような事に頓着しなかったのかもしれません。

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コメント

いつも楽しく拝見しております。
メカブ!私も愛着・エピソードのある大好きな食材なので思わず投稿せていただきました。

大学までメカブというものを知らなかったのですが、付き合っていた彼氏さん(岩手出身の現在の旦那様)から「メカブ汁」(メカブの味噌汁)が食べたい!とのリクエストを受け、彼ママから教えていただいたのです。
親切丁寧な作り方が記載された手紙を頂いた上、ご夫妻が彼氏さんの家に遊びに来た際にご馳走して頂き、美味しさと優しさに感動でした。

メカブ汁、美味しいので是非作ってみてください↓。
メカブ汁の作り方。
①生のメカブをトントン細かく刻む(細長くても微塵でもよく、ツルツルと食べやすいサイズにする)
②具を入れない味噌汁を用意する(煮干し出汁が合います)
③温かい状態の②に①を入れる(お写真のように鮮やかな緑色に変わります)
④刻んだ紫蘇を散らして出来上がり。

ちなみに旦那さまはメカブ汁をご飯にぶっかける食べ方が大好きです。

投稿: Lalique-ma | 2010-01-09 12:52

Lalique-maさん、メカブ汁のレシピをありがとう。

岩手でしたか。東北の食べ方は何ともホッとする家庭的な温かいものを感じます。そういうことが料理を通して伝播するのでしょうね。
次回、早速作ってみます。
 

投稿: ゴッドマー | 2010-01-09 14:04

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