蟹という食べ物は贅沢品というイメージが強く、確かに今までは高価でしたが、ここ数年、中には手ごろな値段のものもがかなり出回ってきていると思います。
いつだったか少し前のNHK番組で、蟹漁から食卓までの流通を放送していたことがあります。その内容は、店頭までの流通と蟹の鮮度の問題などを抱える業界の販売戦線の実態などでした。その番組の後、なんとなく食べたいなぁとぼんやり思ってはいましたので、最近の蟹はどんな感じかとつい興味本位で買ってみました。興味があったのは、冷凍の蟹です。
これは、番組で商品を紹介していたわけではないのですが、蟹業界の難しさは鮮度だということがクローズアップされていて、その維持管理費は膨大だという点と、それだけ経費をかけることと客を満足させるだけの商品管理のバランスが難しく、扱う業者が少ないそうです。蟹の捕獲量が少ないため高級食材と呼ばれているのだと思い込んでいましたが、それだけではなく維持管理費と人件費が、蟹の単価が高騰する理由になっているそうです。
話は飛びますが、私が生まれる少し前に発表された「蟹工船」小林多喜二の小説でも取り上げられるほど、昔から蟹漁ではいろいろな逸話を秘めていたようです。昔、この小説を読んだ頃は小説にあるような問題が実際本当なのかと信じたのですが、どうも後日談があるようです(参照➠)。
「脱獄王 白鳥由栄の証言」(斎藤充功)において、白鳥由栄は収監以前に働いていた蟹工船について「きつい仕事だったが、給金は三月(みつき)の一航海で、ゴールデンバット一箱が七銭の時代に三五〇円からもらって、そりゃぁ、お大尽様だった」
さて、現実に戻して。先日Twitterで蟹のことをつぶやいたら、Netで仕入れるにはリスクが高いので、現地の知人に頼んで品定めをしてもらったものを送ってもらうという反応がありました。うーむ、そうしたくなるのも分かる気がします。本来は、それは「仲買人」のような人の役割なのでしょう。何故当たり外れがあるのか?って、それは業者の職業意識の問題でしかないと思います。また、「リスクが高い」という表現も、けして安価なものではない故支払う代金と相応で、一般的に納得のいく、ないしは期待以上の商品であればさらに嬉しいという気持の表れだと思います。
どんなに安くても、落ち蟹(おちがに=死んでしまった蟹)や「べちゃ」と呼ばれる、身がべちゃべちゃして崩れかけたような身の蟹(死んだ後時間の経った蟹)だと分かっていたら買いません。素人でも分かることですが、蟹のそういったものはまずくて食べられないものです。では、値段が高かったらよいかというと、それも扱う業者にもよります。ただ、今までは、蟹の価格幅が広く、上には上があるので、高価と言えどもなんとなく適当なところで納得してしまったのもあると思います。
行きつけの魚屋でよく売っている生きた蟹(活蟹=かつがに)なら美味しいに決まっていると思って買ったことがあります。が、これも実は怪しい。捕獲した蟹を新鮮な海水と共に生け簀(いけす)に長く置くと、身がやせ細ってしまうのです。いくら生きている蟹でも、捕獲してから長生きしたものは身が痩せてしまっていただけません。
話は外れますが、浅蜊(あさり)や蛤(はまぐり)も同じです。これは、買ってきた貝を少し成長させてから食べようと思って実験したら、見事に身が痩せてしまって、蜆(しじみ)のようになった経験があります。やれやれでした。
何故、こんなに蟹のことに拘っているんでしょう。
ああ、思い出しました。暮れの準備として美味しい蟹にありつくための下調べをしていたのでした。結論は、蟹の目利きがいる信頼出来るお店を見つけることに尽きると思います。ということは、うーん、またしても今年は格安で美味しい蟹にはありつけそうもないじゃありませんか。
蟹に関しては売り手市場だというのは何年も変わりのない状況だと思います。が、考えようによってはどうかなと、今の日本の緩やかなデフレ状態をインフレに戻すには(景気の回復)、と考えてみました。
物がどんどん値下がりするというのがデフレーションの特徴ですが、デフレスパイラルというのは、商品価格を下げると利益が薄くなり、労働者への賃金が払いにくくなるので、労働者は給料が減ったり職を失います。すると消費生活を切り詰めるのでさらに物を買わなくなる、という悪循環を繰り返す状態のことをいいます。ですから蟹をここに置き換えると、価格的に安くなっても、私達には買えなくなり、購買意欲がなくなるということを意味します。このスパイラルを断ち切るには、つまりどうしたら蟹を買いたくなるのか、消費者の購買意欲をかきたてて購買に至る動機がハッキリすると、多少お高いと感じても買うと思うのです。
さて、私だったら、例えばお正月に少々奮発して美味しい蟹を少しでよいから焼いて食べさせたいなぁと、実家に子ども達を連れて帰省する時のお土産にするとか。そういう時はお値段よりもまず、外れては困ります。兎に角、蟹には当たり外れのイメージが強くあるので、それを払拭するために商品にバラつきを出さない事です。そして、値段に格差があるとすれば、それは例えば足が無くなっているだとかの完全商品ではないもので、味は落とさないことです。なんだかここまで話すと、今の民主党と国民の信頼関係を話しているような気分になってきました。が、実際景気の良い時とは違うのですから、美味しくないものでも安く売れば買うという消費者を育てるのではなく、「そこは無理をしてでも買いたい」となるような購買意欲を擽る商品を職業意識(プロとして)の高い水準で商品化することではないかと思います。町の魚屋と主婦がコラボしてデフレを乗り切るとすれば、例えば蟹が美味しくてまた買いたくなるという循環を作ることかな。と。そして、消費者を裏切らないことです。変な助平根性を丸出しにしないことです。
めでたく蟹を購入した暁には、焼き蟹がお薦めです。しかも、つけダレお薦めするとしたら少し甘い味の付いた酢醤油が合うと思います。このような蟹用のタレを「蟹酢」といいます。
今回は、大きなズワイ蟹を一杯、食べやすく捌いた状態のを買いました。足は内側の柔らかい殻を削ぎとってあり、付け根の関節部分は二つに横にスライスしてあるので身が取り出しやすくなっています。卓上用のミニコンロで富貴鍋(ステンレス製の打ち出し風鍋)と、網焼きを同時進行でいただきました。また、鍋のあとには残った出汁で蟹雑炊を作りました。30gのアルコール固形燃料を使用しましたが、かなり持ちこたえるもので、焼き蟹は二巡した上、最後の雑炊まで作れました。
蟹酢の黄金比(単位:g)
醤油1:醸造酢2:砂糖1
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