鶏胸肉でテケレツのオッパッパ(カツレツ風):久しぶりに手にした本から思うこと
この料理名は、今は亡き秋山千代さんが幼少の頃、彼女の叔母さんが作ってくれたフライ料理の呼び名で、豚こま肉と玉葱の繋ぎに小麦と卵を使ってパン粉をまぶして揚げるだけの簡単な料理のことです(参照☛)。
100年から昔の揚げ物ということは、明治維新後、欧米からの文化の影響で生まれた料理ですから、当時としても「ハイカラ」な食べ物であったことは千代さんの語りの中にもあります。カツレツもどきの料理だというので、当時歌われていた川上音次郎の「オッペケペ節」の合いの手で「オッペケペッポペッポッポ♪」をもじったのではないかと話しています。ユーモラスで料理の上手の叔母さんの料理をする姿を見ていて学んだそうで、千代さんが5歳の頃覚えたそうです。
テケレツはカツレツもどきだという言われは、何を隠そう嵩増しマジックなんです。始めに書きましたように小麦粉と卵をと肉、しかも豚こまを混ぜてカツに見立てるわけです。肉屋さんに言わせると、豚こま肉という部位もそう呼ぶ加工の仕方も実は無く、単に精肉で出る豚肉の半端や端の部分のこま切れだから豚こまと呼ぶのだそうです。当時は庶民の食べ物として、肉は高級な食べ物だったので、豚こまでも立派な肉ですからこの料理自体がおご馳走だったのでしょう。
余談はまた後ほどにして、本題です。
今回は、豚ではなく鶏の胸肉でこのテケレツを作りました。これには理由があって、買い置きの胸肉を使い切りたいと思い、献立を考えているうちにそのまま揚げると水分が飛んで硬くなる上、冷めると悲惨だということからきっかけを持ちました。私のこれまでの取り組みから、胸肉をジューシーで柔らかく料理する方法はいくらでもあります。ですが、胸肉を薄くスライスして成型するというのはあまり考えつきませんでした。テケレツと同じような感覚で、肉を薄くスライスして混ぜることで、玉葱や繋ぎの小麦粉との間に空気を含むので食感がソフトです。しかも、衣で閉じ込めていますので、蒸し焼きの原理と同じです。豚こまならぬ鶏胸ですが、揚げてしまうと全く区別がつきません。これぞ誤魔化し料理なのですが、この揚げ方は、衣がことのほかさくさくで美味しいのです。兎に角、衣がとても元気なのです。
肝心なことを忘れるところでした。揚げる前工程の成型と粉付けや卵通しは一
切しません。材料を混ぜ合わせたら適当な大きさにボールで分け、その塊ごとパン粉の中に入れ、不恰好なままパン粉をまぶしてからちょっと形を整えるだけです。忙しい人向きのレシピに間違いありません。また、今回はフライパンで少し多めの油で両面揚げ焼きのようにしましたので、これも時間短縮です。
また、Heinzのケッチャップは、酸味のインパクトが強く、甘さ控えめでさっぱりとしています。意外な美味しさでした。
材料
- 鶏胸肉・・250g
- 玉葱・・半分(180g)
- 塩・・小さじ1
- 胡椒・・適宜
- パン粉・・カップ1
- 揚げ油・・適宜
つなぎ
- 卵1個と水・・75cc(卵は60gの特大)
- 小麦粉・・150g
作り方
- 玉葱は半分に切って、繊維に平行に5mm幅に切る。
- 鶏の胸肉は皮を剥ぎ取り、繊維に逆らうようにできるだけ薄くそぎ切りにし、3~4cmの一口大に切る。
- 大き目のボールで2の鶏肉と玉葱、塩、胡椒を加えて混ぜ合わせ、分量の小麦粉を全体に絡ませてから解き卵でまとめる。
- 3を目安で6等分し、ボールに入れたパン粉に落として全体にパン粉をまぶす。
- 手で押さえて平らに丸く形を整え、バットに並べて30分程冷蔵庫でねかしてパン粉を落ち着かせる。
- フライパンに多めの油(水溜りのような感じ)を引いて中火に掛け、5を並べ、中央に水分が滲むような感じになったら裏返し、両面に焼き色を付ける。(全体が一回り縮んで中央化がコンモリ盛り上がる感じになったらOK)♪
【お弁当例】
***
小林 カツ代さんがきっかけを得て、秋山千代さんの手料理食べたさに四回訪問した折に、千代さんからお料理の話や昔話を聞いては書き留めたメモが、この本になったそうです。この本に出会ってから私は、しっかりと出汁を取ることや無駄に砂糖を加えて甘くするのではなく、酒を使うコツなどのアドバイスに忠実になりました。その結果、ここで紹介するレシピでも、鶏がら出汁や鰹、昆布の出汁を頻繁に使用するようになりました。
私の友人もここを見て料理に取り組んでいるそうで、いくばかでも役立っていると思うと張り合いです。そういう話を身近に聞くと、千代さんの語りを書き下ろしたこの本を参考に、私がレシピをお借りしてここで公開することは、小林カツ代さんに変わって広めているような、恐れ多くも担い手のような気分です。
いい本です。この本からは、時代と人の心が伝わってきます。テケレツノのオッパッパは、この本の冒頭に出てきますが、千代さんが5歳で見よう見まねで覚えた料理です。5歳です。5歳の子どもにして、千代さんに特別な能力があったのかどうかは定かではありませんが、私の亡くなった祖母も千代さんのような感じの人でした。昔の女性は賢かったのだと、あまり違和感無くスーッと入ってきます。考えてみると、生活の知恵が沢山詰まった話や、不器用なことをしている時などは、祖母は直ぐに自分でやって見せてくれたものです。
積んである本の中からふと取り出して久しぶりに開いたのですが、つらつら読んでいるうちにまた少しほっこり癒されました。それというのも、時代がこうも変わってくると、育ち盛りにすり込まれた風景が浮かんで懐かしむのが心地よいということです。そういう記憶の中での私は当時のままの姿で、断片的に出てくる祖母との会話は生々しく再現されます。
引き込まれるような本に出会うというのは、そう頻繁に起こることではなく、何かの節目のような折にばったり出会うような感じがあります。読書というのは楽しいのですが、自分のためにこの本はあるのだと思えるような、そういう瞬間は少ないです。人との出会いも同じかもしれませんね。
地域の温泉に行けば、私の年は少しスライドアップしますが、世代の違うお婆様との会話があります。地元料理を教えてもらったり畑の情報交換ができるのは、恵まれた環境なのだとつくづく思いました。
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コメント
料理が苦手な私ですがこの本を見てみたくなりました
godmotherさんのページを見てると楽しそうに思えるのに いざ自分でっとなると 「う」っとなる(笑)
自分があれこれ食べたいと思わないのも一つかもと言い訳を^^
でも毎日こんなのが食卓にあがったらそれは幸せやと思うからやっぱ 言い訳でーす。
食べる物は大切だと頭では分かってるのにな~
投稿: ちいこ | 2009-11-19 00:33
ちいこさん、この本は、お婆ちゃんとおばさんの投げ合い的な会話の展開で、聞き取ったままを書き下ろした本なので、想像の中で目の前でまるで自分が千代さんと会話しているような錯覚を覚えます。楽しい本ですよ。
千代さんの話を知ったら、料理に対しての感じ方が変わるかもしれませんね。是非読んでみては?
投稿: ゴッドマー | 2009-11-19 03:29
これ、いいですね。
胸肉をいかにジューシーにおいしくいただくか。
いろいろ試していますが、今のところ、蒸してサラダとそぎ切りにした胸肉を下味つけて、片栗粉まぶしてさっと揚げ、それを野菜と甘酢あんかけにしたり、オイスターソースで中華風のいためものにしたりする2パターンだけでした。
よし、この『テケレツ』やってみます。
投稿: みみこ | 2009-11-19 16:22
みみこさん、ツーパターンでもなかなかそれ美味しそう。表面の味付けがポイントですね。私もそれやってみます^^
テケレツはいろいろな肉でできると思います。というか、魚のほぐした身などを入れても良いかも。鮭や鱈のテケレツ!
投稿: ゴッドマー | 2009-11-20 05:35
テケレツ、つくりました~。
家族にとっても好評で、定番メニューになりそうです。
食べ盛りに向けても、もってこいの献立ですね。
わたしもとてもいい気分です。
ありがとうございました。
投稿: みみこ | 2009-12-02 12:07
みみこさん、ご家族に好評で何よりでした。やはり昔の人の作るものは、誰もが美味しいと味わえる優しさが行き届いているのだと思います。
本来のレシピはご存知だと思いますが、リンク先の豚こまという切れ端のお肉を使用しています。アレンジもできて大変助かりますね。
いろいろで試してみると面白いと思います。
画像はリンクをつけてこちらで公開させてもらいました。賑やかになりました。ありがとう。
投稿: ゴッドマー | 2009-12-02 15:04