野菜の天ぷら:「天ぷらの常識」は非常識
先日の手打ち蕎麦の時に作った天ぷらが気になったという方から、レシピのリクエストを頂きました。今まで、天ぷらのレシピは沢山書いてきたようなつもりになっていたので調べてみると、蕗の薹やかき揚げくらいですか、ここでは。そのレシピのURLをお知らせしようと思ったのですが、いい機会なので「天ぷらが 美味しく揚げられるには」を考えてみました。
さて、何が難しいのか、天ぷら。ネットでざっと見ても天ぷらの薀蓄を語るサイトは多く、どこも大体同じようなことを書いてます。こうなると私の出番なんて無いに等しいのですが、一点だけ全く違うことがありました。
今回のような薄い葉物の場合はどうでしょう。野菜類はどのサイトでも掲げる温度は160度と、低い設定が好ましいと説明しています。私はその野菜の種類や切り方にもよるなぁと思っているのと、必ずしも低温ではなく、今回は実際180度で揚げています。この違いは一体何かと不思議に思うので、「これが天ぷ
らだ!」という決定的なレシピが確かに欲しくなります。
この違いを以って、何故カラッとした天ぷらができるのかを考えてみましたが、厚みによる違いを思った時に、例えば茄子などは難しいです。小さく薄く切った茄子は、高温でも綺麗に揚がりますが、同じ温度で厚ぼったく切った茄子は、2~3分もすると衣がしんなりし
てしまいます。この違いで判断できるのは、茄子の水分量です。冷めると同時に茄子の水分が蒸気となって表面に出てくるからで、薄く切った方からは出てきま
せん。むしろカラッとしてポテトチップスのような感じです。これは、極端な例で実験したわけですが、要するに天ぷらというのは、材料の水分を放出させて旨
味を凝縮する料理法なのではないでしょうか。ただ、衣の食感が信条ですから、カラッとした軽い衣を残しつつネタの水分をできるだけ飛ばして、旨味を上手に
残していただくという、そういう繊細なお料理な訳です。そして、天ぷらの常識のように言われている「葉物は低温、他のものは高温」は、ほぼ逆ではないかという結論です。
【つる菜】
揚げ油の温度のことを理解した上で、では、衣はどうであったらべた付かないのかです。私は、満遍なく全体に絡むように粉を軽くつけてから衣をくぐらせます。方法はこれで上手く揚がるのですが、理屈はというと、まず、小麦粉の性質を知る必要があります。
水と熱という条件が揃うとアルファー化して(糊化(こか)と呼んで)糊(のり)の様な状態になります。しっかり結びつきあって粘りも出ます。衣の失敗はこれです。この状態にならないように、天ぷらの材料から出る蒸気が抜けるような衣を作るのが必須です。どのレシピにも大概「粘りを出さないように低い温度を保ち、尚且つかき混ぜないようにさっくりと混ぜ合わせる」と説明があります。これが、小麦粉の性質を熟知した結果ですね。
使用する粉はおのずと引きの少ない薄力粉を使用します。で、下地に粉がまぶしてあると、その粉が衣を誘って一瞬にして綺麗に衣が行き渡ります。材料をこねくり回して粘らせたりすることもありませんし、生地も緩めで、薄い衣がしっかり絡みます。
結局、ネタは薄く小さいに越した事はないですが、厚みがあって水分が多い場合は、逆に弱めの火加減でじっくり揚げるということになります。温度が高いと中に火が通る前に焦げてしまいそうになるので、早目に引き上げて失敗したという経験もあります。
一点だけ全く違うという理由から話が延びましたが、油の温度やネタの切り方などをどれほど詳しくレシピに書いたとしても、天ぷらという料理を成功させるその繊細さは、人が量って決められる範疇にないということだと思います。
結局、小麦粉の性質を理解した上で、観察力と判断力の向上ですか。茄子やさつま芋から揚がり具合の声が聞こえてくると嬉しいですね。
材料
- つる菜・・80g
- 椎茸・・4個
- モロッコインゲン・・10本
- 揚げ油・・適宜
- なるべく厚手の鍋(油の温度管理のため)
衣
- 小麦粉・・大さじ2
- 溶き卵・・大さじ2(同量の水)
- 振り粉・・小さじ2
作り方
- 椎茸意外の野菜を洗って水気を切り、水滴は布巾で吸い取る。
- 溶き卵と水をボールで混ぜ、小麦を加えてさっくり混ぜ、冷蔵庫で冷たくする。
- ボールに椎茸と1の野菜を小麦粉と一緒に入れて軽く上下を返して粉をまぶす。
- 揚げ油を高温(180度)に余熱し、2の衣に3をくぐらせ、少量ずつ揚げる。
※最初激しく気泡が出て、次第に音がしなくなってくれば、それは水分が飛んだサインなので引き上げて油を切る。逆に低温の場合は、最後に温度を上げて油切れをよくする。
【参考例】
| 固定リンク
| コメント (2)
| トラックバック (0)
最近のコメント